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【 アマゾネス達の乳房剔抉(ちぶさてっけつ) 】 [医学]

【 アマゾネス達の乳房剔抉(ちぶさてっけつ) 】

 

先日の報道で、女優のアンジェリーナ・ジョリーが将来乳癌になる事を予想して、予防措置として両乳房を剔除(てきじょ)する手術をおこなったと知りました。(正確には乳腺の摘出であり、乳房全体ではないそうですが)。また日本でも予防的に癌のない乳房を剔除する手術を予定しているとの報道がありました。尤も、これはアンジェリーナの場合とは異なり、片方の乳房が癌になり、さらに遺伝子的な検査を行った結果、もう片方も癌になる可能性があると判断して、その切り取りを倫理委員会に諮るというものです。

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アンジェリーナの場合も、遺伝子や親の病歴を詳細に調査した結果、将来的に発癌の可能性が非常に高いことが判明した事と、かつ癌になってから取り除く場合と健康な内に取り除く場合の、メリット・デメリットを比較した結果から、乳腺剔除を判断した訳で、合理的な判断であり、勇気ある決断だと、私は思います。

どの世界でも、健康な乳房を自ら切り取ろうなどという決断をする勇敢な女性がそう多いとは思えません。

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これまでも乳癌になった後、病巣の無い健全な卵巣も摘出するという手術は一般的でしたが、癌の無い段階で乳房を取り除くというのは寡聞にして聞きません。

世はなべて、予防医学のキャンペーンまっさかりです。即ち、「病気になってからでは遅い。健康な内から病気にならないよう心掛けるべきだ」というスローガンです。生活習慣病の対象年齢ど真ん中で、かつ極めて不健康、かつ病的な肥満の状態にある、私などは、予防医学キャンペーンの標的になっています。

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病気にならないための予防医学には基本的に大賛成ですが、それが外科的侵襲を伴うものとなると、ちょっと待てよ・・と思います。 病気にならないために、自分の体にメスをいれて臓器を取り出すというのは、なんだか本末転倒ではないか?

子供の頃から、「身体髪膚これを父母に受く。敢えて毀傷せざるは孝の始めなり」と暗唱してきた私には、健康な体を傷つけることに素朴な抵抗を感じます。

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そして、予防処置としての乳房剔除(乳腺摘出)は、2つの意味で考えるべき大きな問題があります。

一つは、どこまでが治療行為であるかという問題。

もう一つは、現時点で無害であっても、将来禍根となりうるものを取り除くという思想の是非です。

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病気になった結果として乳房を切り取った場合、その再建手術までを含んで治療行為と言えるでしょうし、日本の場合、当然健康保険の対象となるでしょう。

乳房の存在は女性には非常に重要であり、その再建は当然の治療行為と言えるからです。

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しかし、遺伝子診断で、現在は健康だけれど、将来発病するかも知れない・・という段階での行為は疾病に対する治療行為とは言えません。健康保険はどう判断するのでしょうか? また、摘出手術までは治療行為と認めても、その後の再建手術は治療行為とは認められないかも知れません。そうなると、健康保険の対象から外れます。

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そうなると、どうなるか?

患者の費用負担に大きな違いが生じます。アンジェリーナ・ジョリーのような映画スターなら、費用の心配は無いでしょうが、一般人の場合は考えねばなりません。

癌になってからなら保険適用だけれど、癌になる前だったら全額自己負担・・・となると、これは大きな違いです。

メリット・デメリットを比較して手術に踏み切ろうというのに、それではできなくなります。

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そこは行政が考えるべき課題だと、私は思います。政府としては、国民の総医療費を抑えて、かつ国民が健康で、高いQOLを確保することが重要ですから、その為に乳房の事前手術が好ましいなら、すぐにでも保険適用すべきです。その方が医療費全体としては安くなるのですから。

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乳房の再建手術について、私は全く知りませんが、シカゴでお会いした女医のヨシさんは、乳房の再建を専門にする形成外科医でした。彼女の話では、患者さんの乳房を失った喪失感はとても強く、乳房を取り戻したいという熱意は大変なものだそうです。ただ、盛り上げるだけではなく、ニップルも必要だというので、同じように色素が沈着したラビアマイノーラから切除して移植した・・とか、私にはさっぱり分からない話が、シカゴからウィスコンシンまでの間続きましたが、とにかく大変な手術をしてでも乳房を取り戻したいと願う患者さんがいるそうです。

健康体で取り除いた場合も、乳房の再建手術を保険適用対象にすべきでしょう。

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そして、もうひとつの問題、つまり将来禍根となりうる存在を事前に排除するという考え方については議論すべき点があります。

人間の体はいつか病気になるものです。 いずれ病気になるのなら、事前にとってしまおう・・とか、不必要なものなら取ってしまおうという考え方は、かなり乱暴で、下手をすると、勇み足になります。 例えば盲腸はあまり役には立たないし、将来虫垂炎になるかも知れないから、子供の内に取ってしまおう・・ということになったらどうしましょう?或いは、将来胃癌になったら生命にかかわるから、胃を最初から摘出しよう・・とか、肺や腎臓は2つもあると、その分肺癌や腎臓癌になる可能性が高まるから、初めから1つ摘出しておこう・・なんてことになったらどうしましょう?

最後は、生きていると将来癌で死ぬかも知れないから今の内に自殺しとこう・・なんて極論になるかも知れません。まあ、冗談ですが。

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病気にならないために、予め外科的侵襲(つまりメスを入れること)を行うことには、矛盾と抵抗を感じるのですが、もし行うなら優先順位があります。乳房の手術の前に行うべきことがあります。それは男子の割礼です。割礼によって、ペニスの周囲にスメグマ(恥垢)がたまらず、清潔に維持され、ヒトパピローマウィルスの感染は少ないとされています。 実際、宗教的な理由で割礼を行うユダヤ教徒や一部のキリスト教徒では、子宮頸癌も陰茎癌もほとんど発生しないそうです。 重篤な副作用を伴う場合もある子宮頸癌ワクチンの接種よりも、男子の割礼の方が確実で安全ですが、日本でこれを提案する人はいません。 やはり宗教上の理由からでしょうか?

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不必要なもの、禍根となるものを排除しようという思想は、医学だけではありません。

一般社会、企業の中でも大流行です。

成績の悪い人、非生産的な人物をリストラして組織の効率をあげ、収益を向上させようという発想ですが、これはしばしば失敗します。

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巨額の赤字に苦しむパナソニックやシャープは、現在リストラを推進中ですが、彼らがリストラをするのはこれが初めてではありません。これまでもリストラを重ねながら、かえって業績は悪化して今日に至ったのです。将来禍根になる人物を排除したつもりが、逆にお金を稼ぐ人を放り出し、負債を作る人を社内に残したのです。

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かつてシャープは液晶テレビに経営資源を集中させ、他の部門を大幅に合理化(つまりリストラ)しました。現在、液晶テレビが大赤字で、会社が倒産しようかという事態で

それに代わる収益の柱が見当たりません。過去にリストラしたからです。

パナソニックも、かつてプラズマテレビに力を入れた時、他の部門を絞りました。今テレビに頼る経営からの脱却を図っていますが、過去のリストラが仇になっています。

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病気になる可能性がある組織を手術で取り除いたはずなのに、切り取ったのは正常な組織で、将来の病巣は別のところにあった・・という訳です。 本当の医学でもそんな事態が起こりうるかも知れません。

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話が脱線しましたが、では自分の体で将来、禍根となりうるものは何か?と考えてみます。 すぐに思い当たるのは、舌です。

舌禍と言いますが、私の場合もまさに災いのもとであり、将来の禍根と考えれば、今の内に取り除いた方がいいのかも知れません。 でも、それはできません。

今の内に舌を取ってしまうと、あの世に行ってから、閻魔様に引っこ抜いてもらう舌がなくなってしまいますから。


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