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【 在庫は善か悪か? その2 】 [鉄鋼]

【 在庫は善か悪か? その2 】

 

日本の多くのメーカーは在庫を持つことは悪だ・・と考えています。 すぐには現金化できず、ひたすら保管費用や金利負担が発生する在庫は、製品だろうと原料だろうと悪であり、これを最少にすべきだというのが、昨今のキャッシュフロー重視型の経営です。 しかしその歴史はそれ程深くなく、トヨタのカンバン方式が原点ではないか?と私は思います。今では信じられないことですが、昔はトヨタも資金繰りで悩んだ時代があり、コスト削減の一環として在庫減らしに着目したようです。 それを現場で見える形にしたのがカンバン方式です。

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そして今、日本の多くの製造業は借金をしながら経営をしています。多くの経営者や管理職者が在庫を減らす必要性を痛感しています。

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一方、中国はどうか? 長い間、計画経済のもと、上意下達で示されたノルマを消化することが、生産者の最大の目標でした。工業製品にせよ農産物にせよ、生産した製品は全て国家がさばいてくれるので、売れ残りの心配はありません。

(実際には共産主義国では、工業製品の内、消費材は慢性的に不足し、農業製品については、しばしば大幅に余ったり、極端に不足したりしていましたが)。

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それらの国では、在庫は必ずしも悪ではありません。むしろ在庫は財産です。在庫はノルマを超過達成した証ともいえ、誇るべきことともいえます。 明日必要とされるものを今日作ることは、日本の工場では悪ですが、中国の工場では善です。明日の分の労働を前倒しで今日行ったのだから何が悪い?となります。

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日本も中国も温帯モンスーン気候です。 明日の天候は分かりません。「花に嵐のたとへもあるぞ」と中国の詩人も日本の作家も言いましたが、農作業では、今日できる作業は今日する必要があります。収穫を明日にしたところ、暴風雨が来て作物を台無しにすることもありえます。仕事の前倒しは、日中共通の美徳です。

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でも、それは農業でのこと。市場経済のもとでは、作りすぎも、製品在庫を抱えることも凶なのです。 市場経済の歴史が浅い中国企業はこの理解が足りません。

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そもそも論で言えば、在庫に限らず、品物の存在をポジティブに考えるかネガティブに考えるかという問題です。 ちょっと哲学的な問題ですが。

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英語では品物を「goods」と言います。つまり「いい物」であり、在った方が良い、所有する方が幸福である・・というのが品物です。換言すれば西洋では品物がたくさんあることは善であり、多く所有することは豊かである・・となります。 在庫もそれに含まれます(多分)。

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翻って、東洋はどうか? 中国語で品物は「東西」であり、「良い悪い」の概念から遠い単語です。日本語の「品物」も同様でニュートラルな単語です。 逆に「荷」という単語となると、これは所有者に負担となるネガティブな意味を持った単語です。どうも東洋には所有を必ずしも吉とはせず、所有欲に恬淡とした思想があるように思います。 「人は皆旅人である」と考えれば、身につける荷物は少ないほうが吉です。

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ああ、それなのに、今の中国は品物に拘り、とにかく多くのものを作りすぎ、売れずに嘆いています。鉄鋼製品であれ、マンションであれ、彼らの製品在庫は「goods」ではなく「load」です。その一方で外国では爆買いを行い、所有欲全開です。 かつて中国と日本が共有した、品物に固執しない思想はどこへいったのか?

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中国の人々にお願いしたい。

どうか、鉄鋼の過剰生産だけは止めてくれ。 世界の鉄鋼産業のために。 

だけど、日本での爆買いは止めないでね。

たかがメイドインジャパンの品物だけど、それらを中国で使ってもらえれば、少しでも日本のことを正しく理解する中国人が増えるだろうから。

今から50年前、当時の日本はソニーやホンダの製品を通じて欧米の人々に、日本という国を理解し、親近感を持ってもらいました。どんなにスピーチが上手な外交官よりも、ソニーのトランジスタラジオとホンダのバイクは雄弁に日本を説明しました。

つまり、その頃の日本の工業製品はまさしく「goods」だったのです。

(今、炊飯器や洗浄便座がその代わりになるかは分かりませんが)


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