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【 山を仰がぬ日もなきは その5 】 [中国]

【 山を仰がぬ日もなきは その5 】 

チャイナリスクという言葉を中国の人は知りません。自分が他人からどう見られているかに気付かないのは、国家も個人も同じですが中国は特に鈍感で無頓着です。

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一方、中国に投資し、生産設備を設ける外国企業は、みなチャイナリスクを考えます。でも、これまで考えていたリスクとは、せいぜい当局の政治判断で税制がころころ変わって思わぬ損をするとか、労働争議に巻き込まれるとか、あるいは最悪でも国有化されたりして資産を失うぐらいの事でした。

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それが、社員の生命に危害が及ぶ恐れもあるリスクとなると、次元が違います。これまで、その種のリスクがあるとされた外国は、南米のコロンビアやアフリカの紛争地域、アフガニスタンやパキスタンのタリバン影響地域、フィリッピンの左翼ゲリラ影響地域などだけです。 海外駐在員は誘拐や襲撃に備える覚悟が必要でした。 きっかけとなったのはフィリッピンの若王子支店長誘拐事件です。それ以降、三井物産の場合、危険地域に赴任する人には、危機管理の指導がなされます。

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しかし、政府・官憲が日本人駐在員や出張者を拘束して、生命を脅かすとなると話が違い、これは一種の白色テロみたいなものです。 その可能性があるとしたら北朝鮮ぐらいでした。 中国がその対象になると、一斉に外国資本は引き揚げるかも知れません。少なくとも、新規の投資対象先からは除外する可能性があります。 これから中国に赴任する駐在員に、スパイにされて処刑される可能性もある・・と説明する訳にはいきませんから。 そしてこれは日本企業だけではありません。 諸外国からの進出企業すべてに衝撃が走ったはずです。

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中国に進出した会社といっても千差万別です。それを大別するとしたら2種類でしょう。

1.    中国の市場に期待して、生産拠点も中国に置いたもの。

2.    安価な製造コストだけに期待し、販売は中国外で考えているもの。

1の場合、中国からの脱出は難しいでしょう。しかし、2の場合は比較的に容易です。生産設備は置き去りにする為、損害は発生しますが、もともと、あまり高額な設備を置きませんし、早く元をとって、もっといい生産拠点があれば、移転してもいい・・という考え方の会社もあります。以前、ブログのコメントで書きましたが、「力王タビ型のビジネスモデル」です。 

しかし、1の場合は、そう簡単ではありません。設備投資額も大きいですし、その地に根を張って顧客を確保しようという時に(政府の指導する)反日運動に巻き込まれてはピンチです。しかも日本人駐在員の安全を保障しないというのであれば論外です。工場を安値で中国企業に売却するなどの形で撤退するしかありません。

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そして、そういう経験をした企業は二度と中国には帰ってこないでしょう。昔は、安くて良質な労働力を期待すれば中国しか選択肢はありませんでしたが今は違います。 ベトナム、インド、タイ、バングラディシュなど中国より安価な製造拠点は多くあります。

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オヒョウは中国時代の上司と、ポスト・チャイナとなる各国の可能性を議論・討した事があります。 その結果、繊維産業などの軽工業はバングラディシュ、ソフトウェアはインド南部、金属製品や建設機械部品はインド南部またはタイ北部に新工場を設けるのが適切だろうとの結論に至りました。チャイナリスクの回避方法は、たくさんあります。 日本をはじめとした外資企業が引き揚げた後・・・、中国には何が残るか?

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既に実力を付けた、中国の第二次産業は、外国から技術を学ばなくてもいいと考えるかも知れません。 日本何するものぞ・・という輩も多いようですが、それは倨傲に過ぎます。

日本に多くの技術や資本を貰い「ご苦労様、さようなら」と言いたい中国ですが、そうは問屋が卸しません。今、日本人の技術者が抜けて中国人だけで成り立つ工場や会社は1/3以下でしょう。建設機械の部品のローラーぐらいは作れるでしょうが、高級鋼材・・となると無理でしょう。

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やがて技術者がいない廃墟のような工場が中国に並ぶ事になります。そんな馬鹿な・・という人には過去の例を示すのみです。イランでイスラム革命が起こった後、西側の技術者は全て国外に退去しました。その後、石油の採掘は続いていますが、石油精製プラントの多くは停止し、イランはガソリンが足りず、輸入しています。世界有数の産油国なのに・・。

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過去、中国とソ連が鋭く対立した事があります。1970年代、中共はソ連を修正主義だと非難し、両者は戦争状態になりました。 後で考えるとイデオロギーの対立などという高尚な理由ではなく、単にアムール川を挟んだ領土争いだったのですが・・。

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中共に経済協力と技術協力をしていたソ連は一斉に技術者を引き上げ、中国のプラントは停止しました。これによる経済損失は大きく、愚かな文化大革命とあいまって、中国の発展を大きく遅らせました。

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これは、中国にとっては恨み骨髄だったようで、その後ソ連と中国の関係が回復するまでに、20年以上を要しています。日本が中国から手を引けば、それに近い状態が発生します。しかし、今の中国にそれを見通せる人はいません。

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中国は4人の日本人を人質にした代わりに、大きなものを失います。今回の騒動では、日本が負けて中国が勝利したと・・人々は見ていますが、そうではありません。両国とも多くのものを失い、引込みがつかない膠着状態に陥っています。まるでシギとカラス貝が喧嘩してどちらも動けない状態になっているのと同じです。日本も中国も勝者ではありません。

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では今回の騒動で得をした人、勝者となった者はいるのか?との問には、ひとりだけいる・・と答えます。 それは釈放された漁船の船長です。彼は粗暴な無頼漢に近い漁師ですが、チャーター機で帰還したあとは国民の英雄になっています。でもこうなる事は、前から分かっていました。 

中国の古典「戦国策」には「鷸蚌の争い、漁夫の利となる」とちゃんと書いてあります。


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コメント 2

おじゃまま

でしょうね…。捕まっている人びとも、そういう風に考えて、
安心しておられるとよろしいのですが…。
ロシアまで何やら妙なコトしてますねぇ…。あれもあんまり、
得策とも思えないのですが、やり方が汚くてイライラします!
ロシア国内も、なかなか揺れているようですけど。

ロシアと中国、仲がいいやら、悪いやら…。
by おじゃまま (2010-09-28 16:31) 

笑うオヒョウ

おじゃまま様 コメントありがとうございます。

中国がソ連(当時)と領土を争って、戦争をしていた頃、日本の北方領土問題に言及して、中国は日本の立場を支持するとの声明を出していました。

しかし、日本は中ソの問題に巻き込まれるのが明らかだったので、北方領土問題は2国間の問題であり、他の国の容喙を認めない・・という立場で、中国の共闘の誘いを断っています。

変節漢を絵に描いたような中国やロシアがぶれまくっても、日本は(発音はニホンでも)一本の道を貫いて欲しいと思います。 しかし、民主党政権はぶれまくっていますね。

またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2010-09-28 19:44) 

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