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【 ボルスタレス台車 その2 】 [鉄道]

 【 ボルスタレス台車 その2 】

その昔、やかましい場所の代表と言えば、地下鉄の車内でした。空港の近くの航空機騒音を示す場合、何ホンだの何デシベルだのと言われてもピンときませんが、地下鉄の車内に匹敵する騒音だといわれると、なるほど・・と納得したりします。

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しかし、その地下鉄が最近静かになりつつあるように思います。

東京の場合、銀座線、日比谷線、丸ノ内線などの古い路線はそこそこやかましいのですが、新しい路線はそれほどでもありません。昨年から、久しぶりに地下鉄通勤に戻ったオヒョウですが、なんだか電車の騒音が小さくなったような気がします。

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多分、それは気のせいではなく、多くの理由があると思います。

 

1. 新しい地下鉄ではカーブの曲率半径が大きいこと

初期の日本の地下鉄の多くは地上の路面電車の代わりに建設されました。撤去される路面電車と同じルートを通り、工事方法は道路を掘り返して掘削する工法でした。当然、交差点では曲率の大きい(つまり曲率半径が小さい)カーブが必要になります。その急カーブを通過する際、車輪のつば(フランジ)がレールをこすり、耳障りなキーキー音がします。

 

しかし、新しい地下鉄は古い地下鉄と交差するため、より深い地中を通ります。工事方法はシールド工法で、地上の道路とは無関係に路線を引きます。その結果、カーブを緩くとれるようになり、カーブ走行時のキーキー音も減少したのです。

 

2. ロングレールの採用

まだ敷設区間は限られていますが、ロングレールを採用した区間は、走行音が静かです。レールの継ぎ目を超える際のガタゴト音が無いのです。地下鉄のトンネル内は、直射日光も当たらず、気温もそれほど変化がありませんから、ロングレールに適した環境です。

 

3. モーターの改良

かつての地下鉄は、直流モーターを二次抵抗で制御する方式でモーター音も大きく、走行もスムーズではありませんでした。現代の地下鉄はVVVF制御(一部はGTO制御)で加減速も滑らかで、静粛性も昔に比べて優っています。リニアモーターを使う都営大江戸線などは、モーターそのものも減速機も無くしてしまいました(その割には大江戸線はやかましいですが)。

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最新の銀座線1000系はさらに静粛性を追及します。

この電車が備えているボルスターは、一種のステアリング機能を持ち、カーブでは能動的に台車の向きを制御するのです。これによって、フランジがレールをこするキーキー音はさらに低減します。既に急カーブが多くある路線である銀座線でキーキー音を無くすには、この方法が有効なのですが、鉄道の台車でそこまでこるか?・・という思いがあります。

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鉄道は線路のレールに沿って動くしかないので、車両側が能動的に姿勢や向きを制御する必要性はありません。しかし、最新の技術は、能動的に車両を傾けたり、台車の向きを制御(つまり自動車のステアリングと同じです)します。

曲率の大きな線路でも高速で走行できる振子電車は、日本で開発され、世界中の高速電車に採用されましたが、最近の振子電車は受動的ではなく、能動的に、つまりカーブにかかると自分から傾きます。

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そして台車の向きをカーブに沿って動かし、内外輪差の問題を解消し、フランジとレールの摩擦音を解消する技術が新しい銀座線の電車1000系に導入されました。

これで車輪とレールは長寿命化し、省エネにもなり、何より乗客はキーキー音から解消されました。

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ところで、地下鉄と言えば・・・・・、30年以上前に、その温暖化が問題提起されました。 地球温暖化問題よりずっと前から、地下鉄トンネル内に熱がこもる問題が指摘されていたのです。

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地下鉄を動かす電気エネルギーは最終的に全て熱になります。モーターも発熱しますし、ブレーキも発熱します。モーターを発電機に切り替える回生ブレーキも以前は、抵抗器で発生する電気を熱に変えていました。 しかし、地下鉄のトンネル内の熱は出口が無く、中にこもります。

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新路線ができて間もない頃は、地下鉄は冬暖かくて、夏は涼しいという評判なのですが、開通後数年経つと、冬は生暖かく、夏は耐え難いほど暑い・・という事になります。 事実、年々地下鉄内の温度は上がっていったのです。これは日本だけではありません。

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世界で一番古いロンドンの地下鉄も暑くなっています。 その方が小動物には棲みやすいのか、ホームから線路の脇を走るドブネズミをしばしば見ました。なんだかペストにでも罹りそうな気がして、ドブネズミを見た日は一日気分が悪かったのを覚えています。

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ロンドンは冷涼な気候ですから、地下鉄に冷房はありません。しかし日本の鉄道には当たり前に冷房があります。 では、暑くなった地下鉄の電車に冷房を付けるべきか? 実は単純に思えるこの問題は、人によって回答が違うのです。

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世の中には、熱力学の入門者を惑わすへんてこな問題が幾つもあります。

 

例えば、「気温が人間の体温より高くなるインドの夏では、おしくらまんじゅうをした方が涼しくなる・・という話は本当か否か?」という問題があります。

熱力学の法則を知らない人は、答えに一瞬迷うかも知れません。仮に熱力学を知っていても、冶金の熱力学では役に立ちませんから、やっぱり答えに迷うでしょう。

それ以外に、おしくらまんじゅうの問題の派生系として、「地下鉄の電車ではクーラーをかけた方が涼しくなるか、暑くなるか?」という問題があります。

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実はヒートポンプ以外のクーラーでは、室内を涼しくする以上に、室外を暑くします。

(正確には、室内で吸収される熱量以上の熱量を外に排出すると言えます)。

つまり、地下鉄の電車の車内を暑くする一方でトンネルの中を暑くするのです。

トンネル内の熱の逃げ場がなく、中にこもるのであれば、電車にクーラーを付けるのは長期的には逆効果になるという訳です。

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この熱力学的な問題は、地下鉄の問題として知られています。 しかし、当時、ある漫才師が地下鉄の電車はどこから入れるのか・・と考えて夜も眠れない・・と言うギャグを飛ばしたことから、地下鉄の問題とは、そちらを指すことになりました。

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では、エアコンを地下鉄に付けるのではなく、駅のホームなどに付け、トンネル全体を冷やし、熱は地上の大気に放出すべきだ・・という意見がでました。今でも大阪の地下鉄などではホームに大型のエアコンを装備した駅が多くあります。

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しかし、駅のホームにエアコンを付けて、トンネル全体を冷やすから、各車両にはクーラーを付けないでよいか?と言われれば、そうもいきません。

多くの地下鉄は、郊外で地上に出て、地上の私鉄などと相互乗り入れするのが普通になったからです。乗り入れする私鉄の電車の場合、地上を走っている時はエアコンをかけて、地下に潜ったらエアコンを止める・・というのは、なかなか乗客の理解を得られません。

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地下鉄の方の車両も地上区間を長距離走るとなると、エアコン無しでは殺生です。第一、ホームにいくら大型エアコンを付けても、トンネル全体を冷却するには全く非力で能力不足です。 結局地下鉄の電車も普通にエアコンを装備し、トンネル内でも普通にエアコンをかけるようになりました。

 

では、年々暑くなる地下鉄の温度をどうすればいいのか?実際にどう対処したのか?

それについては次号でご説明いたします。

 

 


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