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【 在庫は善か悪か? その1 】 [鉄鋼]

【 在庫は善か悪か? その1 】

 

世界中で鉄鋼製品とスクラップの価格が下落しています。理由はいろいろありますが、中国が鉄鋼製品を作りすぎているのが最大の原因です。ほんの10年ちょっと前まで中国の鉄鋼生産能力は年間1億トンにもなりませんでした。それが今は年間6億トン以上です。日本の鉄鋼生産量が年間1億トン~1.1億トンであることを考えれば、途方もない量です。それでも、中国が高度成長を続け、鉄鋼の国内消費が旺盛だったら問題は無いのですが、経済成長にブレーキがかかり、余剰分を輸出に回したので、世界の市場は大混乱です。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDX30H1C_Q5A031C1FFE000/?n_cid=DSTPCS010

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL29HM8_Z21C15A0000000/

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ご承知の通り、高炉一貫製鉄所は、操業を簡単に止めることはできません。大幅な減産をするのにも技術が必要です。だから限界利益さえ出れば・・、或いは限界利益がでなくても生産を続け、売らなければなりません。余剰分は捨て値で輸出します。

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中国の鉄鋼輸出は既に年間1億トンに達しており、それだけで日本の生産量に匹敵するのですが、その輸出価格がまた安く、ビレットという鉄鋼の半製品では鉄鉱石と石炭の価格より安いのでは?と思われます。どう考えても採算が取れるとは思えません。俗に言うお札を貼り付けて出荷する・・という形です。(中国の場合なら、毛沢東の肖像画のついた人民元札です)。

http://www.japanmetal.com/news-a2015102762198.html

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どうしてこんなことになるのか?無論、中国政府は、生産設備と生産能力が過剰であることを認識し、効率の悪い中小の製鉄所や老朽化した設備の休止・廃止を求めています。 それがうまくいかないのは、一部の評論家によれば、地方政府にとって、納税面でも雇用面でも一種のドル箱である、製鉄所を彼らが簡単に手放すはずがない・・・ということだそうです。 

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公害問題しかり、中国では中央の政府が号令をかけても、なかなか末端が動きません。 「上に政策あれば下に対策あり」とうそぶいて、網の目をくぐることに長けた人物が多くいるのです。

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スクラップ&ビルドは製造業の世界では当たり前です。 私が育った石川県は繊維産業が盛んな土地ですが、零細な機織(はたおり)業者がたくさんありました。「8台機屋」と呼ばれた業者は、繊維不況になると、補助金を貰い、古い織機から順番にハンマーで打ち壊して生産能力を削減しました。 好況になれば、改めて新しい機械を入れて増産するのです。 そうして業界は設備を更新していき、生産性を上げて競争力を維持できたのです。 ただ、子供心に「まだ使える機械を壊すのはもったいないなぁ」と思ったのを記憶しています。

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中国の鉄鋼産業も、旧式の設備を廃棄し、新型で効率のいい設備に集約すべきなのですが、それがうまくいきません。高炉を持つ製鉄所を整理統合するのは大変だ・・と私も思います。 日本の製鉄所でも、高炉を止めて、製鉄所から製造所へ格下げになった工場が多くありますが、関係者の落胆は大きく、地元は文字通り、火の消えたような寂しさとなります。 近々この事態が日本で予想されるのは小倉です。

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まあ、それは仕方ないとして、中国の政策には理解できない点が多くあります。中小、あるいは老朽化した製鉄所の整理統合が、まだ進まないのに、一方で、最新鋭の超大型製鉄所を建設したりしています。

http://www.japanmetaldaily.com/metal/2015/steel_news_20150925_1.html

この湛江鋼鉄は日本で言えば大分製鉄所と君津製鉄所を合わせたようなコンセプトの製鉄所です。厚板を中心に鋼板類を製造するとともに、半製品のスラブを宝山製鉄所等に供給する役割を担うことになります。 そうなると、長期的には上工程能力の再配分と最適化が実現しますが、短期的には半製品であるスラブの供給過剰を招くことになります。 今、世界的に供給過剰感があるスラブを作って、遠くまで運ぶ・・という発想は理解できません。 厚板だって、造船業に元気がなく、しかも設備投資が一巡した中国で、どうして増産するのでしょうか?

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実は鉄鋼以外にも供給過多になって値崩れを起こし、苦しんでいる工業製品は、中国に多くあります。例えば、マグネシウム、合金鉄、レアアースがそうですし、素材以外では太陽光パネルが該当します。下記の記事を見れば、液晶パネルも近くそうなるでしょう。

http://www.nikkei.com/article/DGXKZO93408860Z21C15A0X11000/?n_cid=DSTPCS003

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それらを考えると、中国での生産過剰は、単に地方政府が中小の製鉄所を潰さないからとか、急に中国の経済成長にブレーキがかかったから・・といった理由ではなさそうです。もっと根本的な、理由がありそうです。

 

それについては次号で。


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