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【 大女優の棺に蓋をして思うこと 】 [映画]

【 大女優の棺に蓋をして思うこと 】

 

往年の大女優、原節子が他界したニュースは、TVで大きく報じられましたが、そのわりに話題にはなりませんでした。大女優ではあるものの過去の人であり、主にモノクロ映画の時代に活躍した彼女を、若い映画ファンはリアルタイムで知りません。BSTV放送などで、追悼のために彼女の映画が放映されるかな?と思いましたが、一部で名作「麦秋」が放映されたぐらいです。

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視聴者の反応に敏感なTV局は、彼女の追悼番組の代わりに、高倉健の一周忌に合わせて、彼の映画をかけていました。そんなものだろうな・・。原節子に本当に憧れた世代の男たちは既に多くが鬼籍に入っています。長生きした後に他界するというのは知己が少なくなってから静かに世を去るということです。原節子の葬儀に、号泣する人は少なかったかも知れません。

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一方、インターネット上では、いろいろな話題がでています。

・なぜ原節子は結婚せず、「永遠の処女」だったのか?

・なぜ原節子は40代の若さで突然引退し、隠遁生活に入ったのか?

それらは彼女が存命の頃から、さんざん議論されてきたことで、今更ながら、なんでそんなことを詮索するのかな? と思います。

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ひとりの女性が結婚しようが、独身を通そうが、それは個人の自由であり、他人がどうこう言う事ではありません。でもそうはいうものの、美貌の映画スターが結婚するかしないかは、個人のプライバシーとだけは言えないものがあります。原節子だけではありません。栗原小巻や、山本陽子、檀ふみ(ちょっと格が下がるか・・)など、多くの女優が独身のまま、老女役が似合う年齢になっていますが、なぜ?という思いはあります。

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原節子の場合、彼女が尊敬してやまなかった小津安二郎への思いから、独身を通し、小津が亡くなった後、映画界から姿を消したのだ・・という説が有力です。でも、これが本当かどうかは分かりません。原節子が小津安二郎に憧れていたのは事実でしょう。ある時、小津組の映画で予算面の事情から、ギャラの高い原節子の起用を断念しようとした時、「小津先生の映画なら、ギャラは幾らでもいいから出させてください」と懇願したという話があります。60才で独身のまま亡くなった小津安二郎の葬儀で、火葬場から戻った小津の遺骨の前で人目をはばからず号泣して、取り乱したという話も広く知られています。

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でも、彼女が小津監督のマドンナ的存在だったかは何とも言えません。小津映画の後期に、本当のマドンナとして君臨したのは、杉村春子の方でしょう(ちなみに小津の前期(無声映画時代)については、そのマドンナは吉川満子でしょう)。

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小津の映画では、全ての俳優・女優が、小津の細かい指導のもと、小津のロボットの様にふるまい、多少のぎこちなさを伴いながらセリフを語っています。しかし、杉村春子だけは自由奔放に彼女の演技をしています。ということは、杉村は小津に特別に認められた存在だったに違いありません。

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そして杉村春子は演技がうまい、本当の女優でした。それに比べれば、原節子はワンパターンしかできない、大根だったとも言えます。

杉村春子は、「俳優たるもの、『さようなら』のセリフを40通りの言い方で表現できなければいけない」とか「本当の女優は、100通りの泣き方ができなければいけない」と語ったとか・・。

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いえ、勿論、オヒョウが直接聞いたのではありません。オヒョウの恩師で、杉村春子に面会した松田章一先生から聞いた話です。 その話を聞いてから、私はTVに映るハンサムな俳優や美しい女優を見るたびに、「彼は40通りの『さようなら』を言えるだろうか?彼女は100通りの泣き方ができるだろうか?」などと考えてしまいます。

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今の若手女優で言えば、100通りの泣き方ができるのは、仲間由紀恵、そして宮崎あおいぐらいかな? あとは可愛いだけで、演技なんて・・なかなか評価の対象になりません。大河ドラマの「花燃ゆ」に登場する井上何某などは、口を真一文字にして無表情に突っ立っているだけで、マネキン人形と同じですね。

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もっとも、演技の技巧だけが俳優・女優の価値という訳ではありません。でも杉村春子から見れば、原節子は大根だったと言えましょう。 杉村春子のように多様な泣き方はできなかったかも知れない原節子が、本当に周囲を驚かせる泣き方をしたのは、演技ではなく小津安二郎の葬儀の後だったのです。

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小津との関係はともかく、原節子が一度、ある男性のプロポーズに応じた・・という都市伝説があります。私の昭和の記憶は確かではないのですが、たしか、ある時、キネマ旬報で読んだような・・。そのエピソードとは、

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ある時、小津組のある若い助監督が、一種の冗談で「僕のサルマタを洗濯してください」と原節子に頼んだのだそうです。大女優に、ペエペエの助監督が、本来そんなことを言える筈もないのですが、なんと彼女は、ちょっとはにかんだ後、その願いを聞き入れたというのです。 本当に、彼女がサルマタを洗濯したか否かはわかりませんが、これは男性からの一種のプロポーズであり、彼女はそれを受けた・・とも解釈できます。無論、電気洗濯機が普及する前の時代です。

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しかし、結局この依頼が実は冗談だったとわかり、彼女はおおいに憤慨し、そして傷ついたはずです。 そしてその後、彼女は結婚とも男性とも無縁の人生を送ったのではないか?・・という説があります。最後の部分は憶測ですが。

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私は、この罪な悪戯をした若い助監督が今村昌平ではなかったか?と推測するのですが、これは何とも分かりません。私が生まれた頃の話であり、小津も今村も原も他界した今となっては確認するすべもありません。

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今、それらのことを思い出すと、いろいろな感慨があります。私はもうじき、小津安二郎が他界した60歳になります。私が死ぬ時、美貌の若い女性が号泣する・・などということがあるのだろうか? 無論、ありえないことは分かっていますが、やはり女性を泣かせて去っていく・・というのは嫌だな・・などと分不相応なことも考えます。

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そして、「僕の下着を洗濯してくれ」などというプロポーズは、現代もありうるのか?とも考えます。昔はありえたろうが、今の全自動洗濯機と乾燥機の時代には意味を持たないプロポーズだな。

生活が便利になる・・ということは、別の見方をすれば、つまらない時代になるということか・・・と考えながら、単身赴任の私は今日も自分でパンツを洗います。


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夢郎

大分期間が過ぎていますか。通りがかりのものですが。ここ数年で原節子の映画を観るようになり、著書も読みました。原節子ダイコン説は、とくに戦前日独合作映画のプロモーションツアーが終った後に言われていたらしいです。これは、素人で日活に15歳で入った時に、教えてくれる監督がいなかったようです。それで、日独合作映画の主演となったので、帰国して以後いわれたのです。当時は、外国のように演技を学ぶ学校が日本にはなかったのです。舞台出身の杉村春子は、そうした訓練を受けているので上手いのは当然です。しかし、戦後はそれを克服していきます。戦後は毎日コンクールの演技賞を2回受賞しているので、ダイコンとはいえないでしょう。小津監督もその演技を褒めているし、杉村春子も彼女に期待していました。とくに、成瀬作品では演技は上手いです。吉永小百合などは、彼女に比べればダイコンすぎます。原節子が下手であれば、「晩春」や「東京物語」などの世界的な名作はできないでしょう。フランスで、かつて原節子の特集を組んでいますので、映画文化の後進国日本には期待しません。しかし、原節子のような存在そのものが才能であるような人(関川夏央説)は、もう出て来ないと思います。
by 夢郎 (2016-03-29 03:00) 

笑うオヒョウ

夢郎様
貴重なコメントをありがとうございます。ご指摘の内容については、なるほどと納得する点が多々あります。以前の私のブログをご覧いただければお分かりと思いますが、私は原節子のファンであり、彼女の美貌だけでなく演技力も評価しております。決して貶すつもりはありません。本文中では杉村春子との比較において原節子をダイコンと評した訳ですが、やや極論に過ぎたかな?と反省しています。 彼女の演技が確かにダイコンであったのは、日独合作のプロパガンダ映画です。どちらかというとバタ臭い顔の原節子が日本髪(島田)を結っても、いまひとつですし、若すぎて演技力が不足したのも事実です。私は伊丹万作版ではなく、ファンク版しか見ていませんが、あれは駄作です。でも、あの映画「新しき土」で問題なのは原節子ではなく、戦前の日本のよさを理解せず、無理に西欧的な近代国家としてドイツに紹介しようとしたことです。京都と東京、宮島がいっしょくたになったり、無茶苦茶でした。
原節子自身を評価するには、小津安二郎作品と成瀬巳喜男作品とで分けて考える必要があると思います。(黒澤明作品については触れません)。小津も成瀬も素晴らしく甲乙は付けられませんが、女優の演技が監督によってこれほどまでに違うというのは興味深いところです。成瀬作品では「めし」が特に評価されていますが、私が個人的に好きなのは、川端康成原作の「山の音」です。これまで私はもっぱら小津作品についてコメントしてきましたが、機会をみて、成瀬作品についても管見を述べていきたいと思います。

通りがかりとおっしゃらず、続けてお読みいただければ幸いです。
またのコメントをお待ちします。

by 笑うオヒョウ (2016-03-29 12:18) 

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