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【 自衛隊の資材の海外調達は可能か? その3 】 [雑学]

【 自衛隊の資材の海外調達は可能か? その3 】

~君は北朝鮮製の落下傘で降下訓練をできるか~

< 鋼と船について >

 90年代の初めですが、オヒョウが米国のベスレヘムスチールの製鉄所に行った時の事です。 ある幹部の部屋には、大きな写真が掲げてありました。それは、大型の航空母艦の進水式の風景です。

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その部屋の主に「この船の鋼材は、御社で製造したものですね?」と尋ねると、実にぶっきらぼうな言い方で「そうだ」と答え、その後の質問を許さない雰囲気でした。 写真には造船所の名前も、空母の名前も書いて無く、それを確認したかったのですが、断念しました。

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当時、ベスレヘムスチールにとって、ライバルとも言えた日本の製鉄会社に、アメリカの軍艦に使う鋼材の話など、言う必要もない・・・という事でしょうが、当時、米国の製鉄業は、既に日本の敵ではありませんでした。特に厚板部門は衰退していました。 そして、それ以上に衰退していたのは、米国の造船業でした。

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その後、暫くして、メキシコ湾の海底油田掘削リグを建設するプロジェクトがあり、世界の鋼材メーカーと造船会社からコンペで選ばれたのですが、鋼材の方はベルギーと日本、造船会社もイタリアの会社が選ばれました。米国製の造船用厚鋼板は、品質・性能面で劣っており、最初から対象外でした。造船会社も、米国の会社が2,3エントリーしましたが、実績の乏しさから採用に至りませんでした。

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多くの産業は、最初に先進国で隆盛を極めた後、中進国、途上国と主役が交代していくものです。鉄鋼業などは、19世紀~20世紀の前半までは欧米が主役、20世紀の後半は日本が主役、21世紀は中国が主役になろうとしています。 時期やパターンは異なるにせよ、自動車や情報家電も同じ流れです。 しかし造船業は違います。

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確かに、現在造船業の中心は韓国に移り、近い将来中国が首位に就くと思われ、先進国から中進国へ主体が移りつつありますが、フィンランド、フランス、イタリア、デンマークといった欧州の先進国は、いまだに造船業が盛んです。 日本も新造船の数や総トン数で韓国や中国に抜かれても、造船王国の地位は保ち続けます。

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しかし、アメリカはからっきしダメなのです。第二次大戦の後、軍需が減ると造船業は、短期間で衰退しました。理由は分かりませんがアメリカ人のメンタリティと関係があるかも知れません。アメリカ人にとっては、アメリカが世界の中心で、自分から外へ出かけていく必要をあまり感じません。だから船を造って大海原に漕ぎ出すという他の海洋国家の発想が乏しいのかも知れません。

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そのアメリカにも、国策として造船所が残っています。またその材料を供給する為に、厚板を作る製鉄所も残っています。 言うまでもなく国防上の理由から、世界最大の海軍を擁するアメリカは、自国に建艦能力を維持しつづけなければならないのです。本来ならベスレヘムスチールの厚板工場などは淘汰されて当然なのですが。

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でも、これは大変なコストです。 競争力の無い産業(製鉄業と造船所)を海軍の為だけに維持するというのは、結局国民の負担になります。米国民は、表に出る軍事費の他に、こういう形で多くの負担を被っているのです。 軍事費の透明化という点では中国がしばしばやり玉に挙がりますが、実のところ軍事費の明確な定義は曖昧で、各国間で比較のしようもありません。 確実に言える事は、どの国も表に出している金額より本当はずっと多いだろうという事です。

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事業仕分けで防衛省の予算に切り込むなら、この種の目に見えないコストを明確にした後でその是非を議論するべきだと思います。日本の場合も、自衛隊の為に、競争力のない航空機産業を抱えています。勿論、それらの産業も雇用を創出し、GDPを増やし、人々を豊かにしています。 空を飛べば煙になってしまう航空燃料や、発射した後には薬莢しか残らない弾薬の費用とは異なり、経済の再生産に貢献します。そして、いくらかは民間機の開発生産に貢献します。

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だから、防衛関連の目に見えない予算を一概に否定するのではなく、政治判断のもとに、枠を設けるべきでしょう。 日本の産業は、アメリカ程軍需に頼っている訳ではありません。だから事業仕分けによって、コストの見直しや、継続と廃止を決める事はそれほど困難ではありません。

まあそれでも、1時間では無理でしょうが。


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