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【 鉄道員・鉄道員 】 [映画]

【 鉄道員・鉄道員 】 

先日のブログ【 茶色の靴 】に花嫁の父を描いた最高傑作として小津安二郎の一連の映画を挙げましたが、考えてみれば、他にもすばらしい映画はたくさんあります。断定的に書いた事をちょっと反省します。

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その時、私が頭に浮かべたのは、イタリアの映画監督ピエトロ・ジェルミ監督の「鉄道員」です。何十年かぶりに、その映画を見たくて、レンタルビデオ店に行き、イタリア映画のコーナーを調べましたが、ありません。

カウンターに行って、店員に「『鉄道員』はあるか?」と尋ねると、高倉健のコーナーを指さし、小声で

「お客さん、あれは『ぽっぽや』と言うのですよ」と耳打ちします。

・・・・馬鹿め、若造が何を言うか・・・とちょっと不機嫌になって、店を出ました。

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ピエトロ・ジェルミはネオリアリズムのビットリオ・デシーカなどの後の世代に属しますが、自ら主演する「鉄道員」「刑事」「わらの男」の3部作など、白黒映画の佳作を作っています。単なる、社会派の映画ではなく、家族愛や男女の情感なども丁寧に描いています。

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余計な事と承知の上であらすじを申しますと・・・・

初老の鉄道員というのは、それだけで、ちょっともの悲しい存在です。しかし、特急の運転士として誇り高い仕事をしていた主人公とその家族は平穏で幸せな生活を送っていたのですが・・・・。

 ある日、主人公の運転する列車に鉄道自殺があり、彼は心の傷を負います。 ついつい酒を飲んで紛らわす訳ですが、その後、大事故になりかねない重大ヒヤリの過失を起こします。その際、酒気帯びだった事が問題視され、主人公は特急の運転士から構内入れ替え作業の運転士に格下げになります。

主人公は抗議しますが、聞き入れられず、組合にも相談しますが、相手にして貰えません。「 組合は、何もしてくれない・・ 」そう思った主人公は、ついにスト破りを決行します。

その結果、職場で孤立し、村八分にされ、娘や家族とも対立します。家族もバラバラになった中で、嘆き悲しむ妻が息子に語ります。

「 誰も悪くないのに、皆が幸福になろうとしているのに、どうして不幸せになってしまうの 」

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オヒョウはこの台詞を聞いて、「そんなの当たり前じゃないか。水戸黄門じゃあるまいし」と思いました。 悪役がいて、悪事を働いたから、悲劇が起こるなどという単純な話は、実際にはあまりありません。 善人ばかりでも悲劇は起こる・・。 これは、映画にも小説にも数多くあるパターンです。

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その後、クリスマスの晩に人々は集い、皆の間で和解が実現します。娘と娘婿を祝福し、友達と喜びの酒を飲んだ後、平和の中に主人公の穏やかな死が訪れます。

和解と平穏の中で、人生を終えるというパターンも、多くのドラマに登場しますが、主人公が安らぎの中で最後を迎えるのは、観客にも、一種の救いを与えるものです。

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ちなみに浅田次郎の作品「ぽっぽや」でも、最後に主人公は安らかな死を迎えます。そして死の前に、ずっと昔に亡くした娘の幻との再会が、彼の心を和ませます。また、それによって観客も慰められます。 浅田次郎がピエトロ・ジェルミの映画にインスパイアされたかどうか分かりませんが、定年間際の鉄道員の死を描くと、どうしても似てくるのかも知れません。

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ところで、オヒョウはイタリアの出張先で先方の技術者と鉄道談義をしたことがあります。 ローマのテルミネ駅発の列車が大幅に遅れて、訪問先に迷惑を掛けた事がきっかけですが、イタリアにも鉄道ファンがたくさんいるのです。 

オヒョウが、「 イタリアには、有名な特急セッテ・ベルロ号がありますね 」と話しても、相手は誰も知りません。

しかし、部屋の中にいた最年長の男が「 セッテ・ベルロ号は大昔の列車だ。今、イタリアを代表する特急はペンドリーノ号でその名前の通り振り子電車だ 」と語りました。オヒョウは、振り子電車は日本固有の技術だと思っていたのですが、とんでもない誤りで、曲線の多い欧州の鉄道でこそ真価を発揮するものでした。

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ピエトロ・ジェルミの映画に登場する特急は、ペンドリーノ号でもセッテ・ベルロ号でもない、旧式の列車でした。 しかし、鉄道が近代化され、特急列車が高性能でスマートになっても、老いた鉄道員の心情は、おそらく変わらないでしょう。 そして、それはイタリアでも日本でも同じだろうとオヒョウは思います。


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コメント 2

jiangyinkamen

シルバ・コシナが長女役で出ておりましたね。
by jiangyinkamen (2009-10-25 20:21) 

笑うオヒョウ

江陰仮面さん、お久しぶりです。コメントをありがとうございます。
私の記憶に間違いがありまして、皆が和解して、主人公が亡くなったのは、 結婚式ではなくクリスマスの晩でした。そして娘は既に結婚していていました。 その間違いを確認できなかったのは、レンタルビデオ屋に、肝心のDVDが無かったからですが・・・という言い訳はしない事にします。
以後、気を付けますので、どうかお許しを・・・
by 笑うオヒョウ (2009-10-25 23:18) 

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