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【 原鉄道模型博物館について考える その2 】 [鉄道]

【 原鉄道模型博物館について考える その2 】

模型の価値の一つは、どれだけ精密に実物を再現しているかです。その意味では、原信太郎翁の鉄道模型は、本物以上に本物らしいくらいで、模型としては満点に近いでしょう。 本物以上に本物らしいというのは、彼が製作した台車(ボギー)のことです。 

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 鉄道模型のこだわりは幾つもありますが、原信太郎翁が特にこだわったのは台車(ボギー)です。板ばねの板一枚一枚を自分で作るなんてのは、普通の模型ファンのレベルではありません。 そして彼は横揺れ安定用のバーまで取り付けています。 

かつて日本の本物の鉄道の台車にも取り付けてありましたが、いつの間にか軽量化と設計の単純化のためになくなってしまいました。しかし、彼の模型にはまだ残っているのです。実際、凹凸のある線路を走行する車両の映像を見るとこの安定装置の効果は明瞭です。

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 私が本物以上に本物だ・・と言うのはこの点です。 そしてそれが可能なのは、1番ゲージという、普通の鉄道模型では最大級のサイズだからです。 普通の一般家庭で少年が趣味として楽しむHOゲージやNゲージでは全く不可能です。

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 さらに、ただの模型趣味人と違い、機械工学的な工夫もされています。ビデオに登場する原信太郎翁は、「僕はウォームギヤが嫌いだ」と発言します。これは鉄道模型に限らない話ですが、ウォームギヤは力の伝達方向が一方向で、逆の方向には力が伝わりません。 それだけならラチェット歯車などと同じなのですが、ウォームギヤの場合、逆方向に力を加えた場合、或いは力がかからなくなった場合、位置が固定され、動きません。 これを嫌う機械技師は確かにいます。

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これは何を言いたいのかというと、電源を切った瞬間に鉄道車両が停止してしまうということです。スイッチを切って惰性で走行するという、電車では当たり前の動きがウォームギヤを用いた模型では再現できないのです。この問題を解決するために、翁は様々な工夫をしています。コアレスモーターの採用など、感心するばかりです。

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実は鉄道模型で難しかったのは、低速運転です。実物に近い雰囲気を出すためにはポイントや駅のホーム進入時にゆっくりと走らせたいのですが、模型用の直流モーターでは難しいのです。そして惰性走行させながらブレーキはゆっくりとかけたいのですが、普通の模型ではそれができません。 原翁の模型はそれができる・・・。

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それ以外にも着目すべき点は多くあります。電気機関車のモーターから車軸に回転を伝達する方式の一つにブッフリ式歯車がありますが、これを忠実に再現しています。たしかこの方式の機関車はヨーロッパにしか無いはずだけれど、欧州の鉄道によほど思い入れがあるのだな・・と思います。

しかし、難点を言えば、本物のブッフリの歯車はインボリュート歯車だけど、原鉄道模型のそれはサイクロイド歯車みたいです。もっとも、ショーケースの外から肉眼で見ただけで定規を当てた訳ではないので自信はありませんが・・。

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 他にも気づいた点を挙げれば、鉄道模型ファンなら一度は夢見る架線集電方式も、実際に採用しています。私の場合、他に架線集電をしている鉄道模型は、昔交通博物館(今はもうない)で見ただけです。

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 そしてもうひとつの点は、レールに鋼材を使用していることです。普通模型の鉄道のレールは押出成形が容易な柔らかい金属、つまり真鍮またはアルミを用います。鋼を用いるのは模型ファンの強いこだわりですが、彼はどうやって模型サイズの鋼製レールを手に入れたのでしょうか? おそらくは輸入でしょうが・・。実はレールの断面形状は用途によって違います。軽便鉄道のレールと新幹線のレール、天井クレーンのレールでは、太さだけでなく断面形状も異なるのです。 しかも彼のレイアウトでは、締結方法も通常の鉄道と同じ方法です。彼はどうやってあのレールを手に入れたのか? 仮に入手可能だったとしても、相当高価なものになったはずです。驚くばかりです。

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 一方で多少、雑だな・・と気づく点もあります。 粗探しをするのは上品な趣味ではありませんが、何点か指摘したいと思います。

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 ひとつは連結器(模型ではカプラーと言います)。これは実物をそのまま模型の縮尺に小さくすることが難しく、実物とは違う形の模型用カプラーを用いることが多いのです。 それに、連結器の方式は、地域や車種によって違います。 TEEのような国際特急では統一されますが)。

 原模型では、衝突時の緩衝装置は正確に再現されていますが、カプラーの方は本当に本物に忠実とは言えません。

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 そして、国籍不明のレイアウトの問題があります。1番ゲージとしては世界最大のレイアウト(というよりジオラマと言うべき)は、それは見事なものですが、国籍不明です。 欧州のどこかの都市をイメージしていますが、それがフランスなのか、スイスなのか、ドイツなのか分かりません。なぜならジオラマには文字が登場しないからです。 フランスのパリのリヨン駅を模した駅にスイス国鉄の機関車が到着しています。

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 そんなことどうでもいいではないか・・と言う人もいるでしょう。でもそうではありません。日本の鉄道が、韓国や中国の鉄道と全く違うように、ヨーロッパでは国ごとに鉄道の形も方式も違います。 そしてそれぞれの国の鉄道ファンは自国の鉄道を誇りにしています。

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 欧州の鉄道は、一部を除き、ゲージ(線路幅)は新幹線と同じ標準軌で統一されていますが、極論すれば、統一されているのはそれだけです。 電源電圧、周波数、集電方式は全く違います。 フランスとイギリスを結ぶ国際特急ユーロスターが登場した時、この違いのためにしばしば故障し、私も被害に遭いました。 そして、国による最も大きな違いは信号方式です。スイスには、ドイツの高速特急ICEもフランスの高速特急TGVも乗り入れていますが、両者の信号方式の違いに苦慮したと聞いています。

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 しかし、信号方式は、日本国内でも鉄道会社によってさまざまに違うのです。かつて信楽鉄道で信楽鉄道の列車とJRの列車が正面衝突して多くの犠牲者が出た事故がありましたが、その原因も信号方式の違いが絡んでいます。

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 原鉄道模型博物館の巨大レイアウト(ジオラマ)では、自動式の閉塞信号システムを導入しており、これはJRの方式に似ているのですが、信号の色が意味する内容が不明です。赤は止まれ・・という点は分かりますが・・・。 これは一体どの国の信号システムなのか? 非常に地味な点ですが、原信太郎翁なら、当然、拘っているはずなのですが、説明がありません。

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 そして、もうひとつ指摘するならば駅舎の建築です。

 建築の世界では、駅舎というのはひとつのジャンルに数えられ、世界中に優れた鉄道建築があります。ニューヨークのグランドセントラル駅、シカゴのユニオンステーション、ロンドンのセントパンクロス駅、ローマ駅、そしてパリのリヨン駅、どれも素晴らしい建築です。 それなのに、原鉄道模型博物館にあるリヨン駅風の建築模型は、彼の車両作品ほどの精緻さはありません。あくまでリヨン駅風であり、リヨン駅ではありません。

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 ああ、それに加えて、日本の長浜駅の旧駅舎、門司駅、改築前の京都駅、そして戦災にあう前の東京駅も見事です。どこの国の駅でもいいから、実物の似た駅舎を作ってもらえたら、本当にすばらしかったのに・・・。

 以下 次号

原鉄道模型001.jpg原鉄道模型003.jpg原鉄道模型002.jpg

済みません。館内撮影禁止だったのでパンフレットの絵を貼ります。


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