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【 9月の風 その6 】 [航空]

【 9月の風 その6 】

 

空港で搭乗する予定だった飛行機が突然キャンセルされ、唖然とした私ですが、ふと冷蔵庫に入れるまでの時間制限がある明太子のお土産の事を思い出しました。

罵声が飛び交う、カウンターの前で、私は素っ頓狂な声をあげました。

「そうだ、お土産に買った明太子をどうしてくれるんだ!」

その瞬間、殺伐とした現場で、ちょっと笑い声があがりました。

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なぜか、私がまじめな時、まじめな発言をすると、周囲にはひょうきんに聞こえる事があるようです。明太子のことは、私には重要な問題です。

私は現場を離れ、数十m離れた日本航空のカウンターに行きました。

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カウンターにはかなりベテランの女性職員が一人いて、笑顔で私を迎えてくれました。

すでに、その日の便は終了しており、カウンターは閑散としています。

「明日の便のご予約でございますね?」

彼女にはJ社のカウンターの騒動が聞こえているはずですから、内心ニヤニヤしているのかも知れません。

「朝一番の成田行きをお願いします」

「早速お取りします。では窓際の席ということで・・」

「いや、窓側の席でお願いします」

「はあ。それでは、左側のA席をお取りします。富士山がご覧になれます」

この接客応対の態度は、ごく一部を除いて完ぺきです。やはり新参の格安航空とは違うな・・・。

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しかし、お値段を見ると、ウームとうならざるを得ません。まあ直前の購入ですから、割高になるのは仕方ありません。

出張旅費の節約のために、格安航空を採用したのに、裏目にでてしまった。申し訳ない・・・。トホホ。

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その次は一夜の宿探しです。 早速家内に電話すると、彼女はパソコンの前に座っていたらしく、すぐに博多駅付近で空室のあるホテルを何軒かリストアップして教えてくれました。その中で最も安く、かつ駅に近いTインにしようと私は考えました。

家内は、私のスマホですぐ予約すれば?と言いますが、私はスマホをうまく使えません。 「どうせ博多は近くだから、現地に行ってその場でチャックインするよ」と言って、私は地下鉄のホームに降りました。しかし、福岡空港の国内線の離発着が終わった後は本数が少なく、なかなか電車が来ません。

やがて、ホームには人が集まりだしました。 よく見ると、カウンターで列を作っていた人達です。やれやれ、彼らとホテルの確保で競争をしなければならないのか?

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「ああ、カウンターで質問していた方ですね」と右側から声がかかります。

若い二人組の男性が、ニコニコというか苦笑いの顔で立っています。彼らは私が罵声を浴びるのを後ろで見ていた人達です。

「さっきは災難でしたね。 それにしても、格安航空はこれがあるから困ります。僕らは熊本から電車で来て、J航空で東京へ行って遊ぼうと思っていたのですが、予定を変更して、中州で遊び、博多に泊ります。そのあと熊本へ帰りますが、中州で遊ぶというので、女房がえらい不機嫌ですわ」

「全く災難です。私もこれから博多へ出て、宿をとり、明朝東京へ帰ります」

「服装からみて、出張の帰りですか?仕事にはなかなかこの飛行機は使えませんね。僕らみたいに遊びに行くのだったら、多少のハプニングもいいんですけどね」

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ようやく来た電車に乗り、博多駅で「それじゃ気を付けて」と二人組と別れ、私は家内に教えられた方向へ向かい、Tインに入りました。

しかし、カウンターの女性は 「申し訳ありません。たった今、満室になりました」

家内に電話すると、インターネットでも、ちょっと前に満室になったとのこと。

しまった、やはり地下鉄に乗る前に予約すべきだったか?

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「次の候補は何ホテル、そこも塞がったから、次は何ホテル、次の交差点をまっすぐ」と矢継ぎ早に、家内からのアドバイスが入ります。 J社の飛行機のキャンセルでホテルが奪い合いになったのか、もともと博多のホテルの室数が足りないのか、それは分かりません。 そんな事を考える余裕はありませんでした。 しばらくして、駅から遠くないホテルで、キャンセルが1室発生したとの情報を、家内が確認して予約をいれ、私はやっとチェックインすることができました。

すでに、明太子の保冷時間は過ぎていましたが、私はホテルの部屋のペルチェ効果を利用した小型冷蔵庫にそのお土産を放り込みました。

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シャワーを浴びて、寝床に入り、考えてみます。

「欠航の原因は何だろうか?」

J航空は、費用節約のために、整備士を成田にしか置いていません。もし他の空港で飛行機に不具合が生じた場合、その整備士は他社の便に乗って駆けつけます。

故障発生時刻が遅くて、他社の最終便が出た後は、自動的に翌日まで飛べなくなります。

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しかし、本当にそうなのだろうか?

通常、飛行機は、安全上重要な設備の系統は複数用意されており、1系統が故障しても問題なく飛行できます。目的地の位置や方角を示すINSの様な重要設備は3系統あり、各系統で示す値が違う場合は、多数決で判断することもあります。

複数ある系統の一つが故障したままで飛行することをキャリーオーバーといい、昔から日本航空も全日空も行っています。 今回のトラブルではJ社はキャリーオーバーをできなかったということでしょう。

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飛行機に不具合が発生した場合、モジュール化した部品のユニットを交換して対処することが多くありますが、その交換部品の在庫がどこにでもあるとは限りません。だからキャリーオーバーすることになりますが、キャリーオーバーできない場合は、飛行機を止めて、部品を緊急で取り寄せることになりますが、その運搬にも他の便が必要になります。部品の在庫を持ち、供給を受け持つ日本フリートサービス社の社員が直接運ぶこともあります。

J社は飛行機が故障した際に、迅速に部品を取り寄せて交換する仕組みがまだ無いのではないか?

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もっとも、部品交換にしても、交換の必要があるか否か、およびどの部品を交換すべきかの判断は、資格を持った整備士でなければできません。つまりどう転んでも、J社の飛行機は福岡に1泊しなければならなかった訳です。

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しかし、それはおかしいぞ? J社の飛行機はポピュラーなエアバスA320です。全日空にもこの機体の整備士はいますし、ひょっとしたら福岡空港に部品在庫もあるかも知れません。 それでも、彼らはJ社に協力してくれないのでしょうか?

私は、全日空が冷淡でさえなければ、J社は便をキャンセルせずに済んだのではないか?と思います。

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話が飛躍しますが、大地震で岸壁クレーンが破壊された製鉄所では、阪神・淡路の時も東日本の時も、他社からクレーンの融通を受けています。提携関係にある会社は勿論、ライバルの会社からも貸してもらいます。「武士はあいみたがい」という言葉の通りです。 それに比べると、既存の大手エアラインは、格安航空に冷淡だなぁ・・・。

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それにしてもJ航空は、お金をかけるべきところにかけていないなあ。整備士は、パイロットや客室乗務員のように、お客の目の前に登場する仕事ではありません。だから余計に数を減らしたりしてはいけないのです。 お客の目に触れる部分だけにお金をかけて体裁を繕い、目に触れないところをコスト合理化するというのは、お客に対する欺瞞です。 安全や定時運行という、最大のサービスは、おもに目に触れない人によって確保されています。そこでの手抜きというのは、経営方針がお粗末であることを示します。

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日本では、たぶん「安かろう悪かろう」の商売は、製造業であろうとサービス業であろうと、受け入れられません。 勿論価格は安い方がいいのですが、安さだけが取り柄で他の特性が犠牲になった商品は、最初は受けても、やがて否定されます。日本の消費者は王様であり、わがままなのです。 必ず質を求めます。

格安航空は、あと2,3年したら経営方針の見直しを迫られるかも知れない・・・。

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翌朝の日本航空の飛行機は、定刻で離陸し、成田に到着しました。

しかし、カウンターの女性が配慮してくれた富士山は雲の中で見ることができませんでした。

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そして、その翌日、私は、J社から返金されるはずの復路の航空運賃とホテルの領収証と電車代、それにFAX代を加えて、請求額と振り込み先の口座をJ社にFAXで送りました。しかし、ひと月経過した現時点でも、J社からは何の連絡もなく、入金もされていません。


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夏炉冬扇

こんばんは。
音沙汰なしですか!それはひどい。
台風一過ですよ。
9月の「切り絵」イベントは大繁盛でした。新作家誕生に力添えできてよかった。
by 夏炉冬扇 (2012-10-01 18:37) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇様

コメントありがとうございます。

ぎゃらりぃで拝見した切り絵は素晴らしいものばかりでした。
大盛況も当然のことかと思います。

次のイベントに期待します。


by 笑うオヒョウ (2012-10-02 00:40) 

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