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【 長編小説を本当に映像化できるか その2 】 [映画]

【 長編小説を本当に映像化できるか その2 】

坂の上の雲」のTVドラマ化について

おそらく明治人とは、現代人とは違う人種ではなかったのか?とオヒョウは思います。

ちょうど同じ土地に棲んでいた歴史があってもネアンデルタール人とクロマニヨン人が別の人であるように、あるいは同じ日本列島に住んでいた歴史があってもコロボックル人と現代日本人が異種の民族であるように。

だから、現代日本の俳優が明治人を演じようとする時は、なまじ外見が似ているだけに、注意が必要です。

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ここでいう明治人とは、明治の前半に教育を受け、壮年期に、日清・日露戦争から第一次世界大戦までを経験した人々です。

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封建主義が色濃く残る時代に教育を受け、決して先進国ではなかった日本の国民として、矜持は持つけれど驕りは持たず、西洋諸国に対しては謙虚で西洋事情をよく学び、一方で列強の脅威に対しては、警戒し緊張感を持つ、そういう世代が国家をリードしたのは日本史上、ごく短い期間です。そういう人物が輩出したのも短期間です。しかし、司馬遼太郎はその人達が主人公の小説を書きました。

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彼等は、幼少時に漢文の素読を習い、長じて英語を学校で学び、少なくとも、日・漢・英のトリリンガルだった訳です。ここで言うトリリンガルというのは、三カ国語を話すという事ではなく、3種類の文化・思想を理解するという事です。

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「坂の上の雲」に登場する、夏目漱石は、二松学舎で漢文と習い、大学予備門と大学では英文学を学び、漢詩も作れば、英文の詩や小説も理解し、子規に学んで俳句を作り、そして日本語の小説を書きました。

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漱石は例外的なインテリであるとしても、当時の教養人は普通に漢文の素読ぐらいはできたのです。趣味で漢詩を作る人もたくさんいました。そして上級学校での授業は英語で行われました。

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そして彼等のバックボーンは儒学であり、論語を普通に暗唱していたのです。正岡子規も、軍人であった秋山兄弟もそういう教育を受けた明治の知識人です。

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明治の知識人は、大正時代に減少し、昭和20年に絶滅しました。今の日本人は、その遺伝子を引き継いでいません。だから、その人達を・・・現代の俳優に演じきる事ができるか?オヒョウは疑問に思うのです。むしろ、日本人俳優が、違う人種である白人を演じる芝居の方が、ましかも知れません。

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次ぎに問題なのは、NHKの姿勢です。戦争が絡むストーリーを的確に演出できるか・・という問題です。「坂の上の雲」は決して侵略を肯定したり、軍国主義を礼賛する小説ではありませんが、主人公は軍人であり、戦争は国外で行われます。だから下手をすると必要以上に、外国に気兼ねして、原作に忠実でなくなる可能性があります。

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昭和40年、NHKが大河ドラマの3作目として緒方拳主演で「太閤記」を放送した時は、日韓関係がデリケートな時期でした。豊臣秀吉の一生を語る時に朝鮮出兵のエピソードは欠かす事ができません。しかし、TVドラマでは完全に無視しました。一度だけ、ねねが秀吉に「朝鮮の事はどうなっています?」と尋ねたのに対して「ああ、あれは治部(石田光成)にまかせておる」と一言語るだけで済ませています。あきらかに日本政府への配慮で変更したのです。

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同じように「坂の上の雲」は舞台がデリケートです。ロシアも中国も朝鮮も登場します。それらの国からどの様なクレームが来るか分かりません。ロシアも中国も表現の自由を認めない国です。彼らは政府がメディアに圧力を掛け、検閲するのが当然と思っており、もしそれをしないなら、そのドラマの内容は政府の意向に沿ったものとして考えられます。

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清やロシアと戦い、それをうち破る軍人が主人公となれば、彼らは、自分たちを敵役にし、かつ日本の軍国主義を礼賛するドラマが国営TV局から放送されると、大騒ぎする可能性があります。少なくとも、難癖を付ける材料にはなります。NHKはどう対処するか?そして鳩山政権はどう対処するのか?

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中国では日清戦争(向こうでは甲午戦役と言います)も日露戦争も、日本の帝国主義が引き起こした侵略戦争であると、歴史教育で教えています。日露戦争でのロシアは、中国を日本の侵略から守る為に駆けつけた正義の味方の助っ人で、代わりに日本と戦ってくれた・・という、噴飯物の解釈をしています。

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勿論、オヒョウは日露戦争の解釈の矛盾点を突っ込みます。では、開戦前に、満州(現東北地方)の多くの利権はなぜロシアのものだったのか? 旅順港はどうしてロシア海軍に占拠されていたのか? 大連にはロシア風の街並みがあるが、あれは戦争前からロシアが中国の一部を植民地化していた証拠ではないか?ロシアは正義の味方ではなく、日本は日露戦争で中国大陸のロシア利権を奪い、北部中国全体がロシアの植民地になるのを防いだのではないか?

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矛盾点とその証拠を示すと、多くの中国人は困惑しますが、日本が侵略思想に燃えた帝国主義者であると刷り込まれた、彼らの意識を修正する事はできません。その彼らにとって悪夢である日清戦争と日露戦争を美化する(ともとれる)TVドラマは看過できないでしょう。彼らがどういう圧力をかけるか。それに対してTV局は変に阿って、原作を歪曲しないか・・・正直いってオヒョウは心配です。

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人気のある「坂の上の雲」が長い間、映画化もTVドラマ化もされなかったのには、それなりに理由があります。今回、それらの困難を振り払って、ドラマ化した勇気をオヒョウは評価しますが、それでもやっぱり心配するのです。


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