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【 インターン・リターン 】 [雑学]

【 インターン・リターン 】

平成に入って廃れ行く徒弟教育について考えた時、外国ではどうだろうか?と思ったりします。 外国では徒弟教育の現状はどうなのか?しかし、日本と同じ制度、同じ仕組みが外国にある訳でもなく、比較は簡単ではありません。

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職人の社会的地位が高く、職人の技が重視されるドイツやスイスの場合、マイスター制度があり、職人を育て上げていくシステムがあります。しかしこの制度はかなり日本の職人養成教育とは違います。 確かに徒弟として仕事をする期間もありますが、学校で専門教育を受ける期間もあり、最後に試験を受けて合格することが、重要な目的となります。 親方からマンツーマンの教育も受けますが、マイスター教育の基盤になるのは、職人組合です。 どうも日本の古典的な徒弟教育とは違います。 ただ日本と同様、ドイツのマイスター制度も現代社会には合わず、抜本的な見直しを迫られています。

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脱線しますが、中国の人は全ての産業分野でドイツの技術やクラフトマンシップを尊敬し、真似しています。対象となる分野は、自動車や高速鉄道、航空機から、果てはワイン、ビール、衛生陶器にいたるまでです。しかし、肝心のマイスター制度や職人を尊敬する風土を導入しないため、「鵜の真似をする烏水に溺る」状態になっています。

ブランドはドイツブランドでも中国製はねぇ・・という状況です。

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マイスター以外の徒弟教育制度・・といえば、インターン制度を思い出します。そこで今回はインターン制度を考えます。

日本では、戦後、長く医師の養成システムとしてインターン制度があり、無給の研修医の事をインターンと呼んでいましたが、1968年に廃止になりました。インターンを教育する指導医師(職人の世界では親方)のことをオーベンと呼びますが、このドイツ語由来の言葉はまだ残っています。

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1969年を頂点に、日本で活発化した大学紛争のきっかけは、実は東大医学部の医局で発生した揉め事です。あるインターンが、濡れ衣によって医局を追放されることになり、それに反発した学生、大学院生、インターン達が立ち上がったのです。若いけれど、学問を修めた一個の人格として尊重されるべき人物が、権力を持つ大学教官に絶対服従を強いられ、生殺与奪の権利を持たれるとことを問題として提起した訳です。

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東大医学部を出た秀才中の秀才、エリート中のエリートでもインターン時代は、極めて不安定な身分しか保証されなかったのです。確かに理不尽な制度でした。現在も、研修医制度は残っていますが、有給のレジデント医となり、以前とはシステムが違います。

インターンと言えば、もうひとつ理容師の世界にもありました。こちらも親方(オーベンとは言いません)の下で理容師の修行をする仕組みでしたが、1998年に廃止になりました。

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医師と理容師、インターン制度が存在した2つの職種の共通点は何か?白衣を着て刃物を使う・・なんていうのではなく、下記の項目が該当します。

インターン制度が存在する5条件です。

1. 専門技術を求められる職業で、一定の技術/技能保証が無ければ、お客は安心できない。

2. 専門技能を身につけ、一人前になりたいという希望者が多く、買い手市場の職業である。

3.実地研修が重要で、座学で学習できない部分が多い。

4.資格所有者が顧客を独占する、一種のギルド型の職業組合がある。

5.先生に学ばない自己流には限界があり、どこかで行き詰まる仕事である。

上記の点に於いて、医師と理容師には共通点があり、両方にインターン制度があったのですが、その理不尽さがクローズアップされて廃止になったのです。

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問題は、インターン側の身分です。

インターンは、学習者であり、勉強して経験を積むことで、自己のレベルが上がるのだから、無給で当然、むしろ授業料を払ってもいい・・という考えがあります。一方で、研修生とはいえ、労働力を提供し、価値生産に従事しているのだから、当然労働の対価として報酬はもらうべき・・という考えがあります。

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どちらが正しいかは難しいところですが、真剣に修行するのなら、給料なんて関係ないはず・・・という考えの人は、インターン制度の廃止によって、理容師の技量が下がったのでは?と危惧します。 古典的な職人気質が喪失することを心配する人達です。 一方、医師の方はどうか?と言われると、答えに窮します。医師は職人ではないし、若手医師の能力が上がったか下がったかは、専門家でなければ判断できません。

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ただ、ひとつ言えることは、医学生が学ぶべき学問の知識の量は、一説では、過去20年で1.5倍になったと言われます。昔のインターンより、今のレジデントの方が遥かに多くの知識を持っているはずです。 この速度で増加すれば、早晩、学部時代と研修医時代に学習する知識だけで、医学部生の頭はパンクするはずです。古典的なインターン制度ではもはや対応できません。

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既にインターン制度は医師の世界でも理容師の世界でも過去のものになりましたが、今、別の職業分野で復活しようとしています。

例えば、弁理士・・。これは上記のインターン制度が存在する5条件の幾つかに該当します。近年、その数が急に増えた弁理士の世界は、専門知識を身につけたい希望者が多く、実績のある先輩の元で修行したい人が多いのです。

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おそらく、最近資格者が急に増えた他の専門職、弁護士や公認会計士でもインターン制度が始まるのではないか?と私は考えます。現在、イソ弁などと呼ばれる弁護士は、将来インターン弁護士に移行する可能性があります。

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たしかに希望者が多く、かつ高度な専門性を求められる職業については、インターン制度も適しているかも知れません。 それも時代の流れです。しかし、一般職でそれが始まると、労働のダンピング、雇用のデフレ化が始まるかも知れません。

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医師でも理容師でも弁理士でもない、一般の会社員について、インターン・シップの導入が始まっています。しかし、これは雇用側に都合の良い雇用契約の一種であり、低賃金で労働者を味見して、気に入らなければ不採用にするというものです。1968年に東大医学部で問題化したあの制度が、一般企業に帰ってきます。

まさにインターンのリターンです。

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この非正規雇用を格好良く言い換えた制度であるインターン・シップは、これまでも外国人労働者(研修生という名目の労働者輸入)で使われてきましたが、日本人の新卒者もその対象になり、正社員への関門化する可能性があります。

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雇用側は、インターン・シップは研修生にも仕事の内容を勉強・理解してもらういい機会と言いますが、果たしてどうか? 本来は、若い人たちがいろいろな職業を知り、職業選択の参考にするための機関として、さまざまな施設があったのですが、民主党政権の事業仕分けで全て仕分けされました。 今の若い人達が、大工になりたいとか、陶芸作家になりたいとか、漆塗り職人になりたい・・と思っても、どんな修行をすればいいのか分かりません。だから、インターン・シップを採用するということか・・。

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インターン制度を必要とする職人の世界では、その制度が廃れ、本来必要ではない、一般職やホワイトカラーにインターンが普及する・・。これでいいのだろうか?

日本も中国みたいになりゃしないだろうか?と心配します。

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あっ、言い忘れましたが、夏炉冬扇様のお嬢さんは大丈夫ですよ。菓子職人に徒弟教育やインターン制度が必要かどうかは私には分かりません。でも、お嬢さんの場合、プロの菓子職人の元で修行を積んでおられないかも知れないけれど、あの甘過ぎないイチジクのタルトの味は本物でした。 行き詰まることはないと信じます。

001s.jpg ベトナムの工場から見た近くの山です。


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夏炉冬扇

こんばんは。
わざわざのお励ましありがとうございます。
娘の場合、目の前でイートインしていただいて、じかに感想聴けるので「思い上がる」ことはないと思ってます。
しかし、お店のイロハで「苦労」してませんから。

岩田屋と西部ガスの教室に通ってますが「目からうろこ」のテクニックに出会うこと多々だそうです。


by 夏炉冬扇 (2013-01-02 18:37) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇様 コメントありがとうございます。

親方や師匠について学ばなければ、本物になれないのか? 独創的な仕事は師匠から教わるだけではだめではないのか? そのあたり、皆さん悩んで一人前になっていくのだと思います。 
自分自身について言えば、かつて師事した大学の先生はとうに他界され、当時、研究室の助手だった先生が教授になられ、今年、定年退職されます。
今思えば、師から何も学ばなかった不肖の弟子だったなあと30年前を思い出して反省するばかりです。 またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2013-01-02 19:33) 

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