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【 麦の穂の揺れる穂先に 批判 その1 】 [映画]

【 麦の穂の揺れる穂先に 批判 その1 】

 昔、平田オリザなる人物がTVに登場したのを見た事があります。坊ちゃん刈りの頭で、穏やかに笑いながら、女性のような声で「オリザというのはね、ラテン語で稲の事なんですよ」と説明しているのを聞いて、無性に不愉快になりました。

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イネの学名は、オリザ・サティーバ・リンネです。ラテン語の綴りは、Oryza sativa Linne です。まあ、最後のリンネは学名を付けた人の名前ですから無視してもいいのですが・・・。そしてオリザ・サティーバというこの学名は広く知られています。その理由は2つ。

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一つは日本が誇る科学者、鈴木梅太郎が発見したオリザニンです。彼は米ぬかから発見した重要な物質に、イネの学名に由来するこの名前を付けました。しかし、その後に助酵素という概念ができ、ビタミンと命名されました。そしてオリザニンはビタミンB1とされ、もともとのオリザニンという名前は忘れ去られました。 だけど理科系の日本人なら知っているはずです。 

そしてもうひとつは宮沢賢治の童話「グスコーブドリの伝記」です。これに登場する農作物の名前はオリザで、明らかにイネの事です。主人公のグスコーブドリは、冷害の中でオリザの収穫を上げるために苦労します。 この小説は子供たちにもひろく読まれています。

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だから、普通の生物の学名と異なり、オリザという名前は理科系の人にも文科系の人にも、比較的に知られています。 それを無知な人に教えるように語る彼は、衒学趣味の人に違いない・・と思いました。

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そんな事は、とうの昔に忘れていましたが、思い出しました。ふとTVを付けると、江守徹が学者の役で娘と会話しています。 どこかで聞いた様なセリフが随所に登場します。 おや、これは小津安二郎の「晩春」と「麦秋」を足して割ったような話だ・・。そして至る所に知ったかぶりとしか言えない様な、薀蓄を垂れるセリフが登場します。さては、脚本は平田オリザかな?はたしてそうでした。

文学座の「麦の穂の揺れる穂先に」という芝居です。

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劇中には、ほとんど無内容でストーリーとは無関係な知識を披露する役者のセリフが溢れます。

なになに・・カリマンタン島とはボルネオの事だって?

それから日本住血吸虫が山梨県にいたって?

サナダムシで寄生虫ダイエットができるだって?

でも回虫でダイエットしてはいけない?

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教えてくれてありがとう・・と言いたいけれど、そんなことは小学生だって知っています。寄生虫の事だって、全て藤田紘一郎教授の「笑うカイチュウ」に書いてある内容のうけうりではないか! 知ったかぶりはよせ!

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さらになぜか話はアイルランド賛歌になります。登場人物はアイルランドの研究家で、ダブリンでギネスビールを飲んだとか、シロツメクサが国花だとか、航空会社のロゴにもその花が使われている・・とか、ありきたりの内容で、アイルランドを旅行した人なら、別に大学教授でなくても知っている事を延々と語ります。でてくる文学者もイェーツにジョイス・・とありきたりです。

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そして多分、脚本家は、イェーツもジョイスも理解していないでしょう。単に名前を知っているだけではないか?

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ちょうど、日本通を自称する外国人が日本に行って、スシを食べて、フジヤマを見て、アキハバラで買い物をして、オンセンに入ったと、帰国してから語っても、誰も彼の事を本当の日本の専門家だと思わないように、主人公は単なる知ったかぶりにしか見えませんでした。

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主人公の江守徹は、賑やかなやかましい音楽を「ジョイスに似合っている・・」と語ります。しかし、ジョイスについては何も語りません。たしかにフィネガンズ・ウェイクには、酒場も酔っぱらいも登場しますが、ジョイスに賑やかな音楽が似合うって?

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アイルランドに関して幾らかの知識を得ようとするなら、どんな本がいいか?オヒョウが思い出すのは「表象のアイルランド」です。原題は“Heathcliff and Great Hunger” 著者はテリー・イーグルトン(Terry Eagleton)です。オヒョウには、彼のポストモダニズムなど全くわかりませんが、彼のブロンテ三姉妹に関する評論はレベルが高い・・と母が申しておりました。

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何を隠そう、オヒョウはこの本をロンドンで買い求め、読もうとして挫折した思い出があります。そこで、三由君という日本からの出張者にこの日本語版(鈴木聡訳)を持参するよう頼みました・・。(そう言えばまだ代金を払っていない)。 そして、なんと日本語版の方も読むのを中断しております。鹿嶋の家の本棚には、英語と日本語の2冊の本が並んでいます。綺麗なままで・・・。知ったか振りはオヒョウの方ですね。

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その「表象のアイルランド」には、リバプールで育ったビートルズとアイルランドとの関係が書かれています。ジョン・レノンなどは、英国社会のマイノリティであるアイルランド人に共感していた様子があり、彼等の音楽がアイリッシュ音楽の影響を受けた可能性についても触れています。しかし、ビートルズとジョイスとの関係は分かりません。 ジョイス的な音楽とは何なのか?

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アイルランド人の有名人の名前を散りばめるだけの、彼の衒学的なセリフは全く消化不良ですが、ひょっとしたら、同じ「知ったか振り」の性格を持つオヒョウにとって、平田オリザは近親憎悪の対象なのかも知れません。

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しかし、オヒョウにとってもっと不愉快なのは、尊敬する小津安二郎の映画を冒涜しているとしか思えない、彼の脚本です。

それについては、次号で述べます。


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