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【 溶けていく夏休み その2 社会人の場合 】 [雑学]

【 溶けていく夏休み その2 社会人の場合 】 

今年の夏は猛暑というより酷暑というべき日々が続き、熱中症で倒れる人があとを絶ちません。 特に農作業の途中、ビニールハウスで倒れたという話を聞くと、エアコンの効いた部屋でパソコンに向かっている自分を恥ずかしく思います。

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その熱中症の増加について、TVのワイドショーのコメンテーターが面白い事を言っています。

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「大体、日本の夏は暑すぎるのだから、こんな時に無理に働くべきではない。南ヨーロッパのシェスタの様に、暑い日中は昼寝の時間を設けて休むとか、長期休暇を取るなどをすべきだ。 フランスやスペインでは1月以上のバカンスを取っているというのに、日本のサラリーマンは短いお盆休みだけというのはナンセンスだ」

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この発言は、昔ながらの・・・、ヨーロッパは進んでいる。日本は遅れている。だから日本はヨーロッパを見習うべきだ・・という単純な発想のコメントの様ですが、さらに事実誤認もあるようです。シェスタはともかくバカンスに関しては、オヒョウの意見は違います。

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そこで、突拍子もないことですが、オヒョウが思い出したのは、10年以上前の、香港の英国から中国への返還の時の議論です。チャールズ皇太子は返還にあたって、「英国の統治下において、香港は経済的に大きく発展し、本国を凌ぐまでに成長した。かつて植民地が本国以上に経済的に発展した例は無い」と発言し、英国の援助が大きかった事を恩着せがましく語りました。実際、1990年代の英国経済は低迷し、英国で大学を出ても就職口がなく、職を求めて香港へ若い人が流れるという現象さえありました。

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この発言の反響は大きく、中国からは強い反発もありました。もっとも、当時オヒョウは英国での報道しか知らず、中国人の生の声を聞く事はできませんでしたが・・・。それに関連して、雑誌(確かEconomist誌だったか?)に面白い記事がでていました。その主旨は・・、

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当時、英国の一人当たりの年間労働時間は1600時間程度でした。ドイツなどの欧州大陸諸国はそれを下回り、1400時間を目指していました。一方、香港は、一人当たりの年間労働時間は2000時間~2100時間程度でした。 これなら、自由主義経済下において、英国の援助にかかわらず、香港は経済成長したに違いありません。英国が、本国(宗主国)のおかげだと語るのはおこがましいという理屈です。

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余談ですが、1990年代の半ば、日本の勤労者の年間労働時間は平均で1800時間程度だったと記憶します。その頃、日本人は働き過ぎだと言われ、フランスのタバコじゃあるまいし、時短・時短とかまびすしく言われたのを思い出します。その後、景気の低迷やパートなどの非正規雇用の増加で、年間労働時間の平均はかなり減少したはずですが・・。

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英国が、植民地の経済発展が本国からの援助のお陰というなら、他の植民地だった国はどうでしょうか? 産油国は確かに潤っていますが、アジア・アフリカの他の旧英国植民地には、必ずしも経済発展していない国もあります。微妙なところです。

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香港の経済発展が、人々の勤勉さに基づくものか、英国からの援助に基づくものかは、返還後に香港が成長を続けるか否かで判断できる・・と雑誌記事は結んでいます。

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実際のところ、変換後の香港は、かなり経済的に落ち込みましたが、その後復活しています。目立たないのは、香港以上に中国本国の経済成長がめざましいからです。 そして、中国大陸の人たちは、おそらく香港人と同等以上に働きます。(手元に年間労働時間の資料はありませんが)。どうやら経済成長は、勤勉さ・・というより労働時間の長さと関係があります。

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実は、欧州でも変化があります。 フランスなどのEU諸国の経済が低迷し、アジア各国に遅れている原因を調べた結果、長すぎるバカンスが足を引っ張っているという意見が出ました。 そしてフランスの夏休みは徐々に短くなり、かつて平均で1月だったものが2週間程度に短縮されています。 もっとも連続した期間が短くなっただけで、回数は増えていて、全体ではそれほど違いはありませんが・・・。

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これは日本などのビジネススタイルを意識したものですが、基本的に競争社会では、休みの長さは自分で決めるしかありません。フランスもエリートの層はすざましい競争にさらされており、自ずとノンビリできる時間は短くなっているのです。

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現在、EU諸国で経済危機にあるとされる、ギリシャ、ポルトガルなどはいまだに長いバカンスを取っている国です。

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だから、TVコメンテーターが、日本は欧州の長いバカンスを見習え・・というのは、ちょっとずれています。今、彼等は日本やアジアを真似て、バカンスを短くしようとしているのですから・・。

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そして、大きな間違いがもう一つあります。ヨーロッパの人たちがバカンスに行くのは、暑くて仕事が出来ないからではありません。 一言で言えば人生を楽しむためです。実際、彼等はバカンスに行く際、自国より低緯度のより暑い地域にでかけます。 長く暗い冬を経験したあとの明るい夏は、仕事ではなく、人生を謳歌するために使いたい・・という、高緯度地方の人特有の考えです。

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昔の欧州の夏は、実際、それほど暑くありませんでした。ロンドンでは8月もエアコンは不要でしたし、パリも10年くらい前までは夏をエアコンなしで過ごせたのです。むしろ夏は仕事をする上でも快適な季節だったのです(最近はかなり暑くなったそうですが)。

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だから、欧州の人が避暑の為にバカンスに出かけるというのは、正確ではありません。

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では、日本ではどうすべきか? オヒョウの意見は欧州を見習ってバカンスに出かける・・などというものではなく、 とにかく夏はエアコンをガンガン使おう・・というものです。

1. エアコンが使えない屋外の仕事は、日中を避けて夜間に行う。

2. 屋内の仕事はエアコンを効かせて作業しやすい温度環境で行い、熱中症になる事だけは避ける。

3. 休暇の取得は天候・季節とは関係なく、自分の人生を楽しむ為に行い、そして経済情勢を鑑みて行う(まあ、当たり前の事ですが)。

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日本のGDPが中国のGDPに抜かれたという、残念なニュースがありますが、年間労働時間の差を考えた場合、仕方ない面もあります。挽回する上で必要なのは、働ける人はたくさん働くこと、そして職の無い人には職を与える事です。

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昔と違い、多くの職場でエアコンが使える現代は、むしろ夏を克服する上で有利になったと、オヒョウは考えます。避暑の為の夏休みの必要性は減じています。

日本と中国、欧州が同じ条件で競争する時代がやってきたと、オヒョウは考えます。

IMG_0049.JPG

写真は、木曽川の向こう、桑名を見た風景です。鈴鹿山脈の上空に巨大なカナトコ雲がかかり、残照の光条が鮮明に見えます。夏も終わりか・・と思いますが、まだまだ暑いです。


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コメント 6

wolfy

オヒョウ様へ
この世の雑多な出来事への、少し角度を変えた鋭い視線には頭が下がります。私もなんとか勉強してオヒョウプリズムを手に入れたいとおもいます。
by wolfy (2010-08-30 13:21) 

笑うオヒョウ

Wolfy様 コメントありがとうございます。

お褒めの言葉を頂き、恥ずかしい限りですが、他の方とものの見方や考え方が違うのは事実かも知れません。
私はどうしても他人とは違う視点に立ってしまうのです。でもその事で得した事はありません。 いつも損ばかりしています。

またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2010-08-30 14:44) 

上野まり子

こんにちは 上野まり子です。

そういえば大昔は宮廷の仕事を夜やっていたと習ったような気がします。
勿論暑さのためではないでしょうが。

ジタンの香りがしたような気がしました。
またお邪魔します。
by 上野まり子 (2010-08-31 12:14) 

広島ピアノ

コメント有難う御座います。
香港返還時のイギリスのコメント。
興味深く読ませて頂きました。
by 広島ピアノ (2010-09-07 22:42) 

笑うオヒョウ

上野まり子様 コメントありがとうございます。

私は宮廷の仕事は知りませんが、製鉄所の三交代勤務を経験した事があります。 睡魔に襲われる深夜勤務のシフトが一番辛いのですが、夏はやや涼しいのが救いでした。明け方に、海からの涼しい風を頬に受けて、爽やかに感じたのを記憶しています。

またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2010-09-08 01:33) 

笑うオヒョウ

広島ピアノ様 コメントありがとうございます。

年間の労働時間を議論する時、なぜか人々は、ヨーロッパの先進国と比較し、日本は長すぎる、もっと短くしろ・・と主張します。 しかし、経済成長著しいアジア諸国は日本より労働時間が長いのが実情です。労働時間に限らず、多くの点で、比較対象を、欧米諸国だけでなく、アジア諸国にも広げるべき時期が来たと、私は思っております。

またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2010-09-08 01:36) 

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