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【上海泰康路の夢】 [中国]

今回も10年ほど前の中国の話です。私が日本に帰任する少し前に書いた雑文ですが、当時、中国の人民元はまだ通貨として信用度が低かったのです。 昨年、泰康路を訪問する機会があり、散歩したのですが、昔と何も変わっておらず、嬉しく思いました。 

【上海泰康路の夢】

多くのサラリーマンは、引退した後どこに住みたいか・・・という事を時に考えたりします。私の場合それに加えて「どこに住みたかったか」という、建設的でない他愛の無い事を考える時があります。特に20代の前半の時期をどこで過ごしたかったかという、最早考えても仕方ない事を考えるのです。

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普段はそんな事を考える余裕も無いのですが、ある日突然、住みたかったであろう街や風景に出くわした時に、その思いが頭の中をよぎります。例えば、パリならモンマルトルの丘、アメリカの東海岸ならボストンか、ニューヨークのブルックリン、西海岸ならバークレーという街です。(実は私はバークレーに行ったことはありません。ちょっと嘘をつきました)。

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そして中国であるなら、そして上海であるなら、泰康路に住みたかったと、その街を訪れた時に思いました。できれば10代後半から20代の頃に・・・・。泰康路から思南路の辺り一帯は、ごく小さな街並みですが、芸術村があり、多くの美術品や骨董の店が並び、自由な雰囲気があります。もともと上海は国際都市ですが、泰康路には西洋人も多く、種々の街の表記は英語だったり、日本語だったりします。

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おそらくこの街で、往来を行く人に英語で道を尋ねても、ちゃんと英語で返事が来るのではないか(昆山では考えられませんが)。

そしてなにより、この町で活躍する人は皆若い人達です。

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中国の若い世代の希望とは、何なのか?昔からある、エリートコースに乗って立身出世する事か?それともITベンチャーでも企業して、思い切り金儲けする事か?或いは、海外に飛び出して、自由な環境で創作活動を行う事か?

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天安門事件以来の窮屈な思想統制、中国社会の根底に漂う貧困の匂い・・・、それらを若い世代が受け入れる筈もなく、そこからの脱却をまず目指す筈です。泰康路には、比較的自由な雰囲気と貧困を感じさせない、洒落た感覚があります。若い人には魅力的な街にちがいありません。そして昔若かった私にも魅力的な街です。

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売れるか売れないか分からない油絵を描き続ける事、自分に才能が有るか無いかも分からないまま創作活動に突っ走る事・・・といった冒険を、この街の若い住人は実行しています。

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それにしても、冒険は若い人の専売特許なのか?好きな事に人生を賭けるに当たって「必要なものは 希望と勇気とsome money」と語ったのはチャップリンですが、この街の人々は皆その3つを持っているのか?逆に、私はその3つを持っていないのか?(moneyは確かに無いけれど)。

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ひょっとしたら、私がこの街を好きな事の奥底には、冒険をしている若い人への、羨望があるのでは?と、自分で分析してみます。私の場合、モンマルトルだってブルックリンだって、街の雰囲気に憧れたなどというより、そこで活躍している人々への羨望や嫉妬を感じた・・・というのが本音ですからね。

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ところで、泰康路の美術商の店を覗いていると、時々、欲しい作品に出くわします。

無名の作家の絵画ですから、価値があるのか無いのか、本当のところは私には分かりません。でも蘇州あたりの観光地にある美術品店の様に、工場で大量生産した印刷の書画や、機械で編んだ刺繍、偽物の彫刻ではありません。思わず「欲しい!」と思って値札を見ると、それでも数千元の値段がついています。

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「やれやれ困ったな。徐家匯の電脳屋の時と同じ様に、値引き交渉をしなければならないのか。苦手だなぁ。昆山の小姐でも上海に誘い出して、通訳兼値引き交渉をさせるか。でも断られるだろな。」 と考えながら、昆山に戻り、外灘での食事を餌に女性を誘ったところ、意外にも答えはOKです。

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彼女に拠れば、泰康路の店には、掛け値なしの店と値引き交渉ありの店の両方があり、最初に店員に確認する必要があるのだそうです。

「それでは今度・・・・」と話し掛けると、

「オヒョウさんが、あの街で美術品を買うとしたら、本帰国する際に、中国の記念として 買って帰るのでしょう?何時帰国になるのですか?その時、一緒に行きましょう。」と嬉しそうに言うのです。

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彼女がそう言うのには訳があります。かつて昆山の日本人が日本に帰任する時には、いろいろ散財したようです。それはハードカレンシーでない人民元を持ち帰っても仕方ないから、現地で使いきったという事なのですが、散財の方法にはいろいろあった様で、その人の趣味というか、人生観が反映された使い方と言うべきでしょうか。

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「そうか、私より先に彼女を泰康路の美術商の店に誘った男がいたのかい」と少し詰まらなく思い、そして将来の自分の帰国を予想して、更に詰まらなくなりました。私には使い切る人民元も無い・・・・・。

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中国政府が人民元の切り上げと通貨バスケット制への移行を発表したのはそれからまもなくです。

以上


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