【 乱流の時代 その2 】 [鉄鋼]
【 乱流の時代 その2 】
かつて、超音速旅客機コンコルドの設計にあたり、機体周囲の気流を有限要素法で計算したとき、主翼の上面の気流は、たった1本の流線でしか表されませんでした。
3次元の動的解析で圧縮性流体(しかも超音速領域)で計算することは、昔のコンピューターでは全く不可能だったのです。 それが最近はパソコンでも簡単に乱流の解析ができます。それもカルマン渦のような単純なものだけでなく、複雑な流れがシミュレーションできるようになったのです。
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乱流の存在を認知すると、世の中は乱流に溢れていることに気づきます。これまで無意識に乱流を無視し層流だけを眺めてきたのですが、それは間違っているようです。
大学の初年級では、レイノルズ数(Re数)だけを習い、その値が10000以上、または20000以上は乱流、そしてその世界は暗黒大陸・・としてきたのですが、不都合なものは見ない・・ということでしょうか。
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乱流が認められるようになると、その良さも理解されます。乱流は流体抵抗を増大させ、同じ管径のパイプに同じ圧力をかけても、乱流の方が平均速度は低下し、流せる量は減ってしまいます。航空機の揚力も確保できません。でも撹拌を意図した流れの場合、或いは熱伝達を意図した流れの場合、乱流の方が好都合になります。より効率よく撹拌でき、より効率よく熱伝達できます。
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それが可能になったのは、前述の通り、コンピューターの性能が飛躍的に向上し、数値解析のプログラムも進化したからです。
民主党の蓮舫さんは、スーパーコンピューターの重要性を最後まで理解できなかったようですが、数値解析技術の向上は実に重要なことです。
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先日、英国の会社が製鉄所用に乱流促進装置のPRに来ました。仕事に関することなので、詳細は書けませんが、要は、層流の流れに邪魔をする物体を取り付け、強制的に乱流を発生させるものです。
層流をありがたがる時代に学校を卒業し、素朴な思いとして乱流を忌避する感覚があった私には驚きの装置ですが、これが熱伝達率改善には非常に有効なのです。
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何となく、いぶかしく思う私の気持ちを鋭く読み取ったのか、先方の技術者は「装置を取り付ける前に、コンピューターシミュレーションで効果を確認しますよ」と説明します。
実際に、これまでの設置例について、シミュレーション結果をデモンストレーションします。
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数値解析ソフトは、ANSYSのFLUENTです。 ああ、これならお試し版を私も持っていますが、実際に計算に用いたことはありません。 これはスーパーコンピューター用で、私が持つパソコンでは、こんなに複雑なプログラムは走らないだろうと思っていたからです。
でも、聞いてみれば、今なら普通のパソコンで問題なく動くとのこと。ええっ?
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3次元でダイナミックの流体解析が、それも乱流の解析が、高い精度で、自分のパソコンでできるなんて! 私には驚きでした。
驚いた私に、その製鉄会社の数値解析の第一人者であるT博士は、ニコニコと笑っています(まるで浦島太郎を見るように)。
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もっとも、話はそう簡単ではありません。 パソコンは値段が下がる一方で、劇的に性能が向上し、高度な数値解析ができるようになりましたが、解析ソフトは高価です。ANSYSのFLUENTのライセンス料は個人が趣味で払えるものではありません。
T博士が開発したプログラムなら、無料で使えますが、誰でも申し込んで使えるものではありません。
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世の中は、層流オンリーの時代から乱流を認める時代になったが、その解析はやはり難しいままだな・・・。 解析を行う研究者の仕事は難しくなるばかりだ・・。
そして乱流は認められるとしても、ラッシュアワーの人の流れがますます乱れ、高速道路の走行速度がどんどんバラバラになっていくのは、実に困ったものだ。
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そんなことを考えながら、大手町駅のホームを歩いていると、今日も人の流れは乱れています。 前方に極端に遅い速度で歩いている人がいるようで、つかえているようです。
「何だろう、スマホでも眺めながら歩いているのかな?周囲の迷惑も考えずに怪しからん」と思って、前の方を伺うと、松葉づえをついた人が、懸命に歩を進めています。
「あっ! しまった。そういう事情だったのか。これはイライラした自分が実に嘆かわしい」
と恥ずかしい思いをしました。
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これからも、コンピューターの性能は向上し、乱流の現象の解析は進むでしょう。
でもイライラする乱れた心の解析は、パソコンでもスーパーコンピューターでもできません。 どうも修行が足りないな・・と除夜の鐘を聞きながら思います。
謹賀新年
皆様にとって佳きお年となりますように。
今年もよろしく。
by 夏炉冬扇 (2014-01-01 10:18)
夏炉冬扇様
今年もよろしくお願いいたします。
by 笑うオヒョウ (2014-01-06 02:28)