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【 図書館とFAX 】 [金沢]

【 図書館とFAX 】

 

私事で恐縮ですが(ブログに私事を書くのは当たり前ですが)、母の逝去に伴い、幾つかのややこしい手続きをする必要が生じました。その全てを金沢に暮らす妹に押し付けているのですが、その妹からメールが入りました。 それは今から50年前に米寿で他界した祖父の生年月日を尋ねるものでした。死亡時に凍結された母の銀行口座のひとつを開くのに、母の出生に関する資料が必要で、それには母方の祖父の生年月日等の情報が必要だと言うのです。果たして明治時代の前期に生まれ、昭和40年代の初めに他界した祖父の情報が必要なのか? どうも銀行側の嫌がらせとしか思えませんが、仕方ありません。

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しかし、残念ながら私も祖父の誕生日を知りません。そこでインターネットで検索をかけました。半世紀以上前のただの市井の人の情報がどれだけネット上で把握できるか・・あまり期待していませんでしたが、2件ヒットしました。

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1件は、何と1901年(明治34年)に兵庫懸が発行した官報で、原本は国立国会図書館にあります。もう1件は、1928年(昭和3年)に発行された北陸地方の紳士録(昭和北陸名鑑)です。 このどちらかに、生年月日が書かれているはず・・と私は考えました。

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国会図書館の資料はインターネットですぐに入手できました。PDFをダウンロードするだけです。しかし、そこに書かれていた内容は期待外れでした。 祖父が奏任官として就職した際の年俸が記されているだけだったのです。 しかし、明治時代の記録を一瞬でダウンロードして見られるとは・・日本のデータベースは素晴らしい。

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問題は、もうひとつの資料である民間の紳士録です。この所在を確認して、取り寄せ方法を考える必要があります。 私は早速、某新聞社の幹部であるT君に電話しました。彼は「その種の人物名鑑とか紳士録なら、多分石川県立図書館にあるだろう。広島県にいて図書館に行けないのであれば、資料の取り寄せも可能なはずだ。まずその資料が収蔵されているかどうかを確認して、その上で取り寄せ方法を図書館の係員に相談するのがいいと思う」とのコメントです。

いつもながら、極めて明快かつ適切なアドバイスです。

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早速インターネットで調べてみると、確かに石川県立図書館に昭和北陸名鑑はありました。 すぐに図書館に電話します。 そして応対してくれる職員に、資料の所在と、閲覧したいページを説明して、遠隔地にいて図書館に行けないから、そのページをFAXして欲しい・・と依頼します。 しかし彼の返事は、ちょっとがっかりするものでした。

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「図書館の資料はFAXでお届けすることはできません。その行為は著作権法で規定する無許諾無報酬で行えない行為です。著作物をFAX 送信することは(著作権)法231に規定する公衆送信に該当し、現在、図書館が公衆送信を行うことについては権利制限がなされていません」と木で鼻をくくったような回答です。

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山本七平と山本夏彦は、対談集「意地悪は死なず」の中で、志の低い役人は、民間の申し出や願い事に対して、「それは法律によってできません」と拒絶する時に、密かな喜びを感じると、語っています。そんなことを思い出しました。

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脱線しましたが、図書館の資料をFAXで送信できない事情について解説するインターネットの記述もあります。

http://www.ndl.go.jp/jp/publication/biblos/backnumber/2008/summer/04.html

「でもコピーを取って、郵送することは可能ですから、切手と送付先の住所を送ってください。折り返し郵送いたします。詳しくはホームページを見てください」と言って彼は電話を切りました。そこで私は切手を送ることにしました。

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しかし、理解できません。図書館の対応ではなく、その背後にある法律の考え方についてです。著作物を、PDFにしてE-mailで送ることは許されて、そしてコピーの郵送は許されて、FAXはどうしてダメなのでしょうか?

著作権法で重要な意味を持つ「無許諾無報酬」という点で考えると、コピーの郵送とて同じ事です。なぜFAXだけがだめなのか。 不特定多数への配信という点から考えてもFAXは該当しません。FAXは宛先番号の特定者のみへの発信であり、いわゆるBroadcastingではありません。

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著作権の本来の精神とは少しずれるのですが、コピー作成にかかる労力の有無が違法性の分かれ目となることがあります。 機械で容易にコピーが作成できる場合は不可、時間と手間をかけて非効率な方法でコピーを作成する場合は、無許諾でも可とする考えがあります。

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その昔、勝海舟は日蘭辞典の元祖というべきズーフハルマを手書きで模写し、自分用の辞書を確保するだけでなく、もう1冊作成して友人に売ってお金を得たというエピソードがあります。これは一種の美談として語り継がれていますが、もしXEROXでコピーしたのであれば、美談どころか違法行為です。ドキュメントスキャナーで「自炊」した場合は、微妙です。

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国会図書館の官報がPDFで送られてきたのは、スキャナーでPDFを作る行為の是非ではなく、官報自体に著作権が無いからかも知れません。では官報ならFAXも可能なのでしょうか?

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容易なコピー製造を問題視するなら、FAXではなく、コピー機の方を問題視すべきです。しかし図書館では普通にコピー機を使用できます。 どうもよく分かりません。

著作権保護の法律と、コピー作成技術や通信技術の進歩にずれがあり、いろいろな矛盾が生じるのは、法律を作成する専門家が、新しい通信技術に詳しくないからだと

私は思います。

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ドイツの諺に、「ソーセージと法律は、作る過程を見ない方がいい」というものがあります。立法府の人々の人品骨柄を怪しむ諺ですが、私は法律の原文を作成する人の無知の方を懸念します。 日本の法律を作成する専門家は、PDFもドキュメントスキャナーも、FAXもインターネットも…実はあまり詳しくないのではないか? だからコピーの郵送は可でFAXは不可などと珍妙な規定を作るのではないか?

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法律が最新技術に対応していない・・という例は、他の法律でも発見できます。

しばしば法律に登場する「電磁的記録」とか「電磁的方法」という表現も、理科系の人から見れば不可解です。電磁的記録とは、人間の目では直接読解できない記録で、コンピューターなどの機械で記録と再生がなされるもの・・という定義ですが、電磁的・・という表現は適切なのか?

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おそらくテープレコーダーやフロッピーの時代の感覚で作成した文言でしょうが、CD,DVD,ブルーレイなどの光学ドライブのディスクは、必ずしも磁気と関係ありません。

(もっとも光自体が、電磁波で磁場と関係ありとするなら別ですが・・・)。

かろうじて、磁界変調オーバーライト方式の光ディスクであるMDMOは、電磁的記録と言えますが、それらも既に世の中から消えました。

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近い将来、透明なガラスの中にエキシマレーザーで書き込む、超高密度の記録媒体が登場しますが、そうなると電磁的記録という表現は、全く通用しなくなります。それでも電磁的記録・・という表現を法律では用いるのでしょうか?

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法律が技術の進歩に追い付かず、混乱と不便をもたらす問題はこれからも増えるでしょう。 それで不利益を被るのは公共サービスの利用者です。 それを防ぐには最新の技術を理解した法律家を育てることが重要ですが、それは難しいでしょう。でも、せめて、FAX通信やPDFのメール送信の扱いについて、矛盾がなく利用者が不便を感じない仕組みづくりは必要だと私は考えます。

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それはともかく、石川県立図書館に電話して1週間。まだ資料のコピーは届きません。


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