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【 ジョンブルは、孤立の憂愁を甘受するのか 】 [イギリス]

【 ジョンブルは、孤立の憂愁を甘受するのか 】

 

英国が、EUを離脱する可能性がますます高くなってきました。もともと、英国内には他のEU諸国と距離を置く姿勢があり、国民も、大陸とグレートブリテン島と北アイルランドは別の存在だと認識する人が多くいました。英国人がヨーロッパという場合は、しばしば自国を除く大陸諸国を指し、英国はヨーロッパではないという意識が背後にあります。輸入品を扱う店の名前が「ヨーロピアン何とか」だったりします。

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英国はもともと、EUの加盟国ではありますが、シェンゲン協定にも参加せず、共通の通貨であるユーロを使わず、英ポンドを使っています。1990年代にユーロの採用を検討したことがありますが、当時ハゲタカのようなヘッジファンドが、英国を標的にして、徹底的にポンドを売り浴びせました。その結果、ほんの数日間に、英国は莫大な国富を失い、ユーロ加盟を断念せざるをえませんでした。

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表向きは、かつて世界の有力な基軸通貨であった英ポンドを捨てられないとか、旧EECに対抗するEFTAの盟主として、単なるEUの一員にはなれない・・という事情を語っていましたが、本当は懐の事情があったことを、当時英国にいた人は知っています。

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同じように、EFTAに義理立てしてEUに加盟せず、独自通貨を使用する国にスイスがありますが、国の規模が違います。それにスイスは永世中立国であることを宣言し、かつ旧国際連盟の本部がある国で、他国と徒党を組む事に慎重です。英国とスイスを同列で議論することはできません。

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英国には、かつての植民地の緩やかな連合である英連邦があり、その盟主であるという事情もありますが、この結びつきは21世紀になってから急速に弱くなっています。

ユニオンジャックを国旗の一部に使い、エリザベス女王を国家元首に戴く国々についても、20世紀の頃の求心力はありません。今、英国がEUを脱退しても、他の国家連邦の盟主として君臨することはないのです。 単なる一島国になるしかありません。

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英国に脱EU論が高まっている理由については、今回の女性議員射殺事件で広く報道されています。

1.     移民の受け入れ問題

2.     ギリシャ等の経済破綻の尻拭い  等で

英国が過大な負担を求められることに、堪忍袋の緒が切れた・・のだそうです。

しかし、根底には別の理由があると思います。本当の問題は、移民受け入れにせよ、ギリシャの救済にせよ、EU内でドイツとフランスが主導して決定したこと、もっと言えばドイツのメルケル氏の判断で多くの決定がなされ、その結果を英国に押し付けられた事への反発があるはずです。

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EU内部での政策決定は、決して民主的ではないようです。加盟国が平等な発言権を持つ訳ではなく、圧倒的な経済力を持つドイツの影響が強い形になります。それをカムフラージュするためか、ドイツの首脳はフランス大統領と頻繁に意見交換しますが、EU内の外様である、英国の意見はあまり尊重されません。

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それに耐えかねたジョンブル達がEUに反旗を翻したい訳で、移民問題はきっかけに過ぎません。

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では、EUを脱退した後に、英国を待ち受けるのは何か? かなり厳しい将来が待っています。 世界経済圏は、北米(NAFTA)、EU、中国、日本、ASEANという具合にブロック化が進んでいます。 経済が不況になると、経済のブロック化が進むのは、20世紀に経験した通りです。

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英国単独では、それらの経済ブロックに対抗できません。経済規模(工業生産力、市場規模とも)が圧倒的に小さいからです。 EU脱退と同時に予想されるのは、英ポンドの大幅下落と、スタグフレーションの始まりです。

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かつて、大きな組織から離脱した国家がどうなったか・・。

20世紀、国際連盟を脱退した日本は、急速に孤立しました。孤立した日本は、とんでもないチンピラ(ナチスドイツやイタリアのファシスト)を仲間にして、滅亡の道を突き進みました。 日本は米国などと袂を分かち、単独で生きていけると思ったのですが、そうではありませんでした。

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一方、ほとんど、マレーシアから放り出される形でシンガポールが独立した時、将来の不安と情けなさでリー・クアンユー氏は涙が止まらなかったと語っています(日経新聞 私の履歴書)。 しかし、シンガポールは特異な都市国家として繁栄を極めています。

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同様に国際連合から放り出された中華民国(台湾)は外交的には孤立しながらも経済的には概ね繁栄しています。 大陸(中国)からのプレッシャーに常に危機感を持ちながら、独自の国家運営を模索しているのです。

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単独でも問題なくやっていけると考えた夜郎自大な国は破滅し、危機感を強めた国は成功しています。 英国はどちらになるのか?

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実は英国だけでなく、孤立の道を歩もうとしている国があります。中華人民共和国です。

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領海や領土問題、国際ルールを無視したふるまい等、敢えて周辺諸国との融和の道を拒否して敵対し、対中包囲網を作るならどうぞ・・という姿勢です。こちらは夜郎自大というより行き過ぎた中華思想と言えますが、本当は、中国は一匹狼になりたい訳ではないようです。

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かつて、日本が経験した事の轍を踏むほど愚かではなく、この国はしたたかです。確たる根拠はありませんが、EU的な国家群をアジアに作り、そこでドイツのような盟主になりたいようです。 それが古代からの、中国の理想像のようです。うまくいくとは考えにくいのですが。

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しかし英国は中国と違い一匹狼を模索しているみたいです。やがて、キャメロン首相の後継者がEUの会合で、日本の松岡洋右がしたような「声涙ともに下る」演説をして、「名誉ある脱退」を宣言する日が来るかもしれません。 しかし、それは英国経済に決して良い結果はもたらさないでしょうし、世界経済、日本経済にとっても、リーマンショック以来の経済ショックになるかも知れません。

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何とか世界全体のために、英国の人々には短慮に走らないようお願いしたいと思います。


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夏炉冬扇

拝聴位置しました。なかなかにむつかしいですね、この問題はいつも。
狭い世界で生きております。
by 夏炉冬扇 (2016-06-18 21:07) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇様 コメントありがとうございます。
私は英国で起こっていることは、他人事ではないと考えます。
同じ島国であり、アジアに於ける日本は、ヨーロッパにおける英国の立場と似ている面があると思うからです。今のところ、EUに対応する拡大ASEANは、経済的にも政治的にも弱体で、欧州とアジアの比較はできませんが、拡大ASEANの代わりにTPPが存在感を増すようになれば、EUと同じように考えていいかと思います。
確実に言えるのは、英国にしても、日本にしても、経済連合を絶対に脱退すべきではない・・ということです。我々の国は単独では生きていけないと思うからです。そういう時代なのだと思います。
またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2016-06-19 00:44) 

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