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【 魔弾の射手 】

【 魔弾の射手 】 

先日、広島ピアノさんのブログを読んでいて思い出したのですが、劣化ウラン弾の問題が各地で指摘されています。しかし、劣化ウラン弾そのものについて、詳しい説明があまりなされない事から一部で誤解も生じている様です。

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必ずしも、誤解とは言えませんが、下記の2点について、考えを整理する必要があると思います。

1.劣化ウラン弾は、弾丸としての機能とは別に、放射線を出し続け、健康被害をもたらす非人道的武器である。だから禁止すべき。

2.この弾丸の使用者は、敵に放射能汚染をもたらす為に、意図的に放射性物質を弾頭に用いているのであり、爆発はしないものの一種の核兵器を公然と使用していることになる。糾弾されるべき。

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しかし、上記の指摘は必ずしも正しくありません。2.の方から検討したいと思います。

まず劣化ウランとは何か?です。ご承知の方も多いとは思いますが、これは天然ウランから核分裂性の235Uを濃縮して取り出した後の残りカスです。つまり天然ウランよりも、235Uの含有量は少なく、238Uが殆ど(99.8%程度)です。 残りカスとはいえ、劣化ウラン中には235U234Uも残存しますし、238Uも放射線を出します。しかし238Uの放射線は235Uに比べればずっと弱く、全体として、天然ウランよりも放射能としての強さはかなり弱くなります。 

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だから、放射能兵器として用いるのであれば、劣化ウランではなく天然ウランの方がずっと好都合です。そう考えれば、意図的に放射能汚染を起こすために劣化ウラン弾を用いるという考え方は妥当とは言えません。

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では何の為に、劣化ウランを用いるのか?それは一言で言えば、重たいからです。正確には密度(比重)が大きいからです。

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徹甲弾などが、分厚い装甲をうち破る為には、弾体の運動量が必要です。 運動量はmvで示され、これを大きくするには質量mを大きくするか、速度vを上げるか・・という事になります。しかし、速度vをあげても、空気抵抗がその分大きくなり、急速に減速してしまいます。 それに、発射時に与える運動エネルギー(1/2mv2)が同じだと仮定すると、質量mを大きくする方が、運動量を大きくできます。

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だから質量を大きくして運動量を確保するのが一般的ですが、同時に体積も大きくなっては、やはり空気抵抗が増大します。だから、密度の大きな重金属を用いる事になります。そこで、密度が19g/cm3もある、ウランが弾丸に好適とされるのです。これは徹甲弾だけではありません。密度が大きい方が風の影響を受けませんから、一般の銃弾にも適しています。飛行機の翼のカウンターウェイトとしても適しています。御巣鷹にジャンボ機が墜落した際にも「この飛行機は危険なウランを積んでいた」と指摘したマスコミがありましたが、なんの事はない、翼のカウンターウェイトの事でした。

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それなら、密度がウランとほぼ同等のタングステンでもいい訳で、実際、飛行機のバランスウェイトはタングステンになりつつありますし、弾丸にも使われています。 さらに言えば、プラチナなどは、密度がもっと大きく、徹甲弾には適しています。 まあ、全く現実的ではありませんが。

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オヒョウの予想では、これから劣化ウラン弾は、多くの国でますます採用される事になると思います。その理由は2つです。

1.核燃料の濃縮過程で副産物としてできる劣化ウランの量はますます増えます。特に原発の建設を急ぐ中国では大量に発生し、劣化ウランが安価になると同時に処分方法に困り、劣化ウラン弾に利用する可能性が高くなります。

2.技術の進歩で装甲は頑丈になり、兵士の着る防弾チョッキの性能も向上しています。それらに対応するには劣化ウラン弾が必要になります。

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これまで、劣化ウラン弾は専ら米軍が使用し、劣化ウラン弾反対の活動は、反米運動と不可分で行われてきましたが、もし中国などがこれを使い始めると、運動家たちは混乱するでしょう。

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そもそも、劣化ウラン弾は非人道的なのか?過去に非人道的だと非難され、使用禁止になった武器・兵器は多くあります。弾丸で有名なのはセポイの反乱の鎮圧などにも使われたダムダム弾です。先端に十字型の切れ込みがあり、体内でキノコ型に変形して殺傷能力を高めるというもので、通常の弾丸に比べて残虐だというのです。 

でも、そもそも相手を殺す事を目的に発砲しているのですから、そのこと自体が非人道的です。弾丸の種類によって人道的か非人道的かを分けるのは全くナンセンスです。劣化ウラン弾も同様で、人に向けて銃を発射するという戦争行為全体を無くす方向で議論するのが筋ではないか?と思います。

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ウェーバーの歌劇「魔弾の射手」では、悪魔との契約の元に、必発必中の弾丸を手に入れる主人公が登場します。一方、現代の兵器は、ミサイルも爆弾も大砲も小銃も、技術の進歩で命中率を上げ、必発必中、殆ど神技の領域に近づこうとしています。 いや神業の領域ではなくて悪魔の領域かも知れません。 オペラの世界が現実になっています。

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しかし、考えてみれば、罪のない人に向かって発砲する戦争行為自体がすでに悪魔の如き仕業ともいえ、弾丸の種類を問いません。劣化ウラン弾であれ、通常弾であれ、全て魔弾であるとオヒョウは思います。


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