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【 リストラの大地 その2 】 [鉄鋼]

【 リストラの大地 その2 】

日本の製鉄所でも一部が空洞化したり、スクラップ化されたりします。

高炉を失った製鉄所では、その喪失感は、製鉄所内部だけでなく、企業城下町であるその町全体に広がります。 釜石、堺、広畑などで発生したことは、今小倉の町で進行しつつあります。

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高炉以外でも、企業のリストラの一環で一部の工場が無くなることがあります。W製鉄所では、大径鋼管工場と厚板工場が無くなり、設備はそれぞれ外国に売却されました。厚板工場がなくなり、がらんとした建物だけが残る・・というのは、寂しい風景です。

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残された巨大空間を利用して、社員の気持ちをなんとか盛り上げ、元気づけようと考えたのは、後で社長になるT野さんです。 彼は厚板工場の跡地を利用して人力飛行機を組み立て、毎年琵琶湖で開かれる鳥人間コンテストに参加することを提案し、実現させました。

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作られた飛行機自体は、かなり劣悪なもので、成績もさんざん・・つまり、飛び出した後、すぐに自由落下して終了・・・したそうですが、ひとつのお祭りとしてW製鉄所の社員を元気づけたのは事実です。

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しかし、今回リストラされる、中国の製鉄所が皆人力飛行機の組み立てをする訳にはいきません。 空き家となる工場の一部は電炉工場に作り替えるとしても、膨大な余剰人員をどうするか? 中国政府の鼎の軽重を問われる問題です。

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一般論として、マクロ的な産業構造の転換を語る場合、第一次産業から第二次産業へ、第二次産業から第三次産業へと、移動を促す訳ですが、これは容易ではありません。それができるような器用な人、あるいは優秀な人は、自分で転職していきます。

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昨日まで溶鉱炉の炉前でヘルメットと耐熱服を着て作業していた人が、いきなり小売店の販売係をしたり、保険の外交員をしてもうまくいくはずがありません。

日本でも産業構造の変化に伴う、雇用の需要と供給のミスマッチが問題化していますが、これは中国でも全く同じです(多分韓国も)。どこの国でも同じなのですが、リストラ断行の前に、職業教育の機会を充実させ、また社員の意識改革をする必要があります。 

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そして何よりも重要なのは、国家経済の余裕です。 そこが問題なのです。

中国の場合、目の前に超高齢化社会が迫っています。 長年の一人っ子政策のツケで、高齢者の占める人口比率は、まもなく日本を追い越します。 少子化の中、夫婦共働きが当然の中国の家庭では、自宅での介護は非現実的です。社会全体にとって老人福祉・老人介護は喫緊の課題になり、そして福祉産業は非常に重要な産業になります。

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鉄鋼業で大量の余剰人員がでれば、介護・福祉の産業が受け皿となって、引き取ればいいではないか?とは誰もが思う事ですが、そう簡単ではありません。

介護・福祉といったサービス業は、製造業のようにさらに経済を豊かにする循環機能はありません。サービスを受ける人は利益を得ますが、そこで終わります。

社会はコストを負担しますが、メリットを享受できません。 だから老人福祉の充実には、その負担に堪えられるよう、社会に富が蓄積していることが必要です。 北欧が福祉の先進国でありうるのは、富が蓄積した社会だからです。

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経済成長著しく、世界第二位の経済大国になった中国ですが、その点は弱いのです。

一部の資料では、中国の国家としての借金はGDP2.5倍とのことで、これは借金大国の日本の上を行きます。 日本と同じように、債権者のほとんどは国内なので、対外債務にはなっていない点はいいのですが、本当に豊かな国家を築くには甚だ心もとない状況です。

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どうせ私達の世代は、年をとっても年金など貰えないだろう・・と中国の若者は予測し、それならば・・と有意の人材は海外に流出します。 困った事態です。

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その中で、旧態依然の産業をリストラし、産業構造の転換を図らなければいけないのですが、まだ高度成長の余韻が残り、バブルが弾ける前の今しかチャンスはありません。田舎の小さな製鉄所は潰し、そこの従業員には、職業教育を施し、中国全土に新たな「青山」を見つけてもらうしかありません。

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そう考えると、中国経済には余裕は無いはずです。それなのに、中国政府がしていることと言えば・・・、お大尽よろしくアジア・アフリカの貧しい国々へのお金のバラマキ、そしてアメリカに対抗すべく分不相応に注ぎ込む軍事予算、誰も乗らない僻地への高速鉄道の建設、ゴーストタウン化が見えている中の大規模住宅建設、それに宇宙開発です。 一言で言えば成金趣味です。 他にお金を使うべきところはたくさんあるのに。

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鉄鋼だけではありませんが、一部の工業製品は、全世界的に供給過剰の状態です。その結果、近く始まるのは、厳しい過当競争です。そこで生き残るには、他の追随を許さない高品質化・高付加価値化、または他に負けないコスト競争力のどちらかが必要です。中国はこれまで他国に比べて圧倒的に優れたコスト競争力を持っていましたが、もうそんな時代ではありません。

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中国の人件費は急上昇し優位性を失っていますし、装置産業では設備の生産性がコストを決定します。 スクラップアンドビルドができない産業は滅びます。

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中国の製鉄所が経営破たんした後どうするのか?その展望が見えず、その準備もできていないようです。 どうしようもなければ、製鉄所の跡地をハリウッドの映画会社に貸して、廃墟の撮影に利用してもらうか、・・・あるいは人力飛行機を組み立てるか・・でしょうね。


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