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【 アビタ67とトレーラーハウス 】 [雑学]

【 アビタ67とトレーラーハウス 】

 

熊本地震の被災者に住居を提供することは喫緊の課題ですが、その問題の解決策として、タレント兼アウトドアライフ評論家の清水国明氏が、トレーラーハウスの活用を提案しています。しかも彼は提案するだけでなく、実行に移しています。

http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/06/07/15152/?ST=rebuild

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提案内容については疑問がありますが、すぐに実行に移す彼の行動力には感服します。被災地の人々が求めているのは百の議論より、ひとつの実行だからです。しかし、その説明を聞くと、首を傾げます。

清水国明氏は、アメリカのフリーウェイやハイウェイでハリケーンの被災地へ急ぐトレーラーハウスを目撃し、日本でもトレーラーハウスを活用すべきだと思ったとの事です。

しかし、それは本当か?

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実は私が米国に駐在したころ、ロサンゼルス事務所では日本の鹿島製鉄所から輸出する軽量形鋼を扱っていました。その軽量形鋼はモービルホーム(トレーラーハウス)のシャシーに使うものです。だから、私もトレーラーハウスについて、幾らか知っています。「清水氏の考えは日本で通用するだろうか?」答えはNOです。

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トレーラーハウス(以下、米国風にモービルホームと呼びます)は、キャンピングカーの様に、移動を前提とした住宅ではなく、一か所に据え置いて定住するための住宅です。 究極のプレハブ住宅で、工場で製造してトレーラーで搬送する訳ですが、細長い構造物とはいえ、住宅ですから幅があります。 幅員の広い米国の道路でも、センターラインをはみ出して走行する訳で、反対車線の車は、すれ違う際に避けなければなりません。

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モービルホームには、専用の住宅地があり、そこに据え置いて、上下水道や電線、電話線とつないで、人が暮らせる状態にします。基礎工事は一切ないので、不安定なのは事実で、ハリケーンやミシシッピ川の氾濫で洪水が起こったりすると、浮かんで流されたりします。住宅としてもそれほど広いものではなく、どちらかというと低所得層向けの住宅となります。

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アメリカ映画の登場人物の家がモービルホームであれば、それだけで、所得水準の低い層の人だ・・と判る訳です。前述の通り、工場で大量生産しますから、一度に多数供給できますし、基礎工事も不要なのですが、被災地の救援用ではありません。

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では、モービルホームを日本の仮設住宅に利用できるか? 答えは半分○です。問題は狭くて、カーブや曲がり角の多い日本の道路で米国規格のモービルホームを運べるか?ということで、これはほとんど無理です。 私事ですが、私は製鉄所向けの天井クレーンを製造する工場に勤務した事があります。大型の構造物をトレーラーに乗せて、公道を走って納入することの難しさを経験しました。 しかも、地震の被災地の周辺は交通インフラが破壊されており、簡単にモービルホームのような構造物を運び込むことはできません。

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そしてもう一つの問題は、コンセプトの違いです。恒久的(実際にはそう長くは住めませんが)住居を前提としたモービルホームに対して、仮設住宅は一時的な居住(最大2~3年)を前提としています。要求品質が違うのです。

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実際、阪神淡路の大震災で使用した後、解体した仮設住宅を、地震のあったトルコに送って、再使用を試みましたが、傷みすぎていて使えませんでした。送った日本も送られたトルコも実にバツの悪い思いをしたとのことです。

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一方、「災害地にモービルホームを」というキャンペーンは本質的な問題を提起しています。その一点だけでも清水氏の主張は意味があります。

それは今の被災者救援のシステムが3段階に分かれており、被災者の負担も行政のコストも、不必要に大きくなっているという問題です。まさにお役所仕事だからです。

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地震や津波、地滑りなどで、住む家を失った被災者は、下記の3段階で住居を変えます。

 

1. 避難所:体育館等、緊急避難用で短期間使用する。居住性最悪。

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2. 仮設住宅:最大2~3年間の居住用、居住性は良くない。

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3. 災害復興住宅・公営住宅:恒久的住まい、居住者の費用負担大。

 

お年寄りも多い被災者に何度も引っ越しを強いるのは過酷です。2と3を合体して、合理化できれば好都合です。清水氏の唱えるモービルホームは、まさに2と3の中間的存在の住宅です。 2の仮設住宅には、住宅基礎工事は不要ですが、3の災害復興住宅には基礎工事が必要です。建設に必要なコストと時間が違いますが、モービルホームは基礎工事が不要です。 では、モービルホームを仮設住宅兼災害復興住宅として使うべきかと言えば、そうではありません。

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モービルホームは原則として平屋で、多層階住宅にはなりません。しかし、災害復興住宅は、多層階である必要があるのです。それは用地取得が困難だからです。東日本大震災の復興事業の中で、災害復興住宅の建設が遅れているのも用地が足りないからです。 仮設住宅も平屋ですが、一戸当たりの専有面積は最小限にされ、また一時的な建築として公園や校庭を利用することで対応しています。

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しかし、それでもグラウンドを奪われた学校の不便さや、公園を奪われた住民の不便は長期間放置していいものではありません。膨大な数の住宅を一斉に建てるには、土地の確保が最大の問題であり、平屋のモービルホームでは全くダメなのです。

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では、基礎工事が不要で短時間に建てられ、複数階の建築が可能で、そして恒久的な居住目的に対応でき、しかも日本の公道を使って工場から運搬できる、理想的な建築があるか? ひとつだけあります。それは、モントリオール市を流れるセントローレンス川の川中島にある前衛的な建築アビタ67です。

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アビタ67は、以前に私のブログで紹介しましたので、ご存じの方も多いでしょう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%93%E3%82%BF67%E5%9B%A3%E5%9C%B0

1967年のモントリオール万博に発表されたもので、McGill大学の建築学の研究者が考案したものです。 直方体のコンクリートブロックをクレーンで吊って、積み木の様に組み上げたもので、工場からブロック単位(部屋単位)で運びます。だから日本の公道でも運べます。基礎工事は最小限で、耐震性も優れているそうです(自分では確認していません)。居住性も耐久性も優れており、50年経った現在も、住人は快適に暮らしています。余談ですが、私の知人にはMcGill大学に留学した人が何人もいて、彼らは皆、アビタ67のことを知っています。

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アビタ67なら、2の仮設住宅と同じ迅速さで建築でき、3の災害復興住宅と同じ、複層階と高級性、居住性が確保できます。2と3の融合合体が可能であり、被災者の負担低減、復興工事の迅速化とコスト低減が可能です。

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行政がそれを行わないのは、敢えて仕事を複雑化させて遅らせるお役所のビューロクラシーのせいだろうか? そんなことをぼんやりと考えてみます。


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