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【 マクベスは誰に殺されたか? 】 [イギリス]

【 マクベスは誰に殺されたか? 】

野村萬斎が演出と主演をするマクベスの前評判が高いみたいです。

http://setagaya-pt.jp/performances/20160615macbeth.html

彼に限らず、狂言師が現代演劇に取り組むと、斬新で実験的な演出が試みられ、とても見ごたえがある・・・・・・場合もあります。

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「世田谷かぁ・・・チャンスがあれば見たいなぁ」などと考えますが、広島にいては難しいところです。さてどうしたものか・・。 ところで、実はマクベスには、興味深い点が幾つもあります。

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シェークスピアが16世紀に書いたこの作品は、まるで21世紀の科学を見据えたような作品です。例えば・・・、

1. マクベス夫人の発狂と強迫観念

まるで現代の精神医学をマスターした上での演出のようです。

自分が殺害した人物が、幽霊となって、現れる・・というだけなら、シェークスピアでなくても、よくあるパターンです。そもそも英国は世界で最も幽霊が多い(または幽霊の目撃が多い)国です。日本の謡曲にも幽霊は普通に登場しますから、日本も英国に負けないと思うのですが・・・。

でも幽霊だけではありません。どんなに洗ってもに付いた血が落ちない・・という妄想は、多くの精神疾患で見られる典型的な症状だそうです。16世紀の英国にも狂女はいたでしょうが、シェークスピアがその症状を観察していた・・というのは驚きです。

2. 宙に浮く短剣(ダガー)

マクベスの妄想の中で現れ、彼を導く存在で、映画では容易に表現できますが、舞台演出では難しいところです。小道具程度の大きさの物体を宙に浮かせるというのは、昔は簡単ではなく、手品の場合はテグスやナイロンの糸で吊っていました。

現代はそれに勝る方法があります。超小型のモーターと、プロペラで宙に浮かせるラジコンヘリコプターがそれで、普通に、おもちゃ屋さんの店頭に並んでいます。ちょっと大型で、物を運んだりカメラを装着したものは、最近はドローンと呼ばれています。

現代なら、ドローンに短剣を吊るせば、簡単にマクベスを驚かすことができます。

3. 3人の魔女の予言

(1)バンクオーの子孫が王になる

(2)女の股から生まれた者にマクベスは倒せない

(1)バーナムの森が動かない限り、マクベスは倒されない。

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この魔女の予言が、この戯曲のポイントですが、解釈の難しいところです。

1番目はさておき、2番目の、女の股から生まれた者・・という表現は、いろいろに解釈されます。昔から、英国では、人類、動物全体を指す時に、女から生まれた存在・・という言い方をしたそうです。

シェークスピアは、誰にも倒せない・・という意味を、普通に比喩的に用いられる「女の股から生まれた者に・・・」という表現で示し、そして最後にそれが比喩ではなく、本当に意味を持った言葉だとしています。 なんだか揚げ足取りのようですが、これは現代に於いて、別の意味を持ちます。

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実は、最後にマクベスを倒すマクダフは、女の股から生まれた・・つまり経腟分娩ではなく、帝王切開で生まれた(母の腹を蹴破って出てきた)のだ・・という落ちなのですが、帝王切開が普通に行われる現代では意味を持ちません。シェークスピアが現代の産科学を予見していたかは・・不明ですが。

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脱線しますが、ありとあらゆる人、生きとし生けるもの・・を表す表現は他にもあります。

女の股・・という露骨な表現ではなく、女から生まれた者という表現もあります。ちなみにお釈迦さまは母親の腋の下から生まれたそうです。 それでも女から生まれた存在・・には、一応、該当します。

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さらに、生きとし生ける者を表す時に、生命(いのち)ある者から生まれた者・・という表現もあります。これには連綿と続く生命のリレーを示す意味もありますが、これも現代医学の元では怪しくなってきました。

脳死状態にある女性が出産し、赤ちゃんが生まれる例が数多くあるからです。

http://benyamin.sakura.ne.jp/2009/01/post-251.html

http://www6.plala.or.jp/brainx/birth.htm

今、日本では脳死は死であると判断され、移植用臓器が取り出されます。しかし、それには反対する人も多くいます。脳死状態の母親から生まれた子供たちは、それをどう思うでしょうか?「脳死が死であるならば、僕たちは、生命ある存在から生まれた者ではないのか?」 これはマスコミがほとんど取り上げない問題です。

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今現在、シェークスピアが生きていてマクベスを書いたなら、魔女たちに、「生命ある者から生まれた者にマクベスは倒せない」と予言させます。そして、マクダフには「俺は脳死状態の母親から生まれたのだ。おれは脳死を死だとは認めないがね」と語らせます。 そしてマクベスを倒したのは、生命ある人間ではないというのか?・・と、脳死を死と考える人々に問いかけます。

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3番目の「バーナムの森が動かない限り、マクベスは倒されない」というのは、しばしば議論されます。

第一に、どうして山ではなく、森なのか? 東洋では動かないものの代表は山です。武田信玄の「風林火山」で「動かざる事山の如し」という言葉は、中国にある例えを丸写しにしたもので、もともとは中国で山が動かないものの代表だったのです。それを動かしたのは愚公ただ一人・・と中学校で教わりました。 今でも、中国の山は動きませんが、砂漠は動いています。そして現在、首都北京に迫っています。

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日本でも消費税反対を唱えて、選挙で大勝した社会党(当時)の女性党首は「山は動いた!」と叫びました。彼女も動かざるものの代表として、山を考えたようです。

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しかし、ご承知の通り、英国には山がほとんどないのです。特にスコットランドは造山運動の老年期にあたり、氷河が削り残した丘が存在するだけです。だから山の代わりに森なのか? そこは分かりません。シェークスピアが、東洋では山が動かないものの象徴だ・・ということを知っていたかも不明です。

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そして、ご承知の通り、英国には、本格的な森も無いのです。スコットランドや日本人が好きな湖水地方には幾らか残りますが、これも大陸国家の森に比べればささやかなものです。産業革命当時、石炭を燃料にする前に森を切り倒して薪にしてしまったのです。だからロビンフッドもアイバンホーも、現代なら、隠れる森が無くて困るでしょう。 海を挟んで反対側のノルウェーには、天然の森が繁るのに・・と憧れたビートルズが「ノルウェーの森」を作り、それに憧れた村上何某が「ノルウェーの森」を書いた・・というのは、ちょっと飛躍しすぎですが・・。

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でも、おそらくシェークスピアの時代には森が繁茂し、それが動いたり、失われるというのは信じがたいことだったのでしょう。 もしシェークスピアが、森が失われた21世紀の英国を予見していたとしたら、おそるべきことです。

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そして現代、英国以外の多くの地域で森が動き、失われています。アマゾン、ボルネオ、カナダ、シベリア・・・。太陽光発電だのという前に、なぜ大規模森林伐採を規制しないのか?愚かなことです。

現代の魔女たちはこう予言します。「アマゾンの森が消滅しない限り、人類は安泰だ」

でもそれを現代の為政者達は笑い飛ばしているのです。マクベスのように。


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