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【 麦の穂の揺れる穂先に 批判 その2 】 [映画]

【 麦の穂の揺れる穂先に 批判 その2 】 

最近は、インスパイアされたとか、オマージュだとか、アトリビュートだとか、いろいろなカタカナ単語で表現すれば、他人の芸術を真似ても許される場合があります。 そして、他人の作品を翻案する事は、文学や映画の世界では昔からあります。

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「水滸伝」を元に滝沢馬琴が「南総里見八犬伝」を書いても、オヒョウは認めます。「シラノ・ド・ベルジュラック」を翻案して「白野弁十郎」を書いても、オヒョウは評価します。 「ロミオとジュリエット」を元に「ウェストサイドストーリー」という映画を作っても、オヒョウはギリギリ許します。( オヒョウ自身は「ウェストサイズストーリー」に苦しんでいます )。

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しかし、小津の「晩春」と「麦秋」を合体させて、醜悪な芝居「麦の穂の揺れる穂先に」を作った事は許せません。インターネットで調べたら、平田オリザは小津の映画に「想を得た」という奇妙な言い方をしていますが、内容は中国人もしないような劣悪なコピーです。 しかも平田オリザは自分の名前を「脚本 平田オリザ」と真っ先に出しますが、小津安二郎や広津和郎、野田高梧のクレジットを全く出しません。破廉恥というべき事です。

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映画「晩春」は、広津和郎の小説を元に作られています。 主人公は父親と娘の両方というべきで、笠智衆と原節子が光っています。 海外の評論家は、「晩春」をさして、エレクトラコンプレックスを実に美しく表現した映画と言っています。確かに、原節子演じる紀子は父親に憧れていたのです。しかし、それはあまり露骨ではなく、上品に描かれています。

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しかし、「麦の穂・・」では、娘役がさっぱりです。江守徹は一流の役者ですが、娘役は無名の女優で、美貌とも程遠く、演技力は小学生レベルです。 娘が父親に何らかの感情をいだいている様子は全くありません。文学座の若い女優にありがちな、ハツラツとした明るくて勝気な女性を演じる事には成功していますが、微妙な、表には出せないエレクトラコンプレックスを表現する事はとてもできません。

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老境に入った父親が末娘(または一人娘)に感じる愛情・・(これをオヒョウはコーデリアコンプレックスと名付けていますが)・・の表現はそこそこ成功しています。 不器用な俳優だった笠智衆に比べれば、脳梗塞を患った後といっても江守徹の方が上手だからです。

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むりやり合体させている、もうひとつの映画「麦秋」の方は、やはり原節子演じる紀子が、子持ちのやもめ男に嫁いでいくという話ですが、戦死した兄の面影を相手の男性に感じて、結婚を決意する・・というやや複雑な心情が描かれています。 それが「麦の穂・・」ではさっぱりです。

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似ているのは、「麦秋」の結婚相手がリケッチアの研究者で、ツツガムシの棲息する秋田県に赴任しているのに対して、「麦の穂・・」は寄生虫を求めて、カリマンタン島へ行くという点です。寄生虫は世界中にいます。なぜカリマンタンなのか、さっぱりわかりません。ひょっとしたら平田オリザがカリマンタンという地名を知っている事を自慢したかったのか?

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結婚相手の男性が医師・・というのは、世俗的には素敵なようですが、子持ちの家庭に後妻として入るのは勇気がいりますし、田舎で寄生虫や病原体の研究というのでは、あまり好条件とは言えません。輝く美貌を持つ娘が、突然、冴えない男性と結婚するという意外性が映画「麦秋」のひとつの妙味なのですが、「麦の穂・・」にはそれが全くありません。

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背景や設定から、登場人物のセリフまで、極端に小津映画を真似ながら、その本質を完全にスポイルした作品を制作できるとは、ある意味でちょっとすごいです。もっとも平田オリザは「これは僕のオリジナルで、小津映画のパクリではない」と主張するかも知れませんが。

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インターネットのつぶやきを見たら、それでも意外に、この作品を評価する声が多いのに驚きます。「暖かみがあってホッとする作品」とか「見た後に心がやすらぐ平田オリザ作品」と言っていますが、よく見ると、それは若い世代で、小津映画を見ていない人達のようです。小津映画に言及するつぶやき“は、ありません。

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「麦の穂・・」を評価する人達は「晩春」も「麦秋」も知らないようです。だから偽物でも評価してしまうのでしょう。ちょうど、HONGDAのオートバイを最高と思う中国の青年のように。

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小津映画を知らない人達から高い評価を得たとなると、「麦の穂・・」を書いた、平田オリザの目論見は成功なのかも知れません。でも私オヒョウは言いたい。

北村和夫亡き後、文学座の宝とも言うべき江守徹に、せめて偽物の芝居をさせないでくれ・・と。 


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うつマモル

お早うございます。あれれ!一番乗りですか。役不足ですが宜しくお願い致します。
by うつマモル (2010-09-29 03:50) 

wolfy

オヒョウ様へ
二流の劇作家、兼演出家に目くじら立てるなんて、オヒョウ様らしくありませんね。こんなヤツは見て見ぬ振りして、やり過ごしましょう。気分転換にいっしょに小津映画を観ましょうよ。
by wolfy (2010-09-29 11:30) 

笑うオヒョウ

Wolfy様 コメントありがとうございます。
思わず、露骨で下品な表現で他人を非難してしまいましたが、その事でかえって自分と自分のブログを辱めることにもなった訳で、いささか反省しております。
小津映画のファンを自認する私としては、小津の映画を深く理解しないまま、そのエピゴーネンとなっている作家にカチンときてしまったのです。
以降、気を付けますので、今回、不快に思われたとしても 引き続きご愛読をお願いいたします。
またのコメントをお待ちします。

by 笑うオヒョウ (2010-09-29 12:18) 

笑うオヒョウ

うつマモル様 コメントありがとうございます。

普段は、もうちょっと上品なブログを書いておりますので、今後もご愛読をお願いします。 次のコメントをお待ちします。

by 笑うオヒョウ (2010-09-29 12:20) 

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