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【 アニメ 伏 鉄砲娘の捕物帳 について考える 】 [アニメ]

【 アニメ 伏 鉄砲娘の捕物帳 について考える 】

 

先日、文芸春秋のアニメ映画「伏 鉄砲娘の捕物帳」を見ました。 宮地昌幸の趣味なのか鮮やかな原色を多用した配色、ジブリとは違う形でデフォルメした登場人物の表情など、ちょっと面白いアニメ映画なのですが、肝心のストーリーがつまりません。

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捕物帳というからには、謎解きを前面に出して、観客に推理させたり、スピーディーな展開で、サスペンス性を強調するのがお約束ですが、そうでもありません。

場面展開はそれなりに早いのですが・・。

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そして何より期待はずれだったのは、「南総里見八犬伝」にリンクしないことです。

本作品の原作である、桜庭一樹の「伏 贋作・里見八犬伝」は、滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」に想を得たというのに、ほとんど八犬伝とつながるものがありません。

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ご承知の通り、南総里見八犬伝は、中国の施耐庵(または羅貫中)の傑作「水滸伝」に想を得ています。 日本を舞台にして翻案した・・というよりは、小説のバックボーンを同一にする・という表現が適切かも知れません。

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水滸伝の場合は、反体制・・というより社会の異端児である108人の好漢が梁山泊に集い活躍する訳ですが、最初は権力者である高氏に反発する反体制集団なのに、最終局面では懐柔されてヒヨってしまうところがちょっと残念な作品です。

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水滸伝は、同時期に書かれた「三国志演義」と、人気を二分したと言われますが、今はそうではありません。私が中国にいた頃、「三国志演義」は至る所で見かけるのに、「水滸伝」の方はほとんど見かけませんでした。これは、文化大革命後の四人組時代に水滸伝が政治的に利用された事や、反体制集団を英雄視するストーリーが共産党の一党独裁に都合が悪い事などで、抹殺されたためだと思います。

読み物として面白さなど、「三国志演義」と「水滸伝」は共通点が多く、そのために「三国志演義」と同じく羅貫中の作だという説があるものと考えます。

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「南総里見八犬伝」では、108人が8人になるだけでなく、犬と人間の間にできた異形の存在であること、悪漢とは戦いますが基本的に反体制とは言えないこと・・などが、「水滸伝」とは異なります。それに日本固有のおどろおどろした雰囲気等が加わり、換骨奪胎を経た「水滸伝」は、「里見八犬伝」として日本の名文学になっています。

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しかし、違うとはいっても、「水滸伝」の108人の主人公も、「八犬伝」の8人の主人公も、ヒーローであり、善玉です。しかし、桜庭一樹原作のアニメでは、8人の異形の存在は悪役なのです(正確には悪役とばかりは言えませんが)。

これじゃ、登場人物の名前は同じものの、全然違う作品じゃないか? 

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そこで気づきます。これは「南総里見八犬伝」のパロディではなく、リドリースコット監督の「ブレード・ランナー」のパロディなのです。あくまでパクリではなくパロディです。

桜庭一樹らしく、男女の立場を入れ替えていますが、異形の存在の悪玉集団の中に、ひとりだけ善玉がいて、追手の主人公と結ばれる・・というストーリーはそっくりそのままです。 「ブレード・ランナー」自体も原作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」を映像化したものであり、それをさらに翻案して江戸時代のアニメにした訳で、分かる人には分かる・・・という桜庭一樹の洒落です。

翻案とパロディ・・・これをいかに上手に使うかが、ポイントです。

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ストーリーが進むと、さらに多くのことに気づきます。

作品には原作者桜庭一樹の分身というべき戯作者希望の少女が登場しますが、彼女の祖父は、あの滝沢馬琴という事になっています。

晩年の馬琴の有様は、芥川龍之介の「戯作三昧」に詳しいのですが、そのままが登場します。 ああ、これは「里見八犬伝」に想を得たのではなく、芥川の「戯作三昧」に想を得たのだ・・と観客はその時点で気づきます。

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「戯作三昧」自身が、「里見八犬伝」や「椿説弓張月」にヒントを得た作品であり、小説家の芥川が戯作者として先輩である馬琴に敬意を表した作品です。

桜庭一樹が、小説家の先輩として芥川を尊敬し、そのオマージュとしてこの作品を作ったのなら、面白いことです。

つまり、この映画は、作中に登場する小説家については、滝沢馬琴=芥川龍之介=桜庭一樹の3代の入れ子構造の作品なのです。

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そしてストーリーの方は、「水滸伝」=「南総里見八犬伝」=「伏 贋作・八犬伝」の

入れ子構造ではなく、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」=「ブレード・ランナー」=「伏 鉄砲娘の捕物帳」と続く、3代の入れ子構造だったのです。

この映画については、その点に気づけは、謎解きはおしまいです。後は何も観るべきものがありません。

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江戸時代と現代を奇妙にミックスさせた架空の世界が面白いかと訊かれれば・・つまらないと答えるしかありません。現代風にデフォルメした吉原の景色もあまりに現実離れしており、つまりません(もっとも、私は本物の吉原を知りませんが)。

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ただ一つ、あれっ?と思う事があります。

それは、犬を鉄砲で撃つという行為がしっくりこないことです。

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古来、日本で猟師が撃つ動物と言えば、主にクマ、イノシシです。 イヌの仲間では、キツネとタヌキが猟銃で狙われる対象です。

もちろん、他の動物も狙われるのでしょうが、物語に登場する射殺される動物は、だいたいこの4種類です。 なめとこ山のくま、ごん狐・・。 

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西洋でも、犬が銃で撃たれる話しはまれです。シャーロック・ホームズの「バスカヴィル家の犬」くらいです。 西洋の物語では、もっぱら犬の近縁であるオオカミやキツネが狩猟対象です。

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日本でも西洋でも違和感満載の、犬を銃で撃つという場面から、映画が始まるというのは、どうもいただけません。

今や、ハリウッドのアクション映画の影響なのか、日本の「西部警察」「太陽にほえろ」の影響なのか、映画を派手な作品にしようとすれば、鉄砲は必需品です。しかしそれはあまりに安直な演出です。

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この 「伏 贋作・里見八犬伝」の映画化にあたっては、鉄砲は全く必要なく、刀剣で戦えばそれでよいのです。それでも物語は十分に成り立ちます。

最近の禁煙運動の影響は、アニメ映画にも及び、「風立ちぬ」では、主人公がタバコを吸うのはけしからん!という声まであるようです。

それなら、銃規制ももっと真剣に行うべきです。このアニメ映画に全く不必要な鉄砲は、弓矢か日本刀に切り替えるべきですし、忠臣蔵では早野勘平が鉄砲ではなく弓矢を持つべきでしょう(もちろん冗談ですが)。

 

くりかえして思います。日本の捕物帳に鉄砲は似合わない。


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