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【 未亡人たち 】 [映画]

【 未亡人たち 】 

小津安二郎には、家族愛を描いた作品が多いのですが、その作品群を見ると、多くの映画で家族の主要な一員が欠けている設定である事が分かります。不愉快な言葉ですが、欠損家庭というのだそうです。

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戦前の「一人息子」は母子家庭、「父ありき」は父子家庭です。戦後の「晩春」「秋刀魚の味」なども母親が亡くなっていますし、「麦秋」では次男が南方の戦線から帰らないままになっています。

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そして「東京物語」では、息子のひとりが戦死しています。 東京へ来た老夫婦は実の息子や娘ではなく、戦死した息子の嫁に最も親切にされます。姑が亡くなった後、舅から感謝の言葉を告げられ、形見の腕時計を渡されて、その未亡人の嫁は泣き崩れるのですが、その原節子の演技を見て、オヒョウは思いました。

「ああそう言えば、昔の日本女性は両手で顔をおおって泣いたものだな。最近はそういう仕草を全く見ないけれど・・」。

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娘役だけでなく、未亡人役で高い評価を得た原節子は、その後の「秋日和」でも未亡人役を演じています。 こちらは、その娘の縁談が話の中心ですが、美しい未亡人に惹かれる亡父の級友達というのも、ストーリーの一つの経糸になっています。

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それにしても、未亡人という言葉には、妻を夫の従属物とみなす様なニュアンスがあり、ちょっと引っかかります。

近年は人権運動家が、人権への配慮という観点から言葉狩りとも言えるような活動をして、つぎつぎと放送禁止用語をリストアップしていますが、この未亡人という言葉が槍玉にあがったという話は聞きません。 なぜでしょうか?

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夫が亡くなった後の妻の人格を認めない・・という発想は儒教由来のものかな?と思っていましたが、世界には、もっとひどく厳しい習慣があります。イスラム教の一部には、女性の人格を認めず妻は夫の所有物という考え方がありますし、イスラム教以外にもアフリカにも妻の人格を認めない社会があります。 インドのヒンドゥー教の一部には、夫が死んだ後、妻や権妻に殉死を強いる社会もあります。

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そう考えると、未亡人の人格を認めない風潮というのは、案外一般的で日本だけではないみたいです。

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「未亡人というのは、まだ死んでいない人という酷い意味の言葉だ。本当は、まだ死んでいないのではなく、生きているのだ」と語り、未亡人となった義理の娘に再婚を勧めるのは、漫画「めぞん一刻」の音無老人です。

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この漫画をご存じない方の為に申し上げれば、これは30年ほど前に青年誌に連載された漫画で、若く美しい未亡人の音無響子が、2人の男性から思いを寄せられ、いろいろなエピソードが展開するというラブコメディです。亡夫を思う貞淑な女性の心の中で、夫の思い出が次第にフェイドアウトしていく一方、新しい男性への思いがフェイドインしていく様子が面白く、その機微を読み取れる事で、この漫画は大人向きの作品になっています。

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NHKの「BSマンガ夜話」でこの「めぞん一刻」を取り上げた時、出演者のひとり(漫画家いしかわじゅんか、夏目房之介、評論家の岡田斗司夫の誰か)が、語っています。「 この音無響子という女性は、亡夫惣一郎の存在がなければ、とても嫌らしい女性だよね 」。これはある意味、当たり前の事です。

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亡き夫に操を立てるという事情がなければ、2人の男性を二股にかけ、しかもなかなか態度を決めない優柔不断な女性になってしまいます。単なる三角関係では物語が単純ですし、ヒロインの音無響子に陰影を持たせるにも、彼女は未亡人でなければならなかったのです。つまり漫画「めぞん一刻」が成立するためには、ヒロインは若い未亡人である必要があったのです。

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その作中で、音無老人が音無響子に再婚を勧め、諭す話し方が、映画「東京物語」で笠智衆が原節子に語りかける様子に、良く似ているのです。

(これは漫画版というよりアニメ版での話ですが)。

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漫画の作者、高橋留美子が「東京物語」を観てインスパイアされたかどうかは、オヒョウには分かりません。 しかし年老いた男性が、死んだ息子の為に、若い女性があたら人生を犠牲にするのを諒とせず、新しい人生に踏み出せと女性に勧めるなら、自ずと同じような口調になるかも知れませんね。

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このあたり、オヒョウには他に知識が無いので何とも言えません。ただ一つ言える事は、音無響子は両手で顔をおおって嗚咽するという事はしません。 そのあたりが時代の差かな?とオヒョウは思います。


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夏炉冬扇

お早うございます。
東京物語、大好きな作品です。
私はいつも「女房が」といいますが、やはりこれも差別用語ですね。
by 夏炉冬扇 (2009-12-16 08:41) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇さん コメントありがとうございます。

キネマ旬報で、日本の名作映画の人気投票をすると、東京物語は今も必ず登場するそうですね。
オヒョウの好きな映画でもあります。 また、この映画に感銘を受けた多くの映画監督が、この映画を参考にして、多くの映画を作ったと聞いています。 オヒョウの雑文を読んで、多くのブロガーがブログを書く際、参考にした・・・なんて話は全くありません。

ちなみに、私は妻の事を他人様には家内と言っております。家内が未亡人になったあと、何と呼ばれるかを・・・オヒョウは知る事ができません。

またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2009-12-16 12:51) 

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