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【 居酒屋考現学 】 [雑学]

 居酒屋考現学 】

先日、名古屋を訪れたオヒョウの兄と一緒に名古屋駅前のビルにある居酒屋に入りました。 場所は、尊敬するA夫妻に教えてもらった造り酒屋直営の店です。(教えてもらったというよりごちそうになった・・という方が正しいのですが)。

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実は、私の兄は大の居酒屋ファンで殆ど毎日通っているのではないか?という人物です。 だから名古屋駅前のこの店も気に入るはずだ・・と思ったのですが、兄の言葉は意外でした。「この店は本当の居酒屋ではない。上品すぎる」

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料理もお酒も抜群に美味しいのですが、たしかに上品で、場末の庶民的な居酒屋に比べると価格的にも割高です。まわりのお客を見渡すと・・普通の居酒屋とはちょっと違います。 このトヨタが所有するビルのすぐ上の階にはシネマコンプレックスがあり、ちょうど映画が終わった後の観客が映画鑑賞の余韻を残してお店に入っていたのです。当然ながら若いカップル、そして中年の男女・・という具合にデートの最中なのか、ちょっと気取った雰囲気です。私は、ちょっと緊張感を持った男女間の会話が好きです。 昔の恋愛映画では、そういうやりとりが随所にありました。最近はそういう映画はなかなかありません。その晩、この店の客にはその雰囲気が漂っていました。

「弥富の居酒屋で酔っ払ってくだを巻いている客層とはちょっと違うな・・・」

弥富の皆さん、ごめんなさい・・・。

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しかし、兄によれば、居酒屋は、本来もっと庶民的で、飾らない人々が、気の置けない雰囲気の中で安いお酒と安い料理を口にするものだ・・。 なるほど・・そういうものか。 兄が通う横浜の居酒屋は、まさにそういう店で、常連客は皆さまざまな人生の問題を抱えていて、悲しみと悩みを客と店主が共有するそういう空間だそうです。

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今時、そんなドラマに登場するような居酒屋が本当にあるものなのか? 私が知る普通の居酒屋とは、大手のチェーン店になっていて、システマティックに安い食材を仕入れ、店員は学生アルバイトでマニュアル通りの受け答えをして、若い学生たちがコンパと称して、大声を挙げて騒ぐ店です。

料金はコンピューターで管理され、経営者は、酔客相手の商売で儲けた後、病院や学校を経営していっぱしの紳士を気取り、選挙に出たり、TVのコメンテーターでお説教を垂れたりしています。 私はそんな店を好きになれません。

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では皆が郷愁と愛着を感じる居酒屋はどこにあるか? 例えば、漫画「あぶさん」に登場する「大虎」、映画の「居酒屋兆治」の主人公が経営する居酒屋、あるいは映画「時代屋の女房」の登場人物が通う居酒屋などですが、それらはすべてフィクションです。フィクションに多く登場するということは、逆説で言えば現実社会にはあまり存在しないということです。

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その居酒屋に集う人たちは、決してエリートではなく、生活に問題と屈託を抱えた人たちです。だから登場人物に味が出るのですが、兄の通う店はまさにそんな店で、しかも現実に存在するのです。

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では外国はどうか? 英国やアイルランドのパブは日本の居酒屋とは全く違います。 同列で議論できません。ドイツのビヤホールも違います。ではフランスやロシアはどうか?

私はパリでは居酒屋に入った事が無いのですが、小説では読みました。あのエミール・ゾラの「居酒屋」の世界は、日本の居酒屋以上に庶民的というか、底辺の人たちが集う世界です。 庶民の暖かさ・・というより悲惨さの世界です。

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ロシアについても知らないのですが、ゴーリキーの「どん底」に登場する居酒屋はゾラのそれに近いかも知れません。 人情あふれる癒しの世界が日本の居酒屋であるなら、ひたすら悲惨なのが、欧州の居酒屋です。 こんな世界を見ていたら、階級意識とか格差社会に目覚めてしまうな・・と思っていたら、居酒屋大好きの階級論の研究者がいることを知りました。

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武蔵大学の橋本健二教授です。 彼は階級や格差の研究者にして、居酒屋大好きの 庶民派の学者ということで「居酒屋考現学」というのをものにしています。

実は彼は、私や私の兄の学校の後輩です。正確には、私と彼は、高校は同じですが、大学は違います。そして彼と私は育った年代もそう離れてはいないので、彼の考え方の背景にはよく理解出来る面があります。 彼が庶民派・・というのはしっくりきます。 階級闘争や貧困社会を議論する学者が、ホテルのバーや高級料亭を好きだったのは、辻褄があいません。 彼が居酒屋大好きというのは自然ですが、でもそれはゾラが確立した自然主義文学の暗さを持った酒場ではなく、明るく陽気な居酒屋を彼は支持しているのでしょう。

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ところで、近年の社会の閉塞感、経済の低迷によって、最近、日本では階級や格差が強く意識されだしました。 それより前の日本では、豊かな社会が実現したあと、階級闘争や貧困について、あまり話題になりませんでした。 それが、日本でも貧困が無視できない問題になり、関心を集めるようになったのです。数年前には小林多喜二の「蟹工船」が久しぶりに話題になり、多くの人に読まれました。 文学作品としては、決して上質ではない小説ですが、若い人は一度は読んで考えるべき作品かも知れません。

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ホームレスや失業者の問題に真正面から取り組んだ湯浅誠氏も脚光を浴びました。 その湯浅誠氏の大学の先輩が橋本健二教授です。 貧困の増大、階級や格差の固定が進むことで、これまであまり脚光を浴びなかった時代遅れの彼の専門分野が、話題に登っています。 彼にとっては幸運な事ですが、社会にとっては不幸なことで、これは皮肉というべきでしょう。

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社会の貧困の増加により、橋本教授のマスコミへの露出も増え、多くの面白いコメントが発信されています。 それらは「居酒屋考現学」よりも面白いのですが、 それについての批判は次号に書きます。


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おじゃまま

居酒屋に行ったのなんて、もう何十年も(は、ちょっと大げさですが)前の話です。最近はいっさい行っていないのでどういう風になっているのやら。。。大阪の町で路地裏に入ったり、商店街に行ったり、地下街に行ったりすると、昔ながらの居酒屋(まさしく、テレビドラマに出てきそうな!)みたいなのがありますが、もちろん、行ったことはありません。
前記事のコメントへのお返事を読んでいて、「なるほど〜、好きな人は好きなんだ〜」と再認識しました。あれを見て以降、同じ監督の作品はいっさい見ていませんでしたが、こんど機会があれば、見ることにします(って、そんな機会はこちらから探さねばないでしょうけれど・笑)
by おじゃまま (2012-02-08 11:53) 

笑うオヒョウ

おじゃまま様 コメントありがとうございます。
返信ガ遅くなり申し訳ありません。

居酒屋が好きな人には
お酒が好きな人
料理を美味しいと思う人
その店に集う他の客とのコミュニケーションを楽しむ人
店の主や女将と会話することが好きな人
自分で料理するのが面倒くさい人
等の種類があります。

都会に一人暮らしする人が増える傾向にあるなら、居酒屋はこれから繁盛するのでしょうか? 経済が低迷して、庶民的な生活の潤いを求める人が増える傾向にあるなら、居酒屋はもっと繁盛するかも知れませんね。
そのあたり、また雑文にいたします。

次のコメントをお待ちします。

by 笑うオヒョウ (2012-02-16 06:38) 

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