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【燕窩】 [中国]

今回も、昔の中国時代のエピソードです。新しい話題でなくて申し訳ありませんが、未読の方はご覧ください。 

【燕窩】

外国で暮らすと、一時帰国する際のお土産をどうするかで、頭を悩ます事があります。何か珍しい日本では入手できない品物を・・・と思うのですが、今時そんなものはありません。 それに、中国の工業製品は基本的には「安かろう悪かろう」のイメージを引きずっていて、贈答品には不向きです。

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では、美術工芸品は? となりますが、これは趣味の世界なので、贈り先を選びます。受け取った人の趣味に合わなければ最悪ですし、価格も千差万別で、本物もあれば偽物もあり、高名な作家の作品もあれば、工場で大量生産したものもあります。従って、お土産とする品物の価格が妥当かも判らないし、受け取った人がその価値に気付くかも不明です。

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高価な食品や嗜好品も同様です。以前、豪華なパッケージに入った中国茶を贈答品で貰った事がありますが、恥ずかしながら、おいしい中国茶のいれかたも知らないし、それほどおいしいとは思いませんでした(減肥茶の方がありがたかった・・・)。

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なにか、お土産になる面白い品物はないかなぁ?

そんな事を考えながら、昆山の街を歩いていると、偶然【燕之屋】というこじんまりとした商店を見かけました。「雀のお宿なら知っているけど、この店は何なのか?」と綺麗に飾ったショーウィンドウを覗くと、ガラス棚の上に、プラスチックでパッケージした小さな塊が見えます。これはどうやら「燕の巣」というものではなかろうか?

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実は私は燕の巣なるものを食した事がありません。或いは、スープの中に少量混じっているのを口にした事はあるかも知れませんが、記憶にありません。(少なくとも、自分で注文し自分でお金を払った食事では、食べた事がありません)。

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「これは面白そうだ。日本へのお土産に使えるかも知れない。でも、知らないものだけに、不安もある。事前調査してから、店に入ろう」

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翌日、会社で中国人社員に燕の巣について質問しても、誰も知りません。何十年も中華料理を食べていても知らないのです。そこで、中国に関して、オヒョウの何倍もの経験と数十倍の知識を持つ、同僚のK藤さんに質問してみました。

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彼曰く 「燕の巣ですか・・。本物なら数千元もしますよ。非常に高価なものです。 もし安ければ偽物です。それに、あれは結構調理方法が難しくて、素人には手に負えないものです。」

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なぜか「素人には手に負えない」という一言で、ムラムラとチャレンジ精神が湧いた私は、燕の巣を買ってみたくなりました。(つまらぬ事にチャレンジ精神を感じる男です。もっと価値有る事にチャレンジ精神を興せばよかったのに・・)。

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その翌日「燕之屋」に行く事にした私は、商品が高額であったら種々の交渉が必要になるな・・と考え、K藤さんに、一緒に行って貰えないかとお願いしました。彼の同意を得て、仕事の帰りに、「燕之屋」に寄りました。

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店に入った瞬間、なにか場違いな雰囲気を感じました。そう、例えて言えば軽自動車を買おうとして、間違ってレクサスのディーラーに入ってしまった様な・・そんな感覚です(経験はありませんが)。 宝石店を思わせる店内の装飾と、陳列棚には、先日見た小さな物体が並んでいます。やはり燕の巣です。

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奥の棚の商品を見ると、1,825元とか、2,500元と書いてあります。容器も豪華です。

「うーん。やはりK藤さんの言う通りだ。何千元もするのだ。これは贈答用かな?黄金の月餅と同じく、越後屋が代官様にプレゼントするのかな?」でも手前の商品を見ると、50元とか65元とか書いてあります。

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「おや、ではこれは偽物なのかな?」と思ったところで、ネクタイをした店員が近づいてきました。食料品店の店員というより、ホテルのフロントの男の感じで慇懃な口調で声を掛けてきました。

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彼は、50元や65元の商品も本物であること。当店の商品はインドネシア産である事、などを語り、更に赤い物と白い物がある点について、燕が使う材料(海草)の違いであり、赤い方が栄養価が高い事などを説明しました。

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そこで私は、65元の赤い商品を、買う事にしました(別に燕の巣で栄養を取ろうとは思いませんが、何となく赤い方が珍しい様に感じたのです)。私は、お菓子屋でエクレアでも買う感覚で、(金沢のお土産、鹿島で食べる分、それに横浜へのお土産と、あと友達にも必要かな?)と考え、「6個ほど見つくろってください。まとめて買うのだから、少し安くしてね」と言いました。

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すると、店員は、奥の女性店員に目配せし、さっと電卓を取り寄せました。「なにせ高価な品物ですから、6個揃えてお求めなら、5%引きと致しましょう。」

でも彼の電卓に表示された金額は、3,705元(=54000円程度:当時)となっているではないですか。 「え?165元じゃないのかい」と言うと、彼は「当店の価格表示は、1個当たりではなく、1g当たりです」と言います。

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「ええ? 困ったな。それなら6個じゃなくて4個でいいや。 いや3個だ。ううん2個にしてください」店員は、このみっともない日本人の客に対して、「でも2個ですと、5%も値引きできませんが・・・」

「いや待ってくれ。おいしく調理できるかも判らない冒険なのだから、1個でいいや」

「しかし、それでは、値引きは出来かねますが・・・」

私は結局、定価で1個だけ買いました。たった10gですが、それでも650元です。

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「このたった1個の燕の巣を、金沢で家族が揃った機会にスープにして頂こう。」でも一人当たり、1gくらいしかないな」

「オヒョウさん、「燕の巣」のスープが、これでは「雀の涙」のスープになってしまいますね」とはK藤さんです。

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それにしても、奥の方に陳列してあった1gあたり数千元の商品は、一体誰が買うのでしょうか?


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C99

大変勉強になりました。m(_ _)m
燕の巣、自腹で買うことはこれからもないと思いますが…。
ところで、美味しく調理できましたでしょうか?
by C99 (2015-05-08 23:46) 

笑うオヒョウ

C99様、コメントありがとうございます。

実は、日本に持ち帰った燕の巣は、いまだ料理されず、容器に入ったままだと思います。説明書きが中国語だったので、家人がそれを読んで料理することを億劫がったためです。 私の母はその燕の巣のスープを食さないまま他界しました。

またのコメントをお待ちします。


by 笑うオヒョウ (2015-05-10 02:10) 

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