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【 15Kg 】 [中国]

【 15Kg 】

オヒョウが4年前、中国の工場から新潟の工場に異動した際、最初に行ったのは、新潟の工場の全工程についての、オヒョウなりの分類です。具体的には、下記の3種類に各工程を分けました。

1.日本でしかできない作業・工程

2.日本でも中国でもできるけれど、日本の方が適している作業・工程

3.中国でも日本でもできる作業・工程 

3.の場合、日本と中国ではコスト差が歴然としていますから、日本で操業を続けるべきではない・・・ということになります。

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調査結果は、企業秘密に属しますから、ここで申し上げられませんが、いささか憂慮すべきものでした。 その結果を当時の上司に口頭で報告しましたが、しかし上司はちょっと困惑した顔をしただけで無反応でした。指示もしていないのに、かってにオヒョウが調べたのが不愉快だったか、問題を分かっているけれどどうしようもない・・と思っていたのか、或いは私の説明を理解できなかったかのどれかでしょう。

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話を一般化しますが、機械加工業の場合、日本でなければ製造できないという製品や加工工程は、ごく少なくなっています。残っているのは、5軸の加工機を必要とする複雑形状の切削加工や、非常に煩雑な認定手続きを要する航空機部品製造、原子力関連や高精度を要求されるハイテク関係の一部の分野に限られます。

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複雑形状の加工については、現時点で5軸のマシニングセンターの中国への輸出が規制されているため、日本でしかできないという事情があります。しかし実際には欧州から高性能の工作機械が中国に輸出される可能性はあり、いつまでも中国では無理という訳ではありません。

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一方、単純な円筒形状の切削加工や、直角や平面を基本とした形状の加工については、品質管理面のハンデや加工精度の差を考慮しても、コスト面を考えれば、もはや中国にかないません。

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オヒョウが中国を離れる前、太湖の周辺の小都市を回って、機械加工の下請け工場を訪問した事があります。そこで見た風景は印象的でした。 零細な町工場の中に、高性能なマシニングセンターが置かれ、その隣では若い技術者が、最新鋭のCAMで三次元の加工プログラムを作成しています。その分野に暗いオヒョウにはよく分かりませんが、CAMソフトは最新型のESPRITの様です。 加工対象は何かの金型でした。

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中国では大学を出ても就職先がなく、零細な町工場にも優秀な人材が集まるのです。ちなみに新潟の工場ではCAMを知る人はおらず、CADについては、紙に手書きだった製図を、パソコンで書くソフトの事だと思う人が多数でした。

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機械加工のハードやソフトの面では、もう日本は中国に追いつかれつつあります。 では、他の面はどうか?実はもうひとつ大きな問題があります。作業者の腕力の問題です。

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詳しくはいえませんが、オヒョウの勤務先の製品重量は、10Kg~数百Kgの範囲です。 組み立て前の部品段階では、軽いものは数Kgというところです。 これは手で容易にハンドリングできる重量です。しかし、これを一日、数百個、数千個、手で扱うとなると大変な労働です。 オヒョウがまねをすれば、1時間で腕の筋肉はパンパンになり、ギブアップします。だから、重量物の上げ下げは、極力人力に頼らず、ロボットを多用したり、バランサーや小型クレーンを使用します。 それでも、一部の工作機械への脱着の際は、筋肉を酷使する事になります。また、作業者の平均年齢は40代で、肉体作業に適した年齢とは言えません。

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一方、中国では、よほどの重量物の場合を除いて、作業者の腕力に依存した作業が行われます。 50Kgに近い部品も手で持ち上げます。勿論、作業者の平均年齢が20代前半という事情もありますが、それだけではありません。 労働者の権利意識が低く、改善要求をする発想が乏しいのと、代わりは幾らでもいる・・という、買い手市場の労働力環境の中で、要求しづらいという事情があります。

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産業ロボットがいかに高性能でも、作業者が手でハンドリングした方が能率がよい場合があります。またコストを考えると、無制限なロボットの導入はできません。 労働環境を快適にし、作業を楽にする事は、コストと生産性の面では不利になります。

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勿論、中国と日本の差を勤労者の年齢だけで議論する事は危険です。しかし若年労働者を多く抱える中国は、勤労者の筋力の差が現れる仕事では日本に対して有利になります。具体的には、取り扱う品物の重量が、15Kgプラスマイナスの場合に差が顕著になります。

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それより軽い電子部品や小型家電製品では、日本と中国で差はでません。逆に製鉄所のように、扱う重量が数トン以上では、中国でも機械を使いますから、差はでません。

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つまり、ちょうど中間の重量の領域(15Kgプラスマイナス)で差がでるのです。今度のオヒョウの転職先は、とても人力ではハンドリングできない重量物の世界です・・。別に中国の脅威を感じなくても済む業界を求めた訳ではありませんが・・。

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しかし、中国は、これからも今のままか?と言えば、全くそうではありません。 中国では極端なひとりっ子政策の影響で、もう数年すると人口減少に転じます。とりわけ若い世代の労働力が不足しだします。その時の少子高齢化の速度は日本の比ではないはずです。そして権利意識に目覚めた人たちは、3Kの労働環境を拒否するようになります。 ストも頻発するはずでしょう。

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若年労働力の不足が表面化する数年後には、15Kgの製品を手で扱う肉体作業は、中国ではなりたたなくなります。中国には伝統的にレンガを積んだ建築が多いのですが、過酷なレンガ積み作業もやり手がいなくなります。 まさにアンジェイワイダの「大理石の男」の世界です。

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その頃には、低廉な労働コストに期待して中国に進出していた海外のメーカーは慌てる事になるでしょう。 繁忙を極めるであろう産業用ロボットの業界を除いて・・・。そして、肉体作業を受け入れてくれる新たな国を探して、再び工場を移転させることになるでしょう。 しかし、それが本質的な解決にならないのは言うまでもありませんが。

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その頃、新潟の工場が日本でしかできない仕事に特化して生き残っている事を願いますが、予断はできない・・とオヒョウは思います。


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