SSブログ

【 南満州鉄道とコールダーホール炉 その2 】 [イギリス]

【 南満州鉄道とコールダーホール炉 その2 】

 

鉄道と原子力発電所は似ています。両方とも、黎明期において、英国はその先頭を走っていました。 しかし、最近20年は原子力発電所の新設が途絶え、最新の技術進歩からは取り残されています。 今は原子力大国と言われるフランスの方が、技術力は高いと考えるべきでしょう。 ちょうどTGVを開発したフランスに英国の鉄道が追い越されたようなものです。 そして今度は中国が英国に原子力発電所を建設しようというのです。

・・・・・・

では、英国の原子力発電所の歴史とは・・。

1956年英国は、世界発の商用原発としてカンブリア地方のコールダーホールに原子炉を建設しました。 それは黒鉛で中性子を減速し炭酸ガスで熱を取り出すというユニークな方式でマグノックス炉とかコールダーホール炉と言われました。

・・・・・・

ユニークな・・という表現は不適切かも知れません。当時原発の黎明期にあって、どの方式が正統で、その方式が異端またはユニークかは言えなかったからです。

たまたま英国は炭酸ガス冷却方式を選び、米国は軽水炉を選んだだけとも言えます。

・・・・・・

正確には、ウラン濃縮技術を持たず、一方で核兵器用のプルトニウムを取り出したい英国にとって、コールダーホールのマグノックス炉は非常に好都合だったと言えます。

今なら・・そう北朝鮮やイスラム国が欲しがる技術です。この原発の操業でノウハウを蓄積した結果、英国の原発はみな炭酸ガス冷却炉になりました。

・・・・・・

しかし、この種類の原発はいろいろな不都合があります。 核燃料の利用効率が悪く、不完全燃焼というか未反応の部分が残ったまま頻繁に燃料棒を交換しなければなりません。 出力が小さい割には図体の大きな原子炉が必要です。

そしてなにより、炭酸ガスで取り出す熱の温度が低いのです。 すべての熱機関は、温度差が命です。高温側と低温側の温度差からエネルギーを回収するのですが、高温側は極力高く、低温側は極力低く(といっても限度がありますが)することで熱効率が上がります。つまり熱力学第二法則です。だけど原発は火力発電に比べて、高温側の温度を高くできません。 そしてマグノックス炉はガス温度が特に低く、熱効率が悪かったのです。 日本でも確か東海村にマグノックス炉が1基あったはずですが、かなり評判が悪かったとか。

・・・・・・

やがてウラン濃縮技術が当たり前になり、軽水炉用の低濃縮ウランがふんだんに供給され、核兵器用の原料も「おなかいっぱい」となると誰もマグノックス炉(黒鉛減速ガス炉)を顧みなくなりました。 このタイプの原子炉にこだわっていた英国は致命的なミスを犯したのです。 信頼性が高く安全で高能率で安価な原発は、アメリカ、フランス、そして日本が提供する時代が来ました。

・・・・・・

それらは昭和の昔、私オヒョウが子供だった頃の話です。 やがて私が大人になり製鉄会社への就職を考えた頃、原子力製鉄・・という話題が聞こえてきました。

「はて? 軽水炉で蒸気を取り出したとしても、それで鉄鉱石の溶解や還元はとでも無理だ。化学を知らない人の発想かな?」と思ったところ、提案者が前提に考えたのは高温ガス炉という原子炉でした。 

・・・・・・

低温ゆえに泣いたガス炉ですが、取り出し温度さえ高温にできれば、製鉄にも使えるし、熱効率もあがるし、いろいろな使い道があるではないか!! という発想はまさしくユニークです。でも、私は「果たしてガス冷却炉の高温化などできるのかしらん?」と思いました。 但し、冷却ガスに炭酸ガスは使わずヘリウムだそうですが。絵空事ですが、小型の原子炉で暖めた空気を用いたラムジェットエンジンで飛ぶ原子力飛行機まで考えられました。 今から40年以上前の話です。

・・・・・・

そして40年後の今はどうか?高温ガス炉はまだ実現していません。原子力製鉄も実現していません。 原子力製鉄という言葉を知らない若い製鉄技師も多くいます。原子力ジェット機も勿論まだ飛んでいません。

・・・・・・

しかし、改良型ガス炉という名前で高温ガス炉を研究している国はあります。あの中国です。国民に原子力アレルギーが無く放射能アレルギーも無い(正確にはあったとしても弾圧する)中国では原子力研究が、猛烈な速度で進行しています。日本で反対運動にあい「もんじゅ」が凍結されている高速増殖炉も、中国では急ピッチで研究が進んでいます。

・・・・・・

そしてその中国が、英国に原発を建設するというのです。 1基目と2基目は原発先進国であるフランスの技術を模倣した原子炉が設置される見込みです。 それだけで、英国にとっては相当の屈辱ですが・・・。 技術を利用され、かってに英国に輸出されるフランスこそいい面の皮です。 ちょうど新幹線の技術を盗まれ、かってに外国に輸出された日本と似ています。 フランス人は文句を言わないのか?

 

・・・・・・

しかし問題はそれからです。

その後、3基目からかは、中国独自の原子炉である華龍1号が導入されるとのこと。 華龍1号は加圧水型の軽水炉・・・で、新幹線と同じく、西側の国の技術を模倣もしくは盗用したものと思われますが、まだ完成しておらず、何ともいえません。中国は、その1号機の実験場として自国ではなく英国を選び、そこで実験するようです。英国の人はその事実を知っているのかな? バッキンガム宮殿で‘89年もののワインで習主席をもてなしていたエリザベス女王は自国が中国の核の実験場にされる事を理解しているのかな?

・・・・・・

しかし、中国はもっと先を見ているはずです。ここから先はオヒョウの無責任な空想ですが、本当は自国で開発している高温ガス炉を英国で実験したいはずです。かつて60年前にガス冷却炉で一世を風靡したその英国で、今度は高温ガス炉で歴史を作りたい・・と中国は考えているはずです。 でもね、私が知る限りでは高温ガス炉はとても難しく、かつ危険な原子炉です。実現するにしても、物理、化学、機械、冶金、電気計測等、あらゆる工学を総動員する必要があります。簡単にできるかな?

・・・・・・

かつては先進的な技術を持っていたのに、今はそれが空洞化している英国、その隙に入り込んで、インフラを支配し、新技術開発に利用しようとする中国。 両者の思惑は合致しましたが、その結果もたらされる憂慮すべき懸念については誰も触れません。 

20世紀の南満州鉄道は、結果的にアジアに悲劇の時代をもたらすきっかけでしたが、メイドインチャイナの原子炉が将来英国に悲劇をもたらさないか、私は心配です。

・・・・・・

ところで、日本の原発の前で座り込んで、「サイカドウハンタイ」と叫んでいる人達は英国や中国の原発には反対しないのかな?


nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。