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【 事業仕分けへの苦言 その2 】 [茨城県]

【 事業仕分けへの苦言 その2 】 

茨城県鹿嶋市には電波研究所があります。正式名称は独立行政法人情報通信研究機構鹿島宇宙技術研究センターですが、地元では昔から電波研と呼ばれています。砂丘の上に巨大なパラボラアンテナが並ぶ研究所の風景は、ちょっとSF映画の舞台みたいです。そのパラボラアンテナも、だいぶ集約されて数が減ったのですが、直径34mの巨大アンテナは、まだ稼働しています。実はオヒョウの家は、その巨大アンテナの近くにあるのです。

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その研究所では、年に1回、市民に研究所を公開し、研究設備を展示します。そして研究員が説明をしてくれます。研究内容は多岐に亘り、人工衛星を用いたインターネットの研究などもありますが、圧巻は、巨大パラボラを利用したVLBIの研究です。

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VLBIとは、宇宙の彼方の恒星から届く電波の到着時間の差から、地球上の2点間の距離を正確に求める・・という仕組みです。この研究により、日本とハワイが年間23cmずつ接近している事が明らかになっています。将来は飛行機に乗らなくても、ハワイに行ける時代が来るかも知れません。何億年先かはわかりませんが。

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普通、機械的に測定できる物理量の有効桁数は、46桁程度です。数千キロ離れた2点間の距離をcm単位で測定する事は普通の方法では無理ですし、ナンセンスでもありました。しかしVLBIを使えば可能であり、この研究は画期的だ・・・とオヒョウは考えました。

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技術的なハードルは非常に高かったのです。真空中での電磁波の速度は秒速30万キロですから、1cmの精度で寸法を求めるには、光が1cm進むのに必要な時間、つまり300億分の1秒の時間を測定できる時計が必要です。

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しかも、さらに難しいのはその高精度の時計を日本の鹿嶋とハワイで同期化する事です。 電気的にシンクロさせるにしても、ハワイと日本間の電気信号の移動時間は無視出来ません。そもそも電磁波の到達時間のわずかの差を計測しようというのですから、日本=ハワイ間の電気信号の所要時間は無視出来ない値です。同じ場所で時計を合わせて、片方を移動するしかありません。

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日本で時間を合わせた後、一つを飛行機でハワイへ運ぼうとすると、ジェット機に乗せる事になりますが、高速で移動すれば相対論的な理由から、2つの時計の進み方に差ができます。一体どうやって、300億分の1秒の精度で、日本とハワイで正確な時刻合わせができるのか?

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オヒョウはこの疑問をこの研究所の研究者にぶつけた事があります。お話を伺ったのはK博士です。K博士の説明では、遠隔地に時計を運ぶ上で、相対論的な影響は問題にならないとの事。むしろ、自重や風圧でパラボラアンテナがたわむ事の方が位置測定の誤差要因として問題だとの事です。

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でも、オヒョウの次の質問に対して、そのKさんは急に口ごもってしまいました。オヒョウの質問は、

「今はGPSを使えば地上の位置は高精度で求められます。理論的には位置の特定に用いる人工衛星の数を増やせば、GPSの精度はさらに上がるはず。巨大なパラボラアンテナを使用するVLBIの研究はこれからも必要なのですか?」

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Kさんの答えは、

「実は、高精度での位置検出・・という目的を考えた場合、GPS技術があれば、VLBI研究は必ずしも不可欠とは言えないのです。しかし、VLBIのプロジェクトは、各国と共同で進めており日本だけが、簡単に止める訳にはいきません。 それにこのパラボラアンテナの有効活用という問題もあります。このアンテナを計画した時点ではGPS技術がここまで発展するとは思わなかったという事もあります」

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このVLBI研究こそ事業仕分けにふさわしいかも知れません。長期間にわたる大陸移動など、継続的にデータを取る必要がある研究はありますが、それはどこかの時点でGPS観測に切り替える事が可能です。VLBIでは既に多くの成果が得られており、それで完了とする事も可能でしょうし、パラボラアンテナの利用という点では、人工衛星の追跡や電波望遠鏡などに目的を限定しても十分に存続できます。

http://www.gsi.go.jp/common/000024803.pdf#search=%27VLBI%20%E9%B9%BF%E5%B3%B6%20%E8%BF%91%E8%97%A4%27

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一方で、電磁波の研究では、これ以外に研究すべき事が山ほどあります。既にワイヤレスの超高速インターネットの研究は、同研究所でおこなわれていますが、それ以外でも 自動車の自動走行の安全性を高めるミリ波レーダーの研究やドップラーレーダーの研究など、取り組むべきテーマの豊富さは、ある意味で羨ましいくらいです。

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例えば、ドップラーレーダーの技術がより優れたものになれば、ウィンドシアやマイクロバーストの為に航空機が遭難する可能性が減ります。 すぐに役に立つ技術で、未完成のものがあれば、そちらに限られた人材を振り向け、VLBIの研究は、一段落させるべきかとオヒョウは思います。研究官をリストラするのではなく、もっと緊急性が高く、重要な研究に人材を集中させるのです。

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これこそ、必要な事業仕分けだと思うのですが、仕分け人には難しい相手です。独法の研究所の個々の研究テーマについて、蓮舫議員や枝野大臣が踏み込むのは無理でしょうね。せいぜい秘書に身内を採用していないか、チェックするぐらいでしょう。

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広い視野を持たない専門家は、社会全体から見た研究の必要性を判断できません。 一方、広い視野を持つ国会議員や仕分け人達は専門知識を持ちません。 誰もが適切な判断を下せないなか、今日も巨大パラボラアンテナは、星からの電波を受信しています。


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