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【 手塚治虫論 その4 】 [アニメ]

【 手塚治虫論 その4 】

 

手塚治虫を漫画誌の人か、アニメーション(マンガ映画)の人か?と考えた場合、私は漫画誌の人だ・・と、解釈したのですが、それは間違いかも知れません。

彼は雑誌に書かれた漫画でも、ブラウン管に映るアニメーションでも業績を挙げています。Yusa-Zenjiに指摘された通り、彼はTVのアニメ番組というものを確立した開拓者です。しかし、そこにはいろいろ考えなければならない歴史的経緯があります。決して単純ではないのです。思い出すのは昭和30年代の話です。

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彼の代表作のひとつ「鉄腕アトム」は、読むマンガとしても人気を博しましたが、やはりアニメーション映画として大成功しました。 米国でも「アストロボーイ」の名前で紹介され、人気が出ました。

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それまで日本の子供向けTV番組では、実写のヒーローが活躍していましたが、当時の特撮技術と予算では表現できる限界が明らかでした。 例えば「まぼろし探偵」「少年ジェット」や「月光仮面」ですが、主人公がオートバイやスクーターに乗って駆け付けるのでは、田舎の駐在のお巡りさんと同じです。いくら戦後の時代とはいえ、これでは興ざめです。 もっと、圧倒的に格好良くて、豪快で現実離れした表現にしようとすればアニメーションに頼るしかありません。

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その必然性に於いて、手塚の「鉄腕アトム」が登場しました。 しかし、当時圧倒的な支持を受けた「鉄腕アトム」も、今眺めるとアニメーションの手抜きやアラが見えて、鑑賞に堪えません。激しい動きの場面では静止画像になって、効果音でごまかしたり、同じ場面を繰り返し使ったり、背景と手足の一部分だけを動かしたり、背景の絵があまりに簡素だったり・・という具合で、安物のアニメという印象を受けざるを得ません。 それについては、同時期にアニメとして登場した、横山光輝の「鉄人28号」桑田次郎の「エイトマン」も、大同小異です。

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その中で、鉄腕アトムが特に高い評価を受けたのは、やはり原作が優れていたということでしょう。その意味ではやはり、手塚治虫は漫画の人なのです。

手塚が確立した、30分一話完結で、毎週新作を出すというTV漫画の制作手法は恐ろしく過酷だったと思われます。無理をすれば、品質面で妥協せざるを得ず、粗製乱造につながります。

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当時、手塚をはじめ、日本のアニメ界が注視していたアメリカのアニメも、高品質映画と粗製乱造のTV番組に2極分化していました。高品質の映画は、映画館向けのアニメで、ウォルト・ディズニーなどのプロダクションが製作していました。

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アニメの品質については、日本でも、結果的に2極分化が進む形になりました。上質な方は、やはり映画制作会社の作品で、東映の漫画祭りに登場した「わんわん忠臣蔵」などが思い浮かびます。そのメンバーに宮崎駿がいて、その延長上にスタジオジブリがある・・・というのは、読者諸兄からお教え頂いた事柄です。「わんわん忠臣蔵」の原作は手塚治虫です。

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それらの良質なアニメーションと異なる形で、週1本のTV番組を量産するのは、手塚にとって本意ではなかったかも知れません。おそらく「ジャングル大帝」の制作まで、彼のアニメーション映画制作は、彼にとって満足できるものではなかったに違いありません。

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それに加え、初期のアニメーション映画は、世間の無理解から、厳しい逆風にさらされます。 当時のNHK会長であった前田義則氏は、漫画および漫画映画を蛇蝎の如く嫌い、NHKではアニメ番組がながくご法度でした。その代わりに子供向け番組として独自の人形劇が発達した訳ですが・・。

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ちょうどNHKが「チロリン村とクルミの木」や「ひょっこりひょうたん島」を放映していた頃、アニメと人形劇の折衷型の番組「銀河少年隊」も放映されました。

この手塚治虫の作品は、一部分をアニメで一部分を人形劇で行うという実験的な作品でしたが、失敗でした。 その後、NHKは人形劇路線を続け、「ねこじゃら市の11人」や、「新八犬伝」、「紅孔雀」や「空中都市008」、「新三銃士」に至っています。

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その後も、映画化する時、実写にするか、アニメにするか、手塚治虫は迷い続けています。「ワンダー3」はアニメ、「マグマ大使」は実写で制作していますが、それらの評価は、漫画雑誌に於ける手塚作品のそれには及ばないと、私は考えています。

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手塚が亡くなった時、宮崎駿は、手塚の漫画を非常に高く評価する一方、アニメ作者としては、全く評価していないことをコメントしています。 実は私も同意見です。

宮崎アニメや高畑アニメの源流は手塚治虫ではありません。

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今、手塚の時代は去り、Yusai-Zenjiのご指摘どおり、今手塚の作品について論評するのもピントはずれかも知れません。現代はアニメーションも複数のジャンルに分化しています。 私の息子は、TVの地上波で深夜に放映されるアニメは、独立したひとつのジャンルであり、昼間の子供向けアニメとは全く異なるものだ・・と規定します。

その意見には私も賛成です。 アニメが細分化される一方で、雑誌の漫画とアニメーションの分化は進んでいません。むしろ融合化が進んでいます。

そうでないのは、スタジオジブリなど、最初から映画館上映を念頭に置いた大作だけです。

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漫画雑誌に連載され、それが単行本の漫画になり、そしてアニメ化されて大ヒットするというパターンがほとんどです。今後、予想される劇的な変化とは、紙に印刷した漫画が消滅し、液晶画面上で漫画が読まれるようになる事ですが、そうなると同じく液晶画面上で見られるアニメと、似た媒体を使うことになります。それが漫画やアニメにどういう影響を与えるかは、私には想像できません。

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コボやアイパッドで漫画を読む世代は、「手塚?WHO?」となるかも知れません。

 

でもそれはそれで仕方ありません。

やはり、漫画は評論には馴染まないものだ・・と私は思います。


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