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【 最低賃金論 その1 】 [政治]

【 最低賃金論 その1 】

 

アベノミクス・・・以前にも書きましたが、国の政策に自分の名前を付けて自画自賛するのは、どうもいただけません。かつて米国でレーガン大統領が推進した経済政策・・減税を進め、小さな政府を目指し、サプライサイドを重視した政策をレーガノミクスと呼びましたが、これは他の経済評論家などが名付けたのであり、レーガン自らそう呼んだ訳ではありません。安倍首相が自分の考えや政策を従来の経済政策と区別して説明するのは結構ですが、自分が率先してアベノミクス・・と呼ぶのはどうもねぇ。自分自身をレーガン大統領になぞらえて考えるのも全くいただけません。

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そのアベノミクスの評価は、人によって違います。どの指標を取るかで評価が分かれる訳ですが、地方創生というか、地方経済の活性化にこだわる石破氏などは、さびれる一方の地方経済を目の当たりにして、どうしても批判を強めねばならない・・というところでしょう。

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一方、有効求人倍率をみると、ここ数年は大幅に改善されています。新卒者の就職事情をみると、空前の売り手市場で、学生は好きな会社を選べる状況です。デフレが続いた時代の就職氷河期が嘘みたいです。地球温暖化は困るが、就職戦線の温暖化は大歓迎・・という学生もいます。アベノミクスさまさまです。

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学卒のホワイトカラー以上に求人難なのは、現業の人たちです。トラックの運転手が足りず、日本国内の物流に支障がでています。建設現場では、人手不足のために、プロジェクトに遅れがでています。本当はオリンピックまでに完成したかった一部の建設プロジェクトが後回しになり、オリンピック以降に取り組むことになっています。肝心のオリンピックに間に合わないのは残念ですが、建設業界としては、仕事量が平準化され、オリンピック後の落ち込みが緩和されるので、業界の中には歓迎する人もいます。

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製造業の生産現場の人手不足も深刻です。製造業離れ、3K職場敬遠の中で、工場には若い人が集まらず、本来なら年金生活を楽しむはずの70歳のベテラン工員が、辞めるに辞められない状況です。こんなことは、高度成長期にもバブル経済の頃にもありませんでした。

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そこでふと考えます。こんなに人手不足で、求人難なのに、給料が上がらないのはなぜか?

ノーベル経済学賞を受賞したルイス教授の学説では、近くに潤沢な労働力の供給源がある場合は、経済が好調でも賃金は上昇せず、人手不足になって初めて賃金水準が上昇する・・とのことです。なんだか当たり前の話で、これでノーベル賞が貰えるのか?と思うのは、いまだ日本が経済学賞を受賞できず、かつ私がノーベル賞学者を輩出していない学校の卒業生だからかも知れませんが・・。

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それにしてもルイス教授の学説では、人手不足が深刻化している日本では、賃金が上昇してもいいはずです。それに賃金を決定するもう一つの要因である、企業収益も好転しています。東証一部上場の大企業の半分近くは、過去最高の好決算を出し、内部留保の金額も最大になっているのです。

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それなら、「少し働く人にも分け前をよこせよ!かつて盛んだった労働分配率の議論があまり聞かれないのはどうしてなのか?」と言いたくなります。その労働分配率の議論があまりないのは、本来労働者の味方であるはずの革新系の野党が、小党に分裂し、ひたすら弱いからでしょう。自民党が圧倒的に強く、なかでも安倍一強という状態だからかも知れません。

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しかし、それ以外にも理由はあります。

賃金上昇を決定するもう一つの要因は、経済成長率ですが、安倍政権下の日本は本当にGDPが増大しているのか??少し微妙です。バブル崩壊後やデフレ時代のマイナス成長に比べればましですが、プラス成長といっても3%未満の値では、本物の経済成長とは言えません。為替相場いかんでどうにでもなり、ドルベースでは違う値になります。前述の空前の人手不足も、少子高齢化で労働人口が急激に減り出したためと考えれば、ルイス教授の学説とはあまり矛盾しません。賃金は必ずしも上昇するとは言えないのです。

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だから賃金が増えなくても文句が言えないのか?・・と納得する訳にはいきません。解決可能な問題もあり、手が打てるはずです。行政は、自治体ごとに最低賃金の金額を設定し、これを毎年改定しています。自治体によって異なりますが、昨年の最低賃金上昇率は最高でした。経済を自然に任せておいても、なかなか勤労者の所得が増えないので、法律で縛って底上げしてやろう・・という発想です。

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これは労働者を保護するものですが、この方法には問題がたくさんあります。一つは最低賃金法が規定するのは、あくまで最低額のガイドラインであり、平均的な給与所得者の賃金に与える影響は限定的だということです。もう一つは、地域間格差の問題です。この法律は地域によって賃金水準が異なることを認めるわけで、そうすると、雇用は低賃金の地域に流れます。私はシェンゲン協定が成立する前後のEUを眺める機会がありました。シェンゲン協定によって、EU域内の人の移動が自由になると、賃金水準の低いスペイン人のトラック運転手は、フランスで引っ張りだこになりました。一方賃金の高いフランス人運転手のトラックは商売あがったりになり、EU政府に泣きつきました。

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日本でもトラック運賃の地域差はあるようですが、トラック運送業界で問題は顕在化していませんし、製造業でも、沖縄の最低賃金額が東京のそれより低いから・・といって、すぐ工場が沖縄に移動することにはなりません。しかし、地域間格差を肯定してしまうことは、やがて禍根となりえます。

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もうひとつ、賃金を国家権力が恣意的に操作することの問題です。本来は市場経済の合理性というか「神の見えざる手」が経済をバランスさせる訳ですが、国家権力が深い思慮無しに介入すると失敗します。その一つが韓国の例です。

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韓国の文大統領は、以前から国民の間の所得格差が大きいことを憂い、かつ一部の財閥だけが儲かり、零細企業が取り残されている韓国経済をなんとかしたいと思っていました。その志はよいのですが、それに加えて、韓国人のエトスとも言うべき日本への対抗心から、最低賃金を日本のそれより高くする政策決定をしました。具体的にはソウルでの最低賃金は1時間1万ウォン(=1000円)です。

「ついに賃金水準で韓国は日本を抜いた。ワハハ」

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安倍政権を貶すことを生き甲斐にしているかのような元通産官僚の古賀氏は、それをもって、「ついに韓国は日本を抜いた。安倍政権の経済政策はダメだ」と主張しています。

https://dot.asahi.com/dot/2018072100022.html

しかし、その結果、韓国は大変なことになりました。

最低賃金が上がったために、労働コスト増を製品価格に転嫁できない零細企業は人を雇えなくなり、倒産や解雇が増え、失業者が増大しました。人を減らした企業に残った勤労者には、著しい労働強化が待っていました。一方、製品価格に転嫁できる会社は製品価格を上げたために、国際競争力がなくなり、韓国の輸出産業は弱くなりました。韓国国内では失業率が上がったのに、物価は上がる状況になり、一歩間違えば、景気の後退と物価上昇が同時に進むスタグフレーションになります。

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もともと韓国では若年労働者の失業率が高く、国家経済の宿阿と言うべき状態だったのですが、さらに失業者が増えます。大学を出ても、就職できず、(コンビニが潰れたために)コンビニの店員にもなれない・・というバカげた事態になりました。

http://news.livedoor.com/article/detail/14178518/

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日本の大手企業では、長い間、ベースアップは、労働生産性の向上分にとどめる方針が春闘での暗黙の了解になっています。しかし、韓国の賃上げは生産性の向上代とは無関係であり、賃上げさえ実現できれば、会社が潰れても構わない・・・という無茶な方針で賃上げ闘争を行います。

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最低賃金だって、ひたすら上げればいいというのなら簡単です。時給1万円だって、時給10万円だって構わないのですが、それで経済が回らない場合、かえって国民は貧しくなります。文大統領には、その点が理解できなったのかな?

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韓国はともかく、日本で賃金水準を上げ、かつ失業率を低く維持し、好景気を維持するにはではどうすればいいのか?

 

ポイントは、雇用の流動性と、求人側と求職側のミスマッチの問題です。

それについては次号で


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