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【 ドン・キホーテとGAMESA 】 [鉄鋼]

【 ドン・キホーテとGAMESA 】

 

スペインの風力発電設備メーカー大手のGAMESA(ガメサ)とドイツのシーメンスの風力発電事業部門が合併することになりました。

シーメンスはどちらかというと北の方(北欧、北米)の地域に強く、ガメサの方は南の方(南欧、インド)に強かったので、競合する地域はあまりなく、合併によるシナジー効果は大とのことです。風力発電は、設備投資が本格化した1980年代は、群雄割拠の状況で、デンマークの企業(NEGミコン、ベスタス等)などが先行していましたが、ここに来て、合従連衡が進み、有力企業は2,3に絞られてきそうです。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM30H2H_Q6A130C1NNE000/

http://www.siemens.com/press/en/pressrelease/index.php

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将来、風力発電の世界は、米国のGEとドイツのシーメンスの2グループになるのではないか?とかってに想像します。その理由として、個々の発電設備の大型化が進むと同時に、陸上型から洋上型(海底固定式と浮体式の2種類)に移行しつつある点が挙げられます。

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大型化していく過程で、大きな工場を持つ大企業が有利になっていきますし、海上型は独特のノウハウが必要になります。 シーメンスは海上型を建設するノウハウを持ち、実績も豊富ですが、ガメサはそうではありません。 ガメサ側としては、生き残りを図るには、シーメンスと組む必要があったのでは?と思います。

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一方、日本の現状はどうか?と言えば、少し遅れています。浮体式の海上型の風力発電設備は今実験をしている段階です。もともと、タワー型の構造物を建設する技術、グラスファイバーなどの複合材料で大型の翼を作る技術、減速ギヤや旋回ギヤなどの大型の歯車を噛み合わせる技術、潮風に吹かれる環境での防錆技術などは、日本が得意とするものです。それなのに、風力発電ではからっきし駄目です。

それはなぜか? 歴史的経緯と、現代の政策上の問題点の2点から説き起こします。

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もともと、日本には風車はあまりありませんでした。天然の動力に頼る場合は、水車が多用されました。一方、欧州や砂漠地帯では、風車が一般的でした。オランダの風車は特に有名ですが、スペインなどにも多くあります。あのドン・キホーテが挑んだのも風車です。

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欧米の平坦な土地には、急峻な水流がありません。だから水車が使えません。それどころか水も潤沢にはありません。だから井戸から風車の動力で水を汲み上げる方式が普及しました。いや、水が多すぎても困るのです。干拓後のオランダのゼロメートル地帯では水を汲み出す動力として風車を用いました。なるほど、確かにオランダでは水車は無理です。 

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そして、欧州ではコムギを粉にして、パンを焼きます。全ての集落で製粉作業は重要で、牛馬に頼るか、風車に頼るか・・という選択になります。一方、日本では、お米を炊いてご飯にして食べる食文化でした。無論、臼を引いて粉を作る作業はありましたが、風車を作るニーズはそれほどありませんでした。この事情は日本だけでなく、中国の華南から東南アジアにかけて共通であり、その地域で風車があまり見られなかった理由の一つかと思います。

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現代の発電手段として考えた場合、高緯度の北欧では、再生可能エネルギーといっても、太陽光発電だけでは無理です。なぜなら、冬場の暖房用や照明用電力が最も必要となる時期に太陽光が射さないからです。だから、欧州では季節によらず安定的に電力が得られる風力が盛んになったのです。

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それに対して、日本政府は、再生可能エネルギーの開発に当たって、太陽光発電にあまりに偏り過ぎました。 その背後に、有力なソーラーパネルメーカーだったキョーセラ、シャープ、サンヨーなどの政治的圧力があったかは不明です。しかし、結果的に、土地の狭い日本で、エネルギー密度の低い太陽光発電ばかりを推し進めたのは不適切だったと思います。高コストの太陽光発電の電力の買い上げは、電力料金に跳ね返り、一般家庭の家計の負担になるだけでなく、電力依存型の基礎産業を苦しめています。

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太陽光発電のパネルは、コモディティ化し、低価格の中国製品が市場を席捲すると、日本のソーラーパネルメーカーは苦境に陥りました。サンヨーは中国企業に身売りして既になく、シャープは台湾企業の傘下で再建中です。

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では風力発電はどうだったのか? 日本では安定的に強い風が吹く土地は、竜飛岬などに限られ、どこでも発電できる訳ではない・・というのが、従来の見解でしたが、これは陸上型に限った話です。海上型を考えた場合、島国で海岸線の長い日本ほど適した国はありません。 海洋構造物の建設ノウハウについても、日本は無い訳ではありません。この技術は海底油田の掘削リグの建設・設置技術と共通します。いずれにしても、なぜ、もっと早く風力発電に力を入れなかったのか・・。

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既に発電装置に用いるギヤなどのサプライチェーンは、シーメンスやGEが世界的なネットワークとして構築しており、日本企業が後から参入する余地は少ないのです。

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しかし、希望はあります。これからの風力発電は第二ラウンドに入ります。もはや風車単体の規模や能力を競う時代ではなく、システムとして議論する時代です。風力発電設備はグリッド化した発電ネットワークの一つの要素として機能する訳で、それを制御するスマートグリッドの技術が中心になります。その場合、風力発電設備に求められる機能としては、蓄電池を持いて風のある時と無い時で出力を平準化する機能。余剰電力を用い、電気分解で水素を製造する機能は近い将来必要になるかも知れません。

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日本の風力発電は、遅れをとったとはいえ、まだまだ世界一になれる可能性はあります。 その為には、沿海部の海上型風力発電設備の設置を促す法的な処置や行政による設備メーカーへの応援が必要です。いきなり風力発電設備全体で世界一になるのは難しいでしょうが、スマートグリッドの技術、翼や歯車の素材といった要素技術で、日本が覇権を確立することは可能です。

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原発停止後の日本で、ソフトバンクや京セラにそそのかされて、太陽光発電だけに注力したことは、大きな政策ミスでした。今は当時の政権とは異なりますし、政策の方針転換は何時でも可能です。 なにしろサンヨーもシャープも姿を消したことですし。


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