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【 甘みの研究 その1 】 [雑学]

【 甘みの研究 その1 】 

雁屋哲が漫画「美味しんぼ」の中で、面白い事を言っています。「苦みや辛み、酸味などは、微妙な加減が重要で少しでもバランスを崩すと味がだいなしになり、まずくなる。しかし甘みは鈍感で、ひたすら甘くても許される事もある。だから甘みとは下品な味覚だ」味に上品も下品もなかろうと思う反面、彼の主張も理解できます。ひたすら甘い・・というのには若干抵抗を覚えますが、確かに許容範囲が非常に広い味覚かも知れません。 料理人にとってはデリケートさを求められない易しい味覚という事になります。

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では、我々はなぜ甘味に対して甘いのか?これは、オヒョウの独断ですが、甘みはカロリー摂取と密接に関連し、古来、常に飢餓に苦しんでいた人類は、いつも甘みを歓迎していたのではないかと思います。 現代は飽食の時代となり、多くの人々がカロリー制限とダイエットを考える様になりましたが、これは人類の歴史上、極めて希な一瞬と言えます。 いや、今だって何らかの事情で、食料が手に入らなくなれば、てきめんに甘みが恋しくなるはずなのです。

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太平洋戦争時に下級将校だった山本七平は南方で終戦を迎え、抑留生活を経験しています。そこで彼が経験したのは、餓えた状態では性欲よりも食欲が優先し、食欲の中でも甘みに対する渇望が強くなるという現象です。 捕虜収容所では、若い女性が食事の給仕係をしたそうですが、その女性への興味より、彼女が手渡してくれる一椀の粥の方によほど関心があったとの事。そして食事よりも、1個の大福餅の方にずっと憧れたと語っています。 普段は辛党で甘いものは苦手だ・・という人も、栄養失調になれば、甘いものを渇望するはずです。

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人々が甘みに憧れたのは、大昔からです。日本の場合、平安時代は、蔦から採取した甘ずら、果実、蜂蜜などが甘みの主体だったそうです。 江戸時代でも一般的な甘みは、飴に含まれる麦芽糖などが主で、砂糖はめずらしかったのではないか?と思います。

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江戸時代、加賀藩は氷室という穴に冬季の内に雪を溜め、夏に取り出して食べたり、将軍家に献上したそうですが、雪には蜂蜜を掛けて食したそうです。つまり砂糖よりも、蜂蜜の方が一般的だったという事です。

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砂糖の三大原料である、砂糖ダイコン、砂糖カエデ、砂糖キビの内、鎖国時代の日本で生産されたのは、砂糖キビだけですが、奄美と琉球を除けば、その収穫量はわずかで、その質も高いとは言えませんでした。四国で生産される和三盆には、独特の味わいがあり、和菓子の原料として珍重されますが、砂糖(蔗糖)の質としては高いとは言えません。

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だから、中世から20世紀の中頃まで、甘みの原料となる砂糖はひとつの戦略物資でした。江戸時代、幕府から厳しい搾取を受けて、本来疲弊するはずだった薩摩藩が、財力を蓄え、討幕運動を展開できるようになったのは、ひとえに密貿易と、琉球と奄美から砂糖を手に入れる事ができたからだと思います。

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明治以降、鎖国が解かれ、大量の砂糖が輸入される様になって、甘みは庶民のものになりましたが、つい最近まで・・・(20世紀後半まで)、砂糖が戦略物資で歴史にも影響を与えた事は事実です。

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第二次大戦中、ドイツは潜水艦Uボートで大西洋の通商を破壊し、英国を兵糧攻めにしました。結局、その作戦は失敗し、逆に日本列島が飢餓作戦の対象になってしまいました。

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通商が途絶した英国では、食料や消費物資の不足に悩みましたが、砂糖もその一つです。当時、英国では紅茶を頼むと、角砂糖が2つソーサーに乗って出てきました。戦時下の英国では、その内の一つをカップに入れ、残りの一つは包んで自宅へ持ち帰るのが、ならいでした。英国版の「欲しがりません。勝つまでは・・・」です。

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ドイツの方も甘みに飢えたのは同じです。そして彼らが、多用したのがサッカリンやズルチンです。 サッカリンは米国で、ズルチンはドイツで発明されていますが、急速に普及したのは、戦中戦後の物資不足の時です。

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実際、ドイツで食後に出されるデザートには極端に甘いものがあります。ドイツ人がこれほど甘いものが好きなら、砂糖が途絶えた場合、彼らは辛いだろうな・・・とオヒョウは思いました。

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昭和30年代、豊かな社会のバロメーターとして、白い物を大量に消費する社会こそ豊かな社会である・・・という珍説がありました。具体的には白い物とは、紙であり、砂糖だった訳です。

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その後、米国やドイツに行くと、それらの国の人々がふんだんに紙や砂糖を消費しているのに驚かされました。紙や砂糖の消費量を豊かさのバロメーターにするという事は、単に米国と西ドイツを最も豊かな国とする為の指標ではなかったのか?・・とさえ、思います。しかし、日本でも、戦後、いち早く製造業で活況を呈したのは製糖業と製紙業でした。

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今、ダイエットと虫歯予防の敵である、甘みは忌避され、砂糖の摂取は慎むべきものとされています。一方、全世界で砂糖の生産は過剰です。もはや、砂糖は戦略物資ではなく、歴史を作るエピソードには絡まないのか・・・・? 

いや、そうではなく、これからが本番です。それについては、次号でオヒョウの管見を述べます。


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