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【 鬼の野依の面目躍如 】

【 鬼の野依の面目躍如 】 

光学異性体の効率的な製造方法の研究などでノーベル賞を受賞した理化学研究所の野依理事長が吠えました。科学技術研究予算をバッサリ切ろうという事業仕分けを批判し、仕分け人達に

あなた達は歴史の法廷に立つ覚悟がおありか」と尋ねたそうです。オヒョウが審査員なら、今年の名台詞の第一番に指定したい言葉です。前日有力9大学の学長も文教予算(特に科学技術研究予算)の削減に反対するアピールを出していますが、迫力が違います。

そう、確かに今の為政者達の思考は、後世、人々からどう評価されるか・・という観点が抜けている様に思います。

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名古屋大学の教官だった頃、野依教授は「鬼の野依」と言われていたそうです。学生の怯懦を絶対に許さず、その指導の厳しさは知れわたっていたそうです。卒業研究の内容に満足できない時は、就職が決まっていようとお構いなしに落第させたとか、武勇伝は他大学にも聞こえました。

他のノーベル化学賞受賞者の福井博士、白川博士、田中さんなどは、みな温厚な性格と聞いていますから、野依教授はちょっと異質です。学生指導教官としては、教え子を立派な研究者や技術者に育てる事が第一番ですから、厳しい方がいいのか、優しい方がいいのかという議論は、後に優秀な研究者が育ったか否かで決まります。

野依教授自身は、京大時代に薫陶を受けた恩師のスタイルを踏襲しているのでしょうから、それでノーベル賞学者が育つ・・という事は立証された訳です。今後さらに野依研究室のお弟子さんからノーベル賞受賞者が輩出すれば、野依先生の勝ちです。優秀な研究者が育たなかったら、ただの厳しいだけの先生になってしまいます。 

その結果は将来判明します。

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ところで、科学者や研究者が事業仕分けに対して、一斉に反発しているのは、単にお金が削られるからではありません。学問的な説明をしようとすると、それを拒否し問答無用とやられる事に堪えられないのだと、オヒョウは思います。

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独善と言えばそれまでですが、学者・研究者は門外漢に干渉される事を嫌います。

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理由の一つは、学問の世界には、専門知識の量と深さ、それにその世界に何年いるかで発言力が決まる・・・という、ある意味民主的でない構造がある事です。言葉を換えれば、専門知識を持たない人は口出しするな・・という事です。

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理由のもう一つは、学問の世界は基本的に性善説に立ち、予算を無駄遣いしたり、ちょろまかすような悪意の人はいない・・という発想です。確かに学問の世界で生きていく人は、金銭よりも名誉や学術的評価を重んじますし清貧もまた可なり・・という人もいます。だから、予算が多すぎるの、無駄遣いしているだのと、外野席から指弾されるのは心外なのです。

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今、上記の2つの事情を、外部に訴えても通用しないでしょう。でも、学問の独立性は維持したいというのが本音です。

学の独立は・・・早稲田大学の「都の西北」の歌詞にも登場しますが、学園の自治と学問の独立は、学問の府の生命線だと考える人は今でもいます。

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それなのに素人からいろいろ干渉され、挙げ句に自分達の研究を否定されては、プライドの高い学者達の怒りは納まりません。そこで、その学者達を代表して、厳しさに定評のある野依理事長が意見を表明したという事でしょう。

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<スーパーコンピューターの話題に戻します>

このプロジェクトの予算は、復活しそうですが、問題の本質は事業仕分けのシステムにあります。

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スーパーコンピューターの研究に反対の立場の人には2通りいます。絶対反対派と条件付反対派です。

1.絶対反対派

技術的な詳細はともかく、このプロジェクトは、すぐには国民の福祉に貢献しないものだから斬る。

2.条件付き反対派

研究内容が陳腐で、予算を付けるのに値しないから斬る。これがもっと先端的な研究で、世界一になれそうな内容なら認める。 一方、賛成派はあたりまえですが、1種類です。

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だから、技術的説明をしようとすれば、

1.の絶対反対派が技術論を遮り、プロジェクトの目的を平易に語れば、2.の条件付き派がこれでは所期の目標は達成できないはず。詳細な技術的根拠を示せと反論され、説明の機会も議論の余地も封じ込められます。

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最初から、予算を削減する様子を国民に見せるパフォーマンスなのですから、仕分け人の人選段階で結果は決まっていたのです。国民生活と遠いところにある研究をスケープゴートにしようと。

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人々は、筋書きのあるドラマであっても、それに気付かず熱狂して見る事があります。かつて力道山のプロレス中継を見た人達と同じ人達が、事業仕分けを見て感動しています。それが政府の狙いです。

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<ここで再び、学問の独立の話に戻します>

理化学研究所はともかく、大学の自治に政府が干渉しようとして事件になった事は、昔から幾つもあります。

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有名なところでは、戦前の京大事件です。滝川教授の罷免を巡って大学と文部省が対立した事件ですが、大学を説得に来た文部大臣が、小西総長を前に困り果てた顔をした写真が有名です。その時の文部大臣を見れば・・・ああ鳩山一郎、現首相の祖父です。

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鳩山首相は、今回のノーベル賞/フィールズ賞学者の緊急アピールに対して「一度お会いしてお話を伺いたい」と言っていましたが、野依博士の迫力に勝てるとは思えません。

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かつて、おじい様は京大総長に噛みつかれ、孫は京大出身のノーベル賞学者に噛みつかれる訳です。やっぱりおじいさんと同じ様に、困り果てた表情をするのかな?

 


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笑うオヒョウ

はっこう先生 
niceをありがとうございます。
ブルーバックスについて書かれたブログを拝読いたしました。
わが意を得たり・・という思いでした。

これからもお読みいただければ幸いです。
by 笑うオヒョウ (2009-11-27 03:04) 

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