【 JR北海道の地獄変 】 [鉄道]
【 JR北海道の地獄変 】
芥川の地獄変では、地獄の様子を表すために、牛車に女性を乗せて火を着け、燃え上がる恐ろしい様子を描こうとします。
実際、京都や滋賀の伝説には炎をあげた牛車に乗った妖怪が登場します。
「炎をあげて燃え盛る牛車とは、なんとも恐ろしいではないか」と、国語の先生は言いますが、高校生にはピンときません。のろまな乗り物の代表のような牛車が燃えたところで何が恐ろしいの?と思ったりします。
牛は驚いて暴れるかもしれないけれど、乗客は飛び降りればいいだけではないか?
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しかし乗り物の火事が恐ろしいのは、事実です。 飛行機でもバスでも鉄道でもそうです。 バスや鉄道の場合、とにかく車両が走っている間は脱出できないので、言ってみれば密室の火事ですし、それに停まった後でも脱出できる出口は限られているので、すこぶる危険です。
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ですから日本の鉄道の場合、昭和の時代に車両火災を防ぐことに心を砕いてきました。車両の難燃化、不燃化は当然のこと、火気を遠ざけることも重要な対策です。
車内の禁煙化もその一つですし、鉄道の電化も防火に寄与しています。
つまり、蒸気機関車 ⇒ ディーゼル ⇒ 電気鉄道の流れは、防火、防災にも寄与しているのです。
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しかし、敢えてその流れに逆らっている会社があります。それはJR北海道です。(他にもありますが・・)。
JR北海道は、鉄道の電化よりも、高性能なディーゼルカーの導入を急ぎます。電化に必要な変電所などの設備を設置する場所はふんだんにあるのに、電化を急がず、未電化のままです。それはなぜか?
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どうやら、ディーゼルから電車に切り替えるための、社員の転換教育がうまくいかないからではないか?と私は勘ぐります。問題は、昭和の時代、旧国鉄時代に遡ります。
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戦後、エネルギー革命の後、いち早く日本の石炭産業は、競争力を失い、存続を許されない状況になりました。しかし日本有数の大炭田を多く抱えた北海道では国内炭を活用しようと考え、蒸気機関車(SL)を多く残して走らせました。長万部の機関区には多くのSLが並びました。しかしやがて国鉄経営は逼迫し、分割民営化を迫られました。 旅客が少なく、採算の悪いJR北海道は多くの人員合理化を迫られ、長万部の人達も旅客の多い首都圏への異動・配転を求められました。
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ボイラー技士の資格を持つ誇り高いSLの機関士は、ただの電車の運転士にならざるを得ません。住み慣れた土地を離れなければなりません。当然組合は猛反発し、大騒動となりました。結局、穏健で経営側の指示に従順な社員は首都圏への異動を受け入れ、反発した先鋭な活動家らは北海道に残りました。一種のゴネ得です。
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北海道は分割民営化で人員を削減しましたが、その結果経営に好都合な人は去り、経営に非協力的な人が残り、組合はいよいよ先鋭的になりました。
その間の経緯は、NHKの「その時日本は」に紹介されています。解説者である山室英夫は多分に組合に同情的で国鉄の分割民営化に批判的でしたが、確かに北海道に禍根を残したのは事実です。
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一部の組合員は定時運行に非協力的だったり、設備の近代化や合理化に反対したりします。一時期のように破壊活動やストライキ、サボタージュはしなくなりましたが。
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一方、本州の各鉄道会社はどうしたか?
国鉄末期に非常に先鋭化した組合活動では、国労と動労が突出し、反成田闘争や、ベトナム反戦活動など、鉄道事業と無縁の活動を行い、国鉄を混乱させていました。
スト権獲得ストという、矛盾した活動もありました。しかし、それらが国民の支持を得られないと分かり、支持母体の社会党が衰退すると、国労と動労は日和りました。
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先鋭的だった動労は、極めてラジカルな動労千葉をのぞいて、穏健派に転向し、新JRに協力的になりました。活動家が集まったその動労千葉もやがて追い詰められ、老いた自称「活動家」は、分社化して第三セクターになった「いすみ鉄道」などに集められました。ていよく封じ込めに成功したのです。左翼のシンパだった堂本千葉県知事(当時)は、「いすみ鉄道」を可愛がり、左翼の仲間を社長として送り込みましたが、
(一応、公募の形はとりましたが)、なかなか経営はうまくいきません。
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JR北海道では、今になって安全の問題が噴出します。現場の状況が経営幹部に伝わらない状況、風通しの悪さが原因である・・とのことですが、これは組合活動が活発だった頃の旧国鉄と同じです。
組合は、自分達の労働強化を極端に嫌います。保線作業もなしで済ませられるなら、済ませたいと思います。線路のゲージが広がっていても、脱線しなければいいではないか・・、規則通りに仕事をしていたら疲れるし、黙っていれば分からない。隠しておけばいいではないか・・・。経営幹部も見て見ぬふりで腫れ物には触りません。
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普通の企業なら、安全上しなければならない作業を先送りしているうちに忘れた‥・なんて事はありえません。もしそうなら、担当者は懲戒解雇の対象です。でもJR北海道ではそうではありません。報道するマスコミは半ばあきれ、経営陣を非難しますが、現場の活動家を非難することはありません。問題の本質に迫れません。旧国鉄時代と同じです。
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ディーゼルカーから出火し、車両が燃えて火事になるというのも信じられないことです。燃料が漏れて引火した・・という事故原因が驚きもなしに語られますが、理解できません。 自動車に給油したあと、ガソリンタンクの給油キャップを締め忘れて、ガソリンを漏らして火事になるなんてことは、日本のまともなドライバーならありえません。ありえない事をプロの社員がしたのなら、処罰の対象になりますが、JR北海道ではうやむやになり、社長が自殺しただけです。
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今も昭和の残滓のような組合活動家が残り、安全対策に非協力的だったりサボタージュを繰り返しているなら、これは本当に恐ろしいことです。そしてそれに対して、マスコミが意図的に触れないのなら、それはさらに恐ろしいことです。問題の本質を把握し、それを剔抉しなければ、JR北海道は安全にはなりません。
炎があがる牛車よりも、炎をあげるディーセルカーの方がずっと恐ろしいのです。
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