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【 映画監督の死 】 [映画]

【 映画監督の死 】

 

いささか旧聞ですが、ギリシャの映画監督であるテオ・アンゲロプロスが亡くなりました。映画撮影中の交通事故死とのことで、ある意味では映画監督の本望とも言える亡くなり方ですが、残念な事です。

映画監督としては、今村昌平や新藤兼人の如く老人となっても仕事を続け、話題を提供してくれたらありがたいと思うのですが・・。

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私は、この機会に、彼の作品を収めたDVDが世の中から姿を消すのではないかと心配し、かねてから気になっていた、彼の初期の作品である「1936年の日々」をインターネットで買い求めました。 先日の「悲情城市」に続き、ちょっと高額のDVD購入です。

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そして彼に死については、興味深い事が多くあります。

一つは、マスコミの報道です。マスコミ各紙は彼をどう評価するのか?彼の代表作を何にするのか? 金沢のY教授は「ユリシーズの瞳」を最高傑作に挙げています。

一方で「永遠と一日」を最高作とする評論家もいます。 彼の死にあたって、映画評論家はどれを最高傑作とするか?

http://www.asahi.com/obituaries/update/0125/TKY201201250119.html

しかし、多くの新聞は通り一遍の記事を載せるだけで、評論家にコメントを求める訳でもなく、記者の感想を述べる訳でもありません。 おそらく海外から配信された記事をそのまま翻訳して掲載しただけの冷たい扱いです。列挙した作品も、「旅芸人の記録」「永遠と一日」など普通のものばかりです。

「ユリシーズの瞳」を取るか、「永遠と一日」を取るか、彼の最高の作品をどちらにするかもマスコミは明確にしません。

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アンゲロプロスの作品には、愉快な笑顔は登場しません。 ひたすら陰鬱で、怒りや悲しみが描かれ、しばしば主人公は死を迎える直前だったりします。

これは作家、或いは映画監督の性格を語る上で重要なことです。

太宰治は、早くから老年期を作品に取り上げています。 青年のデビュー作が「晩年」というのも奇妙ですが、同じように「老人文学」から始める作家は複数います。

一方、芥川龍之介は、晩年に「玄鶴山房」で死期の迫る老人を描いていますが、その時点の芥川の実年齢はかなり若かったのです。

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アンゲロプロスも若いころから、死の迫る主人公を描いて来ました。彼と太宰に共通点はあるのか? などと荒唐無稽の事を考えているうちに彼は他界してしまいました。

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それはともかく、テオ・アンゲロプロスの死は、一つの現代ギリシャの知性の死かも知れません。 戦後、一貫して革命や改革を志向した、西側世界の多くの知識人が挫折と転向を経験した訳ですが、彼は映画を通して真摯にその情景を写実してきました。

ギリシャ以外にも共感する人は多かったはずです。

それに加えて、彼はギリシャにこだわりました。 だから日本人に本当に彼の作品が分かるか?と問われると答えられないのですが、理解できるのは一部だけでもいいではないか・・と開き直ります。 彼の作品に日本人の自分にも共感出来る部分を探すのは、さほど困難ではありません。

ギリシャの財政破綻ほどひどくはなくても、経済が低迷し、混迷の度を深める、日本の現代社会に暮らす中年男性には、彼の作品が分かるはずです。 多分。

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ところで、映画監督の葬儀には、女優の涙がつきものです。

その昔、小津安二郎が亡くなった時、原節子が滂沱の涙を流して取り乱し、それ以降、銀幕の前に全く姿を現さなくなったのは有名です。

先日、亡くなった森田芳光の場合は、北川景子が泣いたそうですが私は知りません。

新藤兼人が亡くなれば乙羽信子は泣くだろうな・・と思っていましたが、乙羽信子の方が先に逝ってしまいました。

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これから先はどうでしょうか?

大島渚が亡くなれば小山明子が、篠田正浩が亡くなれば岩下志麻が泣くのは当然でしょう。では佐々木昭一郎が他界した時、中尾幸世はどうか? などと考えます。

そして最も気になるのは、山田洋次監督が亡くなった時に、泣き崩れるのは倍賞千恵子か吉永小百合か・・ということです。なんとも縁起でもない事を考えますが・・・。


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コメント 7

yusaizenji

DVD化していただいた『霧の中の風景』ほか、雑務に紛れて拝見する時間がないまま、御大が亡くなってしまいましたね。別にバランス感覚のつもりはないのですが、前著で私が書いた内容が某女子大有名教授によれば右翼的、だそうなので、今回の新刊編著では、あとがきに(左翼の?)アンゲロプロスに言及しています。まあ、本が出る前に亡くなられて、当惑している所ですが。

それにしても、中尾幸世の名前が出てくるとは! あわててウィキで捜しましたが(当然?)出ていませんでした。上に女優のように書いてありますが、一般人では? 2本ほど、VHSに録画したドラマが拙宅にあります。
by yusaizenji (2012-02-02 10:40) 

笑うオヒョウ

Y教授樣 コメントありがとうございます。

テオ・アンゲロプロスの話はさておき、中尾幸世に反応があるとは思いませんでした。 やはり昭和を記憶する人が多くおられるのですね。 彼女を女優とみなすか、一般人とみなすかは意見の分かれるところで、実は私もちょっと名前を出すべきかで迷いました。 正確に言えば、彼女の現在の職業は朗読家です。 Wikiに出ていない・・とはちょっと意外です。 私は、時々マイナーな名前や事柄を出しますが、Wikiに載っていない様な項目や名前は普通出しません。 あまり知られていない事柄でも敢えて解説を入れないのですが、それは、ご興味がおありならWiki等でご確認くださいませ・・という私の意思表示です。Wikiに載っていないとなると、甚だ不親切かつひとりよがりな雑文になってしまいます。

ところで、彼女の作品「四季~ユートピア」や「川の流れはバイオリン」はかつてVHSビデオで出版されたそうですが、勿論今は絶版で、DVDもありません。中古のVHSビデオをネットのマーケットで確か19万円~20万円の値がついています。 一方、NHKアーカイブスにはあり、オンデマンドで300円くらいで視聴できます。もし、その放送を録画して売れば(勿論違法ですが) 大変な利益になります。 彼女の作品に限らず、レアもののVHS、やDVDは時々法外な価格になります。 そう考えると著作権とは一体何なのだろうか?と考えてしまいます。

またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2012-02-03 02:23) 

yusaizenji

テオの話にならなくて、すみません。中尾幸世の『四季』は、彼女が演じたピアノ調律師?の師匠みたいなおじいさんが、酷い棒読み演技だったこと、また個人的には今まで良いと思ったことのなかったマーラーの交響曲第4番の一部が効果的に使われていたこと、で記憶に残っています。

その後、イタリアかチェコスロバキア(当時)を舞台にしたドラマでは、制作費の関係か、彼女がずっと同じ服を着ていたこと、どちらか(多分、後者)でチャイコフスキーの弦楽セレナードが印象的に使われていたこと、が記憶にあります。私が録画して持っているのは、四季ともう一つで、残念ながらチャイコが東欧の教会の映像にかぶさる、私が一番印象に残っている作品ではないです。
by yusaizenji (2012-02-03 11:37) 

笑うオヒョウ

YUSAIZENJI様 コメントありがとうございます。

私は、中尾幸世の出演した作品が特に好きな訳ではないのですが、なぜか印象に残っています。そういえば確かマーラーはスケヤンこと池辺克彦氏が好きだった・・と記憶しています。彼とマーラーについては話したのは、もう40年も前の話です。リアルタイムに『四季・・』がTVで放送された頃です。
話を映画監督に戻します。テオ・アンゲロプロスは亡くなりましたが、私は彼とスペインのビクトル・エリセを対比した考察をしてみたいと考えています。両者とも20世紀の後半に、ある政治活動をして挫折した男の晩年を映画で描いているからです。
まだ考えがまとまらないので、雑文にしたためることはできませんが、時間がある時に考えてみます。
古い映画を見てその感想文を考える時間というのは、私には至福の時間なのですが、今の問題山積の忙しい仕事の中ではそんな余裕はほとんどありません。 しかし一方でその種のカタルシスが無ければ、精神的に持たないという事情もあり、悩みの種になっています。

またのコメントをお待ちします。

by 笑うオヒョウ (2012-02-03 18:07) 

笑うオヒョウ

すみません。 池部くんの名前を間違えました。 池部克彦君です。
彼は今でもバイオリンを弾いているようですね。 ネットに彼の名前が登場します。
by 笑うオヒョウ (2012-02-03 23:00) 

おじゃまま

映画好きの家人に連れられ、見に行った覚えのある、「ユリシーズの瞳」・・・
さーっぱり、覚えてません〜(笑)
銅像が倒れるとこと、蝋燭の炎と黒服の女性たち、ドナウ川(かな?)の青さと。。
アルバニアが一瞬、映ったので驚いたような記憶がありますが。。。
でも、眠ったりはしなかったな〜。
「何??何これ??どゆこと??」と、延々と疑問符が頭の中に満ちていったような記憶があります。
私はあんまり好きじゃあなかった、ですね〜。色はきれいでしたけど。

by おじゃまま (2012-02-07 01:37) 

笑うオヒョウ

おじゃまま様 コメントありがとうございます。

テオ・アンゲロプロスについては確かに好き嫌いがあると思います。
幾つかの作品で象徴的に登場する巨大なオブジェが空中や水面に現れる場面などは、解釈が困難で、説明不足のひとりよがりとも言われます。

しかし、私は自分で理解できる部分だけで評価し、それなりに彼の作品を気に入っています。 わが畏友Y教授ことyusaizenji氏は「ユリシーズの瞳」を】最高傑作に挙げています。 私は「永遠と一日」も捨てがたいと思います。 ただ彼の作品は限りなく暗いのも事実であり、その時の気分によって彼の映画を見たい時と見たくない時に分かれます。

私が考える問題は、ギリシャ映画とは・・と一括りで言えない事です。
無論、他の国でもバラバラですが、一応国ごとに、それなりの特徴があると思います。 しかし、ギリシャの場合、「日曜はダメよ」「その男ゾルバ」「コレル大尉のマンドリン」全てバラバラで共通点がありません。
このあたりまた、雑文にしようかと思います。

またのコメントをお待ちします。


by 笑うオヒョウ (2012-02-07 12:45) 

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