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【 長編小説の本当の映像化は可能か? その1 】 [映画]

【 長編小説の本当の映像化は可能か? その1 】

 かつて、オヒョウの母が私に言った事があります。

「 長編小説を映画にする事は難しい。特に思い入れのある小説が、映画化されたと聞いて、期待して見に行っても、内容が実に物足りなくて、がっかりする事が多い 」

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母がこう言ったのは、ユーゴーの「レ・ミゼラブル」とトルストイの「戦争と平和」の事です。 レ・ミゼラブルについては邦題「ああ無情」ですが、これにはフランス映画と、翻案された日本映画の2種類があり、母がどちらを指して言ったのかは不明です。

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「レ・ミゼラブル」も「戦争と平和」も、長編小説で、作中には実に多くのエピソードがありますが、映画にすると、どう頑張ってもエピソードの多くを割愛せざるを得ません。それが小説を愛し、熟読した人には物足りない・・・という事なのです。

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長編小説が映画化不可・・・となれば、ロシアの大河小説は大半が映像化不可という事になります。しかし実際には、それなりに映画化されています。 中国に行くと、西側に紹介されていない旧ソ連の映画がたくさんあるのに驚きます。その中にはロシアの名作小説を映画化したものもたくさんあります。でもオヒョウは残念ながら見ませんでした。原音声がロシア語で、吹き替えや字幕スーパーが中国語では、オヒョウの実力では鑑賞不可能だからです。

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日本の小説で一番長い長編小説は、ずっと長い間、中里介山の「大菩薩峠」でした。母はこの小説も映画化は無理だと言っていました。原作が長編過ぎるからですが、実際には映画化されています。勿論、映画で取りあげたのは原作のごく一部分だけです。

そして、今世紀に入り、日本の最長の小説は、栗本薫の「グイン・サーガ」に記録更新されました。 これも全編の映画化はとうてい困難ですが、NHKはその一部分のエピソードをアニメ化しました。しかし、これもやはりグイン・サーガのファンにとっては、全く物足りない様です。

もっとも、こちらの意見はオヒョウの母ではなく、愚妻の方ですが。

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しかし小説が長すぎて、どの様にカットして映画に納めるか・・というのは実は本質的な問題ではないようです。なぜなら、同じ長編小説の映画化でも、マーガレット・ミッチェルの「風と共に去りぬ」は傑作映画として、母も含め多くの人が認めるからです。一般的にアメリカの長編小説は、映画化されても評判が下がる事はあまりありません。 これは主演俳優や主演女優の力量によるのかも知れません。

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「風と共に去りぬ」に出演したクラークゲーブルやビビアン・リーは、名優と大女優です。小説を読んだ時に、読者がイメージする主人公像を超えていたかも知れません。 或いは「エデンの東」のジェームス・ディーンもそうかも知れません。

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オヒョウが「そうかも・・」と言うのは、オヒョウが原作(但し日本語版)を読んだのは、既に映画を見てからであり、最初から、スカーレット・オハラはビビアン・リーのイメージが固定化していたからです。「エデンの東」も同様です。

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そう考えると、原作の小説と比較して、映画を物足りなく感じるかどうかは、監督や演出家、演じる俳優の想像力が、読者の想像力を超えられるか否かにかかっているのではないか?という結論になります。

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つまり、監督や俳優の力量が問われる訳ですが、この点でオヒョウが不安に思うのは、これからNHKが放送するTVドラマ「坂の上の雲」です。司馬遼太郎の長編小説を短いTVドラマで、どこまで正確に表現できるだろうか・・・・?

オヒョウはこの小説が大好きで、熟読した記憶があります(実はオヒョウの遠い親戚もこの小説に登場します)。それだけにTVドラマの出来を危惧するのです。

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「坂の上の雲」には、他の明治時代のエピソードを扱った小説とは異なる難しさが3点あります。

1.庶民階級出身ながら、明治時代のトップクラスの選良であり、インテリであった青年達の苦悩を本当に描けるか?

2.当時の日本が置かれた、世界情勢、国際関係を公平中立に描けるか?

3.明治という時代が持つ、活気があるけれど、暗く重苦しかった時代背景をどこまで忠実に再現できるか?

実は「坂の上の雲」の世界を、別の言葉や画でとらえ直そうという試みは小説や漫画で何度も試みられ、多くが失敗しています。それらについての考察は、次号で申し上げます。


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夏炉冬扇

お早うございます。

司馬遼太郎、その博識と思考力に敬服しました。

明治・大正・昭和と下る毎に人物の気力、低下すると感じています。私も然り。
by 夏炉冬扇 (2009-11-24 08:14) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇さん、コメントありがとうございます。
司馬遼太郎について書こうとすると、ブログなどには書ききれない話になり、そんな大それた事はできないのですが、司馬の考えのごく一部を切り取って
オヒョウの理解を、ちょこっと抱き合わせて書いてみたいな・・などと考えています。 明治人・大正人・昭和人の比較も、司馬の大きなテーマですが、
それについて、昭和の若造のオヒョウも少し書いてみたいと思います。
次号で、一部を書いてみようかと思いますので宜しくお願いします。
by 笑うオヒョウ (2009-11-24 11:11) 

笑うオヒョウ

はっこうさん、nicewありがとうございます。
今週中に、札幌の話題についても書こうと思っております。
by 笑うオヒョウ (2009-11-24 17:41) 

Dr.Y.

私は原作を読んでおらず、もともと映画化TV化は原作とは別のものだと思っています。で、NHKの予告番組がインパクトがあったので、ものすごく期待していました。10年以上前、渋柿モックンがやはり主演で出ていた大河ドラマ慶喜にいたく感動したので、同じようなイメージ(因循姑息な時代、私が今いる環境のような)が開放されてゆく、というような期待をしていました。
で、昨晩の放映、10分持たずに脱落しました。理由はよく分かりませんが、時代考証とかその辺の問題ではなさそうですね.........(別に、ボクシングを見ていた訳ではないですが) 
by Dr.Y. (2009-11-30 08:19) 

笑うオヒョウ

Y博士殿 コメントありがとうございます。
今回については私も全く同感です。私も開始後早い段階で幻滅しました。ボクシングにチャンネルを切り換えた訳ではありませんが・・。
本木という俳優については、送り人にしても、大河ドラマの徳川慶喜にしても、名演であり、大好きな俳優なのですが、その前の子役の時点でギブアップです。理由については・・機会があれば、ブログに述べたいと思いますが、多分オーバーな演出(喜怒哀楽をコメディの様にデフォルメしています)や、陳腐な設定(貧しい家の子供が、ガキ大将にからかわれながら刻苦勉励するという善玉と悪玉の関係)に違和感を覚えた・・というところです。 他にも多々ありますが、またそのうちに書きます。

by 笑うオヒョウ (2009-11-30 12:02) 

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