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【 イチイの木 】 [医学]

【 イチイの木 】 

先日、群馬県のゴルフ場に行った時の事です(断っておきますが、ゴルフが極端に下手なオヒョウも、おつきあいでゴルフに行く事がありますが、本音を言えば、ゴルフは全くの苦痛です)。

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あるホールのティーグラウンドの近くに一本の木があり、赤い実がなっていました。 キャディーさんがその実を指さして、「これはどうも毒があるみたいですね。 この木の近くで、カケスやオナガがよく死んでいるのですよ。きっとこの赤い実を食べて毒に中って死ぬのだと思います」と物騒な事を言います。

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見れば、我が家の庭にあるキャラの植木に似た灌木です。

「 ああ、櫟(イチイ)の木だな・・ 」と分かりました。飛騨高山に旅行された方は、飛騨の一位一刀彫の彫刻をご覧になったかも知れません。 一位一刀彫は、主にこの材木を用いた彫刻ですが、木目が緻密なこの木は、実際、彫り物に適しています。飛騨では「一位」の漢字を当てて、上質な木工品である事を強調していますが、材料がイチイの木でない場合も・・・そう呼ぶのか?オヒョウは知りません。

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そして、この木の実の種の部分にはアルカロイドの毒が含まれます。この実を食べた、鳥が死ぬであろうことは、容易に想像できますが、でもキャディーさんの説明には不可解な部分もあります。

 1.毒は即効性なのだろうか?

食べた鳥がその場でパタリと落ちて死ぬというなら、青酸カリなみの猛毒という事になります。 あるいは致死性のガスであれば即死しますが、そうではありません。木の実を食べて消化し、その毒が体に廻るのには、少し時間がかかり、その間、鳥はかなりの距離を飛行します。どうしてイチイの木の下に鳥が落下するのだろうか?

 2.鳥は学習しないのか?

小鳥は、脳みその小さい動物ですが、種類によってはそれなりに知能があり、仲間同士でのコミュニケーションが可能です。イチイの木の実が危ない事は、仲間内で学習され、中毒する個体は無くなるのではないか・・・とオヒョウは思うのですが、どうでしょうか?

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生物毒を理解する上で、有名な疑問が一つあります。 フグの毒は、外敵から身を守るのに役立っているか?という問題です。 フグを食べた捕食者は、仲間にフグの危険性を知らせる前に死んでしまいます。だから、生きている魚は全てフグが危険な魚である事を知らない訳であり、毒があろうとなかろうと、フグが襲われる危険性は変わりません。 わずかな違いとしては、一匹の捕食者が複数のフグを襲う事はない(死んでしまうから)という事がありますが、体内に大量の毒素を蓄える労力に比べて、メリットは小さいと言うべきです。

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それに似た疑問がイチイの実についても言えます。イチイは、果実を鳥や動物に食べて貰って、種子を遠くに運んで貰う為に果肉の部分が甘くなっています。一方噛み砕かれては困る種子の部分には猛毒を持たせています。 しかし、その猛毒は種子が噛み砕かれるのを防ぐ効果はあるのか?鳥や動物に毒の存在が分かれば、種子は安全ですが、実際には種子を食べた捕食者は死亡してしまい、仲間にその危険を告げる事ができません。 したがって毒の存在は、捕食者に種子を噛む事をためらわせる機能を持ちません。 

イチイの毒は種子だけでなく葉や樹皮にもあるそうです。でもイチイにとって、このタキシン(taxine)というアルカロイドの存在は意味を持つのか?

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イチイにとっては無意味な毒も、人間にとっては有用です。イチイの実の毒は、2000年の昔にシーザーらによって書かれたガリア戦記にも記されているそうですから、かなり歴史があります。(多分、人間でもこの実を食べて中毒になった人がいたのでしょう)。 余談ですが、ガリア戦記と名前だけちょっと似ているアニメのゲド戦記にも、このイチイが登場するそうです。 宮崎監督(息子)の意図は不明ですが、ガリア戦記へのオマージュか?

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しかし、人々は2000年間、この毒の使い方を知りませんでした。それが1990年代、有力な抗ガン剤タキソールとして、イチイの毒は登場しました。 特に乳ガンには効き目があり、多くの乳ガン患者にとってタキソールの登場は朗報だったとの事です。多くの抗ガン剤は毒と紙一重、または毒そのものであるという事は、素人のオヒョウにもなんとなく判ります。 正常な細胞とガン細胞への毒の影響差を利用したのが抗ガン剤であるとすれば、イチイの毒の可能性は、もっと早く着目されても良かったのかも知れません。 そこで思い当たるのがイチイの漢字表記です。木へんに楽しいと書いて、櫟(イチイ)というのは、まるでこの樹木が抗ガン剤を提供する樹木である事を予言していたかの様です。この漢字は誰が造ったのか?

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かつて中国の神農は全ての草木について、毒か食用か、薬かを識別したそうですが、彼がイチイの抗ガン剤の効果を発見して、櫟の漢字をあてたなら凄いことです。 これはガリア戦記よりも更に2000年遡る事になります。 

まさに「畏るべし中国4000年の歴史」という事になりますが、現代中国で、タキソールが認可使用されているか・・・寡聞にしてオヒョウは知らないのです。


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