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【 Amendment 】 [アメリカ]

【 Amendment 】

米国の政治家はあまり涙を見せません。どんなに悲しい場面でも感情をコントロールできなくては、意思の弱い人とみなされるのです。政治家だけではありません。数学者藤原正彦は、米国で思ったのは「この国には涙がない」ということだと「若き数学者のアメリカ」に書いています。その後、私が暮らして分かったことですが、実際にはアメリカ人も泣きます。特に女性は泣きます。中国人や韓国人ほどではありませんが・・。

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そのアメリカも少し変わってきたようです。

オバマ大統領は、コネチカット州の小学校でおこった銃の乱射事件で、涙を流しながらスピーチしました。米国の政治家は皆スピーチが上手です。それに涙が加わると、さらに感銘深いものになります。一方、日本の政治家はスピーチが下手です。それに涙が加わると、見苦しさが増加します。この差は何なのか?日本の政治家は涙という塩味の調味料の使い方が下手なのか? よくわかりません。

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オバマは「もう懲り懲りだ。こんな悲劇には耐えられない」と語りました。これは実に上手な表現です。目の前の悲劇に対して、全ての人は共感しています。異論反論はありえません。しかし、オバマは次に具体的にどうすべきかを言いません。言えば国論が二分されるからですが、彼は上手な「論理の誘導」で銃規制に乗り出そうとしているのです。国民全体の気持ちが一致している現在の状況から次のステップに行こうとしているのです。

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私に言わせれば「遅いじゃないか。今頃になって。もっと早く対応すべきだったじゃないか・・」という事になります。もっと早く彼が決断していれば20人の小学一年生は助かったかも知れないのに。

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銃規制(ガンコントロール)は、オバマ自身の生命を守ることにもなります。

一体これまで米国の大統領の何人が銃で暗殺されたか、オバマ大統領は考えたことがあるのか? しかも米国史をみると、改革を行ったか改革しようとした意欲的な大統領に限って殺されています。殺されなくても、レーガンは狙撃されて重傷をおっています。大統領以外でもギフォーズ下院議員などは、銃の乱射で重傷をおいましたし、大統領候補のロバート・ケネディや、キング牧師など、アメリカにとって大切な人ほど凶弾に倒れているのです。

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オバマ以前に、黒人最初の大統領候補に目されたコリン・パウウェル元統合参謀本部長は、黒人大統領になった場合、暗殺される可能性もある・・として立候補を断念しました。銃の存在は、見えない形でアメリカの政治に不健康な影響を与えているのです。

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私が米国に赴任した直後の事です。シカゴのアパートで目を覚ましてラジオのスイッチを入れると「米国に来たばかりの日本人✕✕ヨシヒロが、銃弾を受けてまもなく死亡した」とニュースが告げています。

「あれ?僕はまだ生きているぞ」と寝ぼけ眼で考えましたが、それがルイジアナ州バトン・ルージュでの服部君射殺事件だったのです。

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犯人は、接近する不審人物に発砲しただけで、当然の権利の行使・・とルイジアナ州の刑事裁判では無罪になってしまいました。犯人の食肉加工業者は、普段からガンマニアで、小動物を撃ったりしており、明らかに異常な人物だったのですが、米国でのガンマニアはパソコンマニアやカーマニアと同じような感覚で見られるのです。

あの服部君射殺事件の時に、何らかの銃規制をしておけば良かったのに・・。

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ガンコントロールの議論がでると、必ず2つの反論がでます。

共和党を支持するロビー団体である、全米ライフル協会などが主張する訳ですが、

1. 警備する側も銃で武装しておけば、被害は最小限に食い止められた。

もっと一般市民が銃に親しみ、無法者に立ち向かえれば、安全で秩序ある社会が形成される。

2. 銃の保持は、米国憲法で認められた国民の権利である。憲法は不磨の大典であり、銃規制は憲法違反の不法行為である。

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どちらも反論するのがアホらしくなる幼稚な理屈ですが、全米ライフル協会というのは、脳ミソが筋肉でできていた俳優チャールトン・ヘストンが会長を務めていたぐらいですから、あまり高級な議論を期待してはいけません。

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悪漢に武器を持つことを許す一方で、こちらも武器を持ち、いざとなったら相手を殺傷するというのは、文明社会とは遠い発想です。 法律や裁判、その他の行政手段を用いず、市民どうしの殺し合いを可とするのはなぜか? その背景には平等ではない人命、そして平等ではない人権があります。そして超法規的なリンチ(私刑)への寛容さがあります。全く西部劇時代と何も変わっていないのか?

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犯罪者だって危害を受けずに裁判を受ける権利がある・・というのは文明国の考え方です。米国ではそうではありません。米国では、犯罪者、あるいは罪を犯そうとする者の権利は著しく低く見られます。正当防衛の範囲も拡大解釈されます。 単なる窃盗、こそ泥であっても、悪いのは泥棒の方だから・・殺されても仕方ない・・という乱暴さがあります。だから犯罪者も凶悪になり、一般市民も武装します。

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犯罪者の生命など鴻毛の軽きに考える銃規制反対派は、今回も女性校長が銃を携帯していたら、犯人を射殺できたのに・・というトンデモ論理を展開します。

武器さえ無ければ誰も死ななかった・・という発想ではなく、犯人は校長先生に殺されて当たり前・・という発想です。 この馬鹿げた理屈を信奉する人は少ないはずですが、どこかで自分も銃を発射し、他人を殺してみたいというのがアメリカ人のエトスなのかも知れません。

相手の人命、人権を尊重しないという野蛮さは、外国に行った時も発揮されます。 米兵は呵責無く、遊び感覚でイラクの民間人を、アフガンの民間人を殺しました。 

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もうひとつの論点である「銃の保持は憲法で認められた権利」とする説も、突っ込みどころ満載の、無茶な理屈です。 憲法とは言っても、武器の保有を国民の権利とするのは、修正第二条、いわゆるAmendment Chapter2です。 これは国民の権利の部分だけをまとめた権利章典に記載されたもので、州によって扱いが異なります。

確かに憲法の一部ですが、後で追加されたもので、これを不磨の大典とするのは間違いだと考えます。

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全ての法律は、その目的や、できた時の時代背景などを考慮する必要があります。

Amendment Chapter2は、独立戦争からそれほど時間が経っていない18世紀に、「規律ある民兵」を多く必要としたために、国民の武器の所有を認めたのです。あくまで国防上の理由です。それが21世紀に民兵など・・・馬鹿馬鹿しい限りで、単に危険なおもちゃを手放したくない手合いがこじつけで、唱えているだけです。

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三流の役人にしばしば見られることですが、ある提案を拒否しようとした時、理屈ではかなわないから、「これこれの法律によって、それはできません」と役人は言います。法律の趣旨や成立した背景は語らず「とにかく法律で禁じられているのだから仕方ないじゃないか」と議論をシャットダウンします。

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法律は悪法であれども守るべき・・というソクラテス以来の考えを否定はできませんが、議論を封じる為に、あるいは現実を見ない為に、法律を持ち出すのは禁じ手です。法律が時代に合わなければ改正するのが筋であり、役人はともかく立法府の選良が、「法律だから仕方ない・・」というのは怠慢なのか、後ろめたい理由があるかのどちらかです。

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オバマ大統領が「もう耐えられない」と言ったのは悲劇を指しているのでしょうが、不磨の大典を拠り所にして屁理屈をこねる守旧派に対してもでしょう。

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ご承知の通り、憲法には改正が容易な軟性憲法と改正が困難な硬性憲法があります。硬性憲法の代表格は日本の現在の憲法です。これはGHQが原案を作成したものですから、当然ながらアメリカの憲法と共通する部分が多くあります。 しかし違うのは、人権をまとめた権利章典を設けなかったことと、硬性憲法であることと、国民の武器の所有を権利化しなかったことです。喜んでいいのか、悲しんでいいのか。

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その日米両方で憲法を見直す動きがでてくるかも知れません。

米国は悲惨な現実を前にして、銃規制反対派の旗色が悪くなって来ました。銃規制反対を続ければ、当選できなくなるかも知れません。

一方、日本は中国と南北朝鮮からの脅威によって、憲法九条の見直しが視野に入って来ました。日本とアメリカ、どちらも憲法制定時から時間が経ち、見直しの必要があるのかも知れません。

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日本の場合、憲法九条の前に、硬性憲法である事を規定する憲法96条の改正が必要ですが、長く続くだろう神学論争に近い学者の協議よりも、尖閣諸島での中国の銃弾一つで話が決まるでしょう。

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同じ銃弾でも、米国の場合は修正第二条の撤廃がポイントです。オバマ大統領が署名する法案には、「武器よさらば ” A Farewell to arms”」方案と名付けたいですね。

実際にはヘミングウェイも銃が好きだったみたいだけれど。


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