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【 造船業と安全保障 その1 】 [雑学]

【 造船業と安全保障 その1 】

 

世界の主要な造船会社と造船所という括りで、インターネットで調べると、驚いたことに米国からは2箇所しか選ばれません。いずれも東海岸のノーフォークとニューポートです。どちらも米海軍の艦艇を製造する造船所で、有名な艦船を製造しています。

世界初の原子力空母であるエンタープライズは、ニューポートで建造され、ノーフォークを母港としています。最新の原子力空母であるジェラルドRフォードもニューポートで建造されています。実は、空母の核燃料を交換できる港はニューポートだけで、ニューポートの造船所をなくすことはできません。ニューポートとノーフォークだけとなると、どうやら、民需に頼る造船所は駆逐されたようです。

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ちなみに、エンタープライズの加圧水型原子炉は、あの東芝を破綻に追い込んだウェスチングハウス製ですが、最新のジェラルドRフォードでは、ベクテル製に切り替わっています。原子炉の世界も栄枯盛衰が激しいようですが、これについては別稿で申し上げます。

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米国では、大型の正規空母を建造する技術と原子力船/艦を製造する技術の維持・継承が必要であり、どうしても上記のニューポートとノーフォークを残す必要があるのでしょうが、この2箇所のドックだけでは・・・実際のところ大規模な戦争に堪えられるか不明です。

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今から20年以上前、私が石油掘削リグを建造する造船所を探して、南部(メキシコ湾岸)を回った時には、アーカーガルフマリーン(コーパスクリスチ)やアボンデール(ニューオーリンズ)の造船所にはまだ活気がありましたが、今はもはや、米国には民間の大型船舶を製造する造船所は生き残っていないようです。

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米国には民間船舶として、大型客船や石油掘削リグ、LNGタンカー、コンテナ船などの高付加価値船舶の需要が一定量あります。(ここで高付加価値船舶)とは、トン当たりの単価が比較的に高い船舶を意味します。一番高いのは漁船で、一番安いのは石油のタンカーだそうです)。しかし、もはやそれらの船舶を国内で製造することはなさそうです。

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では、今、それらの船を建造するのはヨーロッパの造船所かな?と思えば、欧州の造船所も全く元気がありません。経営状態は惨憺たるもので、吸収合併と合従連衡を繰り返して、2大グループに集約されたのですが、経営は火の車です。

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大型客船の建造では優れた技術と実績を誇るイタリアのフィンカンティエリは、経営破綻し国家の管理のもと、再建中です。

https://www.fincantieri.com/en/

デンマークのODENSE造船所は、船殻のレーザー溶接に関しては先進的な技術を持ち、コンテナ船やRo-Ro船の建造では、一目置かれる存在でしたが、MAERSKグループの傘下に入った後、大赤字を出した造船部門として切り捨てられました。

https://en.wikipedia.org/wiki/Odense_Steel_Shipyard

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フィンランドのバルチラ(トゥルク造船)も大型客船の建造に実績があり、また推進ポッド方式など、革新的な船舶設計に挑みましたが、経営的には厳しく、STXグループの傘下に入った後、ドイツのマイヤー・ベルフトに吸収合併され、厳しいリストラを受けています。ちなみに、バルチラは造船業だった頃の住友重機と技術提携の関係にあり、昔の私の上司もフィンランドに派遣されていました。

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大型の石油掘削船を建造したイタリアのベレーリは90年代の初めに倒産し、今は跡形もありません。結局、欧州の造船会社は、ドイツのマイヤー・ベルフトグループとイタリアのフィンカンティエリグループの2大グループに分かれました。前者はバルト海沿岸を中心とした北海岸グループ、後者は地中海沿岸を中心とした南海岸グループと言えますが、どちらも経営は厳しく、国家の保護が前提となります。それなしでは、即刻倒産かも知れません。

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日本の三菱重工が、大型客船の建造に進出し、あるトラブルから2000億円の損失を出し、会社の経営が傾いた時、世間は天下の三菱重工がなんというヘマをしたのだ!と驚きましたが、何のことはない、三菱だけでなく、大型客船を製造している造船会社はどこも巨額の赤字を出しているのです。

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では、欧米や日本の造船会社から逃げた新造船の引き合いはどこへ行ったか?と言えば、韓国と中国を含むアジア諸国です。特に中国と韓国の幾つかの造船所が世界中の大型船需要をかき集めたために、他の国の造船会社は苦境におちいったのです。

全ての製造業の競争力はQCDのバランスで決まります。日本の造船会社は、Q品質、D納期管理では他の追随を許しませんし、欧米の造船会社の技術力に定評がありますが、Cコストとなると中国にはまるで敵いません。適者生存・・の原則で考えれば先進国の造船所は滅び、中進国の造船所が生き延びるのは、理の当然ですが、これでは安全保障上の問題が生じます。

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20世紀ならともかく、21世紀の現代、造船所の有無が安全保障に影響するか? と言えば、これは大ありだと私は思います。

以下次号


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