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【 ボルスタレス台車 その3 】 [鉄道]

【 ボルスタレス台車 その3 】

 

かつて物理学者寺田寅彦は、コップ1杯の水の中に多くの物理現象が現れ、それらを勉強するだけで、多くの初等的な物理学が理解できると語っています。例えば、対流、蒸発、凝固、凝結、表面張力、アルキメデスの原理、光の屈折と反乱・・・数え上げたらきりがありません。

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同じように、地下鉄ひとつをみても、実に多くの工学的課題があるのです。

実際、たかが地下鉄ですが、そのシステム全体をみると、機械工学で扱う多くの科目が盛り込まれている事に気づきます。そして、その多くの科目で、銀座線1000系は先端を行くと言えます。

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前回、紹介した地下鉄の冷房をどうするか?という問題については、クーラーを電車に付けるか、駅のホームにつけるかという選択ではなく、回答は全く違うところにありました。 電車からの発熱そのものを減らすことが重要という結論であり、超省エネ型の車両を導入することが、本質的な解決策だったのです。

エアコンが発生する熱よりも、モーターが発生する熱量やブレーキで発生する熱量の方が問題であり、その発熱を防止したり、熱ではなく電力で回収することで、発熱を防止でき、地下鉄のトンネルを暑くしないで済むことになります。

これは、地下鉄温暖化の問題をクリアすると同時に、省エネを実現することでもあります。

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従来は、回生ブレーキで発生した電流を抵抗器で熱に変えて放散していたのですが、近年のタイプは架線に電流を返して、近くを走行する電車で使用する電力の足しにするのが普通です。最近の銀座線1000系では回生ブレーキで回収するエネルギーを

極限まで増やしています。

問題は、近くを走行する電車がなければ、回生ブレーキで回収した電力が無駄になることですが、それについては今後新しい技術が登場するはずです。

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銀座線の場合、モーターはIGBTの素子を用いたVVVFインバータ制御で高効率にしていますし、強力な永久磁石を用いた小型モーターは冷却の必要がなく、密閉して静かになっています。

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これは地下鉄の問題に限りません。 発熱を抑えることで、冷却の負担を減らし、省エネと温暖化防止を同時に達成するというのは、全ての省エネの王道です。しかし、この単純な理屈はなかなか理解されていません。 なぜなら効率的な冷却と、効率的な熱回収(つまり省エネ)は互いに矛盾するからです。

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製鉄所で高温の鋼塊に水をかけて冷却する仕事をしているとよく分かります。

効率よく冷却するには高速で大量の水をかけますが、得られるものは、湿った蒸気と温度の低い水です。そこからはエネルギーを回収できません。一方、エネルギーを回収するには、少量の水をかけ、乾いた蒸気と高温の水を回収しますが、それでは効率的かつ適切に鋼塊を冷やすことはできません。

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つまり効率的に冷却したり加熱することと、エネルギー回収効率を上げることは、相互に矛盾し、ジレンマとなります。 熱機関での本当の省エネ技術とは、そのジレンマの中でバランスを取ることです。その妥協点がないのなら、最初の熱発生を抑制するしかありません。

この省エネの要諦とも言うべき考え方は、世界的にみると、あまり理解されていないようです。 省エネとは、単に節約して消費量を減らすことや我慢すること、あるいは太陽光などの不安定な自然エネルギーに頼ることだ・・という発想が一般的で、熱機関の設計を最適化することこそ重要という考えは専門家にしかないようです。

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私が訪れた国で、一般市民の間で省エネについて適切な理解が得られているのは・・、日本の他ではドイツ、フランスそれから北欧のスェーデンぐらいです。

全くダメなのは米国、中国です。彼らは湯水のごとくエネルギー資源を浪費しています。 英国もだめな方に入ります。

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話を地下鉄に戻します。

では、既に暑くなってしまった古い地下鉄の冷房をどうするか?

私だったら、下記の2つの方法を提案します。

1. 回生ブレーキの電力を一時的に蓄える装置を適当な間隔に設置し、回生電力を有効活用する。

回生ブレーキで発電しても、近くにモーターを回している電車がなければ、その電力は無駄になります。 一時的にキャパシターという電力貯蔵設備に蓄えて、電車が接近したら放電すれば良いのです。距離的なギャップを時間的なギャップに置き換えればいいのです。電力貯蔵技術は近年急速に発展しています。

駅毎にリチウムイオンキャパシタあるいは、超電導の電力貯蔵設備SMESを用いることもできます(SMESではコスト的にペイしないかも知れませんが)

現在の乗り物は、ハイブリッドカーのように電力貯蔵用の電池を車両に積載しますが、これでは車両が重くなり、ペイロードが小さくなり、効率も悪くなります。

鉄道の場合、電池/電力貯蔵設備を外に置けるのが強みです。

2. 長期間に亘って温暖化してきたトンネル内の空気を冷却するには、大規模河川の水を利用します。

地下鉄網のある世界の大都市には、しばしば大きな河が流れています。

ロンドンのテムズ川、パリのセーヌ川、ニューヨークのハドソン川、東京の隅田川、モスクワのモスクワ川という具合で、大河川がないのは北京ぐらいです。

しかし、河の水をそのままトンネルに流す訳にはいきません。

河の下を通るトンネルから、川底の少し下の位置まで、何本ものヒートパイプを通すのです。それで浸水や冠水の問題なしに、熱交換できます。

実は河川工学では、明確な川底というものは定義できません。川底の砂礫の中も水が流れており、固相率70%くらいまでは、水流があると考えられます。

それをダルシー流れと言いますが、ヒートパイプの先端をダルシー流れが洗う形にすれば、トンネル内の空気は冷却されます。

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それでは地下鉄網の内、河と線路が交差する箇所だけしか冷却されないようですが、心配ありません。 トンネル内を電車が走行すれば、それがピストンになり、地下鉄網の中で空気を循環させ、全体を冷却してくれます。 電力も化石燃料もいらず、稼動部もない超省エネの冷却が可能になります。

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地下鉄は、理論的にはもっと省エネができるはずで、まだまだ改善の余地があります。 地下鉄の電車に乗りながら、いろいろな事を考えます。 乗客から省エネのアイデアを公募してはどうでしょうか? コンテストの形にして、優秀なアイデアには賞金を出してもいいかも知れません。

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おっと、話題が省エネの問題に集中しましたが、地下鉄の問題は他にもあります。もっと大きな問題は、安全性の問題です。 実は世界の地下鉄には、まだまだ危ない地下鉄が多いのです。 それについては、次号で管見を述べたいと思います。


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