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【 山下さんちの五つ子ちゃん 】 [雑学]

【 山下さんちの五つ子ちゃん 】

 

西川渉氏のブログ「航空の現代」を読んでいて、鹿児島市立病院が紹介されているのを見かけました。 本文中にもある通り、日本で初めて五つ子を無事出産し、育てた快挙の舞台になった病院です。

http://members2.jcom.home.ne.jp/nishikawaw/kagosima03.html

そうか、あれからもう36年も経つのか・・。あれは確かに快挙だった。鹿児島市立病院だけでなく日本の周産期医療の快挙と言うべきニュースだった・・。

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先日のブログで36年前のニューヨーク大停電でベビーブームがあったと書きましたが、同じ頃、日本の鹿児島では五つ子騒動だったのです。

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しかし、あの五つ子のニュースでは、実は私は不愉快かつ複雑な思いをしたのです。

ただ、当時、それを口にしても、多くの人からは同意を得られませんでした。おめでたいことをなぜ祝福せずに、ケチを付けるのだ・・と、オヒョウの人格の狭量さを指摘されたりもしたのですが・・・。

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NHK政治部の記者だった山下さん夫婦は、実家のある鹿児島での出産を希望し、五つ子は鹿児島市立病院で生まれました。 一時期、危険な状態になった子もいたのですが、医師団の懸命の努力で恢復し、やがて母子ともに安定した状態になりました。 メデタシメデタシなのですが、なぜか、それから五つ子は母親から引き離され、東京の日大板橋病院に運ばれます。

一体なぜ?

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一部のマスコミは未熟児医療の実績の乏しい、鹿児島市立病院ではなく、東京の大学病院の方が安心だから・・と言っていましたが、不可解です。五つ子は1000g以下の子もいる極小児でしたが、月満ちて生まれており、未熟児ではありません。

未熟児と極小児の違いを知らない朝日新聞に、東京移送の理由を求めても仕方ないのですが・・。

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五つ子の出産は、分娩前後の母体、新生児の容態については、未知のことが多く、周産期医療としては、医学的に非常に難しい課題だったと思われますが、生まれて一定期間が経った極小児の発育は、特別に珍しい事ではありません。 未熟児も極小児も、経験が無い訳ではなく、一人で生まれた赤ん坊も五つ子も同じことです。 無理して板橋に運ぶ理由は理解できません。 これは日大病院の売名ではないのか?

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鹿児島からの移動の前日、日大板橋病院からは、出迎えのための医師と、赤ん坊一人に一人の割合で5人の看護師(看護婦)が鹿児島入りし、当日は全日空のトライスター機で羽田に向かいました。

父親(山下氏)と祖母、それに看護師達にひとりずつ抱かれた赤ん坊が飛行機に搭乗するところがTVニュースで報道されました。 こんな新生児を、空気が薄くなり、放射線を強く浴びる飛行機に乗せて大丈夫か?などという意見は医師の誰からも出なかったようです。

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五つ子誕生は確かに慶事だが、これはちょっと大袈裟ではないか? マスコミに目立ちたい日大の医師たちのパフォーマンスではないのか? 鹿児島市立病院はいい面の皮であり、憤慨すべきではないのか? 第一母親から引き離された赤ん坊達は可哀想ではないか? と私は思いました。

なんだか得意げな日大の医療スタッフが不愉快に思えました。

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そして何より、前日の朝日新聞の社会面のベタ記事で、私は悲しい記事を見ていたのです。

「東京都北区で病院が救急車の受け入れ拒否。たらい回しで乳児死亡」

当時、ベッド数の不足や当直医の不足から、大都会では救急車のたらい回しが発生し、ちょっとした社会問題になっていたのです。

東京都北区か・・・。病院はたくさんあるだろうが、北区なら日大板橋病院も搬送先の候補ではなかったのか? 救急車からの問い合わせに対して、板橋病院は、対応する医師の不在か、設備の不足を理由に断ったのでしょうか?

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その日、その晩、確かに小児科の医師と看護婦は鹿児島に行っていて何人かは不在だったはずです。しかし、インキュベーター(保育器)5個は空いていたはずです(予約済みですが)。 大学病院ならスタッフもたくさんいたでしょうし。

「 受け入れ設備はあるではないか? 」

「 でもこれは、大切な五つ子達の為に予約してあるので使えません 」

というやりとりがあったのかも知れません。

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赤ん坊の生命は、誰もが平等なはずなのに、スターとなって生まれてきた五つ子と普通の赤ん坊では扱いが違うのかな? 少なくとも、日大板橋病院にとっては違うのかも知れません。五つ子はマスコミの宣伝に使えるから・・。

たらい回しの犠牲になった赤ん坊も可哀想だが、五つ子達も、自分たちの為に同世代の赤ちゃんが犠牲になったと知らされたら気の毒なことだ (笑うオヒョウを読まない限り、その可能性は低いけれど)。

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私は、新聞記事を読んでつぶやきました。

「 可哀想な子供だ、今度生まれてくる時は、ひとりじゃなくて五つ子で生まれてくるのだぞ・・ 」

徳之島の五つ子が生まれたのは、それから4年後のことです。

今度も、鹿児島市立病院の快挙です。 そして今度は2度目だから話題性が無いと思ったのか、日大板橋病院も横取りをしなかったようです。

画像 243s.jpg 11月の妙高燕温泉

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今は五つ子が生まれても、日本中が大騒ぎする事はなくなりました。特別扱いはよくない・・と山下さん夫婦が考えたように、普通に平等に育てられます。

設備が貧弱だった鹿児島市立病院にはインキュベーターが揃い、ドクターヘリが交通事故だけでなく周産期の緊急医療にも活躍しています。

 

隔世の感があります。 鹿児島市立病院の若きスタッフ達は山下さんちの五つ子よりも若い世代に見えます。

 

そして、全日空トライスターもはるか昔に引退しました。

画像 239s.jpg


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夏炉冬扇

こんにちは。
母が産婆でした。
死後、昭和9年から昭和45年までの「産家名簿(ママ)」が残ってました。2冊。数えたら1100人弱取り上げてました。父母の名前・住所・出産時刻・体重が記録されてました。もちろん死産も。名前が母親だけというのもありました。
貴重な庶民の職業記録だと思います。
飛躍しますが、褒章制度は好ましいものとは思いません。でも差し上げるならこういう人物を対象にしなくちゃ、と思いました。

by 夏炉冬扇 (2012-12-28 14:37) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇様 コメントありがとうございます。
人の一生の始まりに立ち会える、助産師は素敵な商売だな・・と思います。 同じ医療の分野でも、敗北の場面ばかりを経験する終末医療の担当者とはだいぶ違いますね。責任重大だけれど、羨ましがられる職業のひとつだと思います。
by 笑うオヒョウ (2013-01-02 13:53) 

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