【犬と狗】 [中国]
今回も以前の中国の話で、中国語の話題が登場します。ご記憶の方は、今回は飛ばしてください。
【犬と狗】
江蘇省常州市に住むKさんは、台湾の人。高周波焼き入れの工場を経営しています。同じく江蘇省昆山市のQさんは、大陸中国の人。同じく鉄の熱処理の工場を経営しています。
・・・・・・
共通点は2人とも犬好きな事で、Kさんは4匹、Qさんは2匹、2人とも大型のシェパードを飼っていました。シェパードはペットであると同時に、工場の番犬としても活躍していました。
・・・・・・
ある日、Qさんの犬が2匹とも、いなくなりました。どうやら、放し飼いにしている時に誰かに捕まったようです。今ほど、狂犬病対策の野犬狩りが厳しくなかった頃ですから、野犬駆除とは別の目的で捕まったものと思います。「食用として捕獲されたのでは?」という人もいましたが、冗談なのか本当なのか分かりません。
・・・・・・
Qさんの犬がいなくなった話をKさんに言うと、日本語を話すKさんが言うには、「1匹、2匹飼うというのはダメだよ。飼うなら4匹飼わなきゃ」 とのこと。
「だって、口の数を数えてごらん」
→ 中国では、家に棲む動物の数を、口の数で数えます。
日本でもpopulationを人口と言いますが、中国でも同様です。
・・・・・・
「一匹(一頭)だったら、「吠える」
二匹(二頭)だったら、「哭く」 という縁起の悪い字になるではないか。
四匹(四頭)だったら、「器」となる。器というのはとてもいい意味だ。
オヒョウさん、犬を飼うなら4匹飼うことですよ」
→ 器の場合、犬じゃなくて、大ではないか? → 細かい事は気にしない!
・・・・・・
Kさんが言うには、
「でもね、この事をQさんに言ってもだめなんですよ。彼らにとって、イヌは犬ではなくて、狗ですから」
・・・・・・
中国(大陸)では一般にイヌの漢字は狗なのです。発音はカタカナなら、グゥォとでも表現すべき発音です。そして「犬」と「狗」には漢字の形と発音以外に大きな違いがあります。「犬」の方は一つの動物の種を意味し、深い意味はありませんが、「狗」の方は、権力の走狗としての卑怯な存在という意味があり、侮辱する時の言葉として用います。相当辛辣な表現とされます。
・・・・・・
映画「紅コーリャン」に、日本兵におどされた中国人が同胞を処刑する場面で
殺される男が「日本の狗!」と相手に叫び続ける場面があります。
・・・・・・
Kさんは、
「大陸中国の人にとって、イヌは本当のペットではなく、しょせん狗なのさ。 犬ではないから、漢字を用いた洒落も理解できないはず・・・」と語ったのです。
・・・・・・
しかし、中国の市民生活はどんどん豊かになっていき、犬を愛玩する人も増えてきました。犬はもはや軽蔑すべき対象ではないはずです。でも狂犬病騒動を見ていると、中国の犬事情はまだまだ文明国の水準ではありません。
・・・・・・
おそらく犬が一番幸せに暮らせる国はイギリスでしょう。日本の犬よりも幸せな筈です。でも英国人によれば、最も犬が幸せなのはアイスランドとの事。アイスランドは、昔エキノコックスの大流行が原因で、犬を飼う事を厳しく制限し、英国からの犬の輸入も禁じました。犬の飼育については絶大の自信を持っていたイギリス人は、プライドをひどく傷つけられ、一時期両国の国際関係はかなり悪化したとのこと。
・・・・・・
「つまり、犬などいないのだから、アイスランドの犬は幸せであると言っても 間違いではない」という一種の皮肉です。実際には、アイスランドにも飼い犬はいるそうですが、そう多くないそうです。(野犬はいません)。
・・・・・・
もっともオヒョウはアイスランドには行った事がないので本当のところは分かりません。 いずれにしろ、アイスランドの犬や英国の犬は、中国の犬ほど窮屈ではなさそうです。
中国では狂犬病対策で、一軒一匹に飼い犬を制限するそうです。一人っ子政策がペットにも及ぶ訳ですが、常州に暮らすKさんにも、その締め付けが及ぶかは不明です。 Kさんは台湾籍なので、子供も複数持つ事ができますし、飼い犬の数も治外法権なのかも知れません。
・・・・・・
彼ならば恐らくこう言うでしょう。「1匹というのは良くないね。『吠える』になっちゃう」
確かに、文化大革命以降の中国のキャンペーンは、全てどこかに「万犬、虚に吠ゆ」という感覚があるのです。
コメント 0