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【 橄欖倶楽部からOlive Clubへ 】 [中国]

10年ほど前に、江陰仮面さんに勧められて、CURURUというプロバイダーのブログを書いていました。CURURUはなくなり、そこに私が書き殴った100件以上の駄文は消滅しましたが、一部がCD-Rに記録されていました。そこで、その一部を、時々、再掲させて頂きます。

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古くからの「笑うオヒョウ」の読者で、それらの雑文をご記憶の方があれば、 その記憶力に感歎するばかりです。

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舞台は約10年前の中国です。時代の差をご了解の上、お読みください。また文中、下手な中国語が登場します。その誤りをご指摘いただければ、ありがたいと存じます。

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【橄欖倶楽部からOlive Clubへ】 

私が一時期勤めていたガラス会社の社長は実にユニークな人物でした。彼は板ガラス加工事業を始める前に、化粧品容器の製造を始めたのですが、高度成長の末期の頃、彼は、日本での化粧品需要の見通しを確認する為、ある定点観測を行っていました。

彼は、毎月、銀行の窓口のOLの顔を見て、化粧の濃さを調べていたのです。

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社長曰く、「水商売の女性は最初から化粧が濃いので、参考にならない。一番堅い職業である銀行のOLの化粧の濃さが変わって行く様子を追いかけたのだ。」

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なんでも、最初は口紅から、次に頬紅、最後の目の回り(アイシャドウ、アイブロウ、アイライナー、マスカラ等)という風に進んでいくのだそうです。その観察の結果、化粧品市場全体が大きく成長するであろう事と、目の回りの化粧品が特に伸びる事を確信して、社長は目の回りの化粧品に注力し、市場開拓に成功したのだとか・・。  恥ずかしながら私には、良く理解できませんでした。

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化粧の濃さは、経済成長のバロメーターにもなるそうです。堅気の女性にとって、かつては濃い化粧というのは、はしたないものでしたが、いつしか市民権を得て、普通の人の化粧もだんだん濃くなっていきました。(尤も、さすがに女子高校生が化粧するのは、ちょっと頂けませんが)。

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「濃い化粧を「はしたない」と思うか、「綺麗な事はいいことだ」と肯定的に解釈するかは、単なる美意識の問題だと考えるだろうが、そうではない。実はそれが、経済の豊かさとも結びついており、生活にゆとりができると、化粧により多くの手間とお金を掛けうる様になり、かつ世間の常識も濃い化粧に対して、寛容になるのだ・・・・」と、彼は説きます。従って、経済成長によって、庶民の暮らし向きが良くなれば、化粧も盛んになるのだ・・・という事です。

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高度成長期に、経済発展の度合いを測るバロメーターとしていろいろなものが登場しました。昭和30年代には、白物(紙や砂糖)の消費量を豊かさの尺度にするという乱暴な意見がありました。この根拠は、実に簡単で、アメリカや(一足先に復興していた)西ドイツが紙や砂糖を大量消費する社会だったからで、今だったら噴飯ものです。実際、米国やドイツのお菓子はひたすら甘いのです。

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一方では黒物(石炭)の消費量を豊かさの尺度にするという、絶望的にひどい意見もありました。→ これについては、別稿で申し上げます。

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しかし、化粧の濃さを尺度にするというのは初耳です。そのときは、フンフンと聞き流していたのですが、中国に来て、実に「なるほど」と感じた次第です。

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この2年半で、昆山の田舎にある、当社のOL達の化粧も次第に濃くなりました。濃くなったというより、しなかった人がする様になった、というべきです。最初、赴任した当初は、ほぼ全員がスッピンでしたが、今は薄いとはいえ、多くの人が化粧する様になり、化粧をしない人はあまりいません。なるほど、暮らしが豊かになると同時に化粧が始まったのか。田舎のおばさんだって、少しでも綺麗にしたいのは当然ですから。

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更に不思議な物を見つけました。会社の事務所のOL達に、無料で送られてくる

化粧品の通販雑誌ですが、題名は「橄欖倶楽部」。

olive.jpg

彼女たちは休憩時間に事務所でそれを眺めています。中には、日本の女優が登場し、日本風の化粧と日本の化粧品が紹介されています。日本の人達が化粧品といえば、欧米(特にフランスの)化粧品に憧れるのに、中国の人達は日本の化粧品に憧れるのです。当たり前といえば当たり前ですが不思議です。

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特に、上海の女性達の化粧は、日本の女性のそれに似ています。昆山の女性達の化粧は現時点では国籍不明ですが「橄欖倶楽部」のお陰で日本の流行に近づくのかも知れません。

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中国では、政府が、日本を貶したり、中国の日本に対する優位性を盛んに説いて国民に自尊心を植え付けようとしていますが、庶民は真実を知っており、どうしても西側の文物に憧れるのです。身近なところでは台湾製の品物に人気があり、その次が日本製となります。しかし、一般に日本製の品物は高価であり、台湾製で代用する訳です。欧州や米国の品物となると、現時点では縁遠い訳ですが、やがて彼らのあこがれもヨーロッパの化粧品に移るのでしょうね。

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ところで、その橄欖倶楽部の表紙が変わり、「Olive Club」になりました。別に意味に変化はありませんが、全体に西洋風にアカ抜けてきました。中国では、アルファベット表記は珍しいのですが、敢えて「橄欖倶楽部」という古風な表現(古風と思うのは私だけか?)を止めたのも、化粧品の普及、外国文化の解放、本物志向によるものなのでしょうか? 即ち、改革・解放経済の産物なのでしょうか?

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そこで私は考えました。Oliveなら、殆どの日本人が読めるし、意味も知っている。(中にはポパイのガールフレンドだと思う人もいるでしょうが)。だが、橄欖と書いて、その意味を知る人はいるだろうか?

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実はいました。旧制大阪高校の寮歌に「橄欖咲いて海青き・・・」で始まる有名な歌があります。だから、その後裔であると自認する大阪大学の学生や卒業生は恐らく知っている筈です。でもそれは、日本国民のごく一部です。(S友金属にはたくさんいますが・・・)。

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私は、中国人に対して、尊敬と軽蔑、親近と嫌悪の入り混じった複雑な思いを抱いています。 しかし、日本人には読めない様な漢字表現が、日常生活にさりげなく

登場すると、やはり中国文化は奥深く素晴らしいものだと感じるのです。

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ところで、くだんの社長は、もう一つ言っていました。

「化粧品は春先に多く売れる。一つの理由は、学校を卒業した若い女性が、社会人になる時に化粧を始めるからだが、それ以外にも理由がありそうだ。 春になると、気持ちが華やぎ、開放的になって、化粧したくなるのだろうか?実は、そこのところがよく分からない」

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そう言えば、確かに、昆山太平洋のOL達にも、そんなところがあります。でも、その辺は、私には全く見当がつきません。 そこで駄句を一句。

「春雨や蘇州の人の便りあり」


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