【 広島空港の雪 その2 】 [広島]
東へ向かう高速道路の表示は「この先ユキ 注意!」の表示です。おそらく福山から岡山へかけては、もっと激しい雪なのかも知れません。しかし、不思議です。この先でユキが降っているからといって、一体どうしたらいいのでしょう。
・・・・・・
世界有数の豪雪地帯を通る関越自動車道の場合、途中にチェーンの着脱所があります。
冬用タイヤでない場合は、そこでチェーンの装着が義務付けられています。場合によっては警察官が、すべての自動車を確認して、チェーン装着場に誘導します。
そして上り線の場合、今度は関越トンネルの手前でチェーンを外せ・・という指示がでます。当たり前ですが、トンネル内には雪が無く、チェーンは舗装を傷めるだけで有害なのです。しかし、関越トンネルの群馬県側だって雪は降るだろうに・・と思いますが、群馬県側は徹底して融雪処理を行い、路面に雪は無い状態になっています。
・・・・・・
しかし、それは世界有数の豪雪地帯を通る高速道路の場合だけです。山陽自動車道には、チェーン着脱のためのパーキングはありません。積雪の無い区間が大半ですから、チェーンを付けっぱなしで走ることもできません。 結局冬用タイヤを装着して安全速度で走るしかないのだな・・と思いながら、普段より少し遅く走ります。
・・・・・・
まもなく、空港方面への出口に差し掛かり、私は粉雪のちらつく駐車場に着きました。
空港の出発カウンターに行っても静かなものです。JALは早々と欠航を発表しており、
空港に来てから驚く・・という人はなさそうです。
・・・・・・
一方、春秋航空の方は、飛ぶか飛ばないか、いまひとつはっきりしません。すでに乗客はカウンター前に集まり始めました。 そこに緑色のジャケットを着た春秋航空の若い職員が来て、説明を始めました。
「現在、広島空港の付近に雷雲が発生し、非常に不安定な天候です。皆様にお乗りいただく飛行機は、現在、広島に向かって飛行中ですが、着陸するかどうかは未定です。 もし広島空港に着陸せずに引き返すことになった場合、本日の成田行きの便は欠航となります。どうかご了解を願います」
・・・・・・
昔、別のLCCのエアラインで、土壇場の欠航を通知された時に比べるとはるかに分かりやすい説明です。 そりゃ確かに、乗る飛行機が来ないんじゃ欠航するしかないわな・・。 そこで誰かが質問します。
「それで、その結果は何時分かるのですか?」 これは重要な問題です。もし欠航と分かれば、すぐにバスに乗って広島駅に向かい、新幹線に乗車する手もあります。
・・・・ただ、今からでは東京まで行くことは無理だろうな・・・。
若い係員は、「18:00時つまり午後6時までに機長から連絡が入り、広島に着陸するかどうかが決まる見込みです」 うーむ、これは少し遅れるな。 折り返し成田行きの便の出発時刻は19:25分です。
・・・・・・
待っている乗客は静かに午後6時にカウンターにかかってくる電話を待つしかありません。 暫くの沈黙の後に、6時ちょうどに、電話がなりました。先ほどの係員がすぐに受話器を取り、我々に向かって「到着便は予定通り着陸します。折り返しの成田行きも予定通り出発します」と叫びます。
周囲は安堵と喜びの声でちょっとざわめきました。
・・・・・・
やがて、到着便は、18:40に着陸し、我々は予定通りに乗ることができました。
カウンターでは、「空席待ちのお客様~」と呼んでいます。キャンセルされた羽田行きのJALから乗り換える乗客がいるのでしょうか? 羽田に行く予定が成田着陸ではちょっと困るでしょうが・・。
・・・・・・
でも今回の空の旅はそれほど快適ではありませんでした。 周囲は雲ばかりで窓の外の視界は全くひらけません。 地上の景色を楽しみにしていたのに・・・。
広島=成田間の空路は、実は製鉄所を眺める旅でもあります。
成田側からの順番で言うと、鹿島、君津、千葉、京浜、名古屋、神戸、加古川、姫路、水島、福山・・と日本をというか、世界を代表する製鉄所群を眺められます。それぞれに設備のレイアウトに工夫があり、それぞれにある種の設計思想を持って建設された製鉄所であることが理解でき、とても面白いのです。 勿論、これはその中で働いていた私だからかも知れませんが、夜間でも製鉄所を見つけることはできます。
オレンジ色のナトリウムランプが分布する特徴的な空間だからです。
・・・・・・
今回はそんなこともなく、少し揺れながら、飛行機は飛び、やがて成田空港16Rの滑走路に滑るように着陸しました。空港の敷地内に入ってからも、ロール(左右に回転する揺れ)が激しく、着陸できるかな?と思ったのですが、直前の地面効果で機体は水平に安定し、車輪が接地した瞬間が感じられないほど、静かに着陸しました。
まだ数回しか経験していませんが、丸山機長の操縦は「すばらしい!」の一言です。
・・・・・・
飛行機はわずかに逆噴射したあと、速度を維持したまま誘導路に入り、駐機スポットに向かいます(残念ながらLCCは沖泊めで、ターミナルビルにはバスで向かいます)。
・・・・・・
でも問題はこれからです。時計の針は午後9時20分です。既に成田空港から潮来方面へのバスはありません。 家内にまた向かえに来てもらうしかありません。
・・・・・・
空港内の預け入れ荷物の引き取り場所で私は、最近使い始めたLINEで「今到着。成田空港まで迎えに来てくれるか?」と尋ねます。
ああ、もし返事がNOだったらどうしよう。このまま成田で1泊してそのまま東京の出張先へ行くしかないのかな?
・・・・・・
そこで私は、なぜか中国語の授業を思い出しました。 実はその翌日、中国語の達人達と会食を予定していたのです。もともと初心者の域にも達していない私の中国語ですが、それもほとんど忘れています。 思い出さなくては・・。
中国語では、物理的な不可能や不都合、拒絶や否定を表す表現は幾つもあります。
不可以、不能、不要、不行、不是、・・・・ それぞれ物理的な不可能を意味したり、自分にはできないという謝りだったり、意思に基づく拒絶だったり、意味も違えば、使い方も違います。でも外国人の私にはどうも違いが分からなくて、使い方が分からない・・と中国語の家庭教師に尋ねたことがあります。
・・・・・・
すると、普段はまじめな彼女が笑って「女性たちをデートに誘ってみたらいいでしょう。彼女達は、一様に断るでしょうが、その場面や状況に応じて、いろいろな言い方で拒否するに違いありません。その経験をすれば、それらのニュアンスの違いはすぐに理解できます」と説明しました。 結局、私は女性を誘ったりせず、中国語の拒絶と否定の表現についても、理解できないままなのですが、さて、ここで、成田空港へ迎えに来てという私の依頼に対して、家内からLINEで「不可以」とか「不行」などと言って来たら、どうしよう・・・
・・・・・・
幸いにして、家内からの返事は「今すぐ迎えに行く」というものでした。 私は人がめっきり少なくなった、第二ターミナルビルの出発ロビーで、家内の車を待ちました。既に出発予定は国際線の2便を残すだけになり、ベンチにはアメリカ人らしいカップルと幼子を連れた中国人家族だけです。 時折、警備員が、巡回してきて、行き先を尋ねたりします。 突然、中国人の家族の赤ん坊が泣き出しました。 若い母親は、苦笑いしながら「不好!(ブハォ)」と言います。
・・・・・・
「不好!」という言葉も、否定や拒絶の中に含めていいのかな? でもこの言葉は引き受けた後に、悪態をつくときに話す言葉でもあります。 拒絶ばかりではありません。「多分、成田に向かって車を走らせている家内も、心の中で「不好!」と言っているかも知れない」 私は既に10時を回った、成田空港のロビーでそんなことを考えていました。
コメント 0