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【 烏賊はいかす 】 [雑学]

【 烏賊はいかす 】

英国のチャールズ皇太子夫妻が来日した事があります(ダイアナ皇太子妃が存命の頃です)。 そこで皇太子は日本食にトライした訳ですが、イカの刺身が気に入らなかったようで、感想を訊かれて「ゴムホースを噛んでいるようだ」と返答したそうです。

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食べ物の好みはひとそれぞれで、それを非難はできません。ちなみに英国には「 There is no according for tastes 」ということわざがあります。それを日本のことわざである「タデ食う虫も好き好き」と同じとする解釈がありますが、微妙に違うと私は思います。

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イカの旨さが分からないとは、英国人はやっぱり味音痴なのか?・・と軽蔑する訳にもいきません。 でも、これが海洋生物学を好むモナコ王室の人だったら、あるいはイカ料理が一般的なスペイン王室の人だったら、話は違ったかも知れません。

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イカはすばらしい動物です。食料としても、生物学の研究対象としても、電子工学のヒントを得るための生物としても・・・、そして医学研究にも役立つかも知れません。

世界中にイカを食べる人がいますが、世界で日本人ほどイカの価値を理解する民族はいません。

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かつて、日本の漁船が、南半球のニュ―ジーランドの排他的経済水域でイカ漁をした時、ニュージーランドの沿岸警備隊が、違法操業だから退去するように・・と警告してきました。 法律に則った正当な対応ですが、ニュージーランドの人は実はイカを食べません。

「 自分達が食用としないものを日本漁船が漁獲しても、構わないのだけれど、一応規則だからねぇ。 それにしても日本人はなんでイカなんか食べるのかい?」と

困ったような顔で、警備隊長が話しているのをTVで見ました(勿論、元の発言は英語です)。

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イカが電子工学の研究テーマになる・・というのには複数の意味があります。

イカが持つ巨大な軸索(神経索)は動物の神経学を研究し、それをコンピューターに応用する上で重要です。

産総研(旧電総研)の研究者だった、松本元氏が不可能と言われたヤリイカの人工飼育に取り組み、そしてそれを成功させたのも神経回路を研究するためです。

無脊椎動物でよく見られる梯子状神経索ですが、ヤリイカの場合、これが巨大であり重要なのです。 つくばの電総研の地下水槽に多くのヤリイカがいるのを見て、私の兄が驚いた・・という話は、別のブログに紹介したとおりです。

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それから液晶研究でもイカは重要です。私が最初に液晶を知った頃、液晶はイカの内臓から作られていました。 今は化学合成されていますが、最初の液晶はイカの体内で見つかったのです。

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それ以外にも驚くべきことがあります。 イカの血が青い事は広く知られています。

他の赤い血を持つ動物の赤血球では、酸素運搬を担うヘモグロビンの中央には鉄原子がありますが、イカの場合は鉄の代わりに銅原子があって、酸素運搬を担うのです。それで色が青いのだと言われます。 しかし、なぜ銅なのか? 鉄と銅ではどちらのほうが酸素運搬能力として優れているのか? そこが分かりません。 もし、それが分かれば、ハイポキシア(酸素欠乏症)の研究に役立つかも知れません。

そしてハイポキシアの研究は癌の研究に役立つのです。

でも今のところ、イカの血について癌治療の観点から研究している人はいないみたいです(私が知る限りですが)。

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そして、もうひとつ重要なのは、イカの持つ巨大で精巧な眼球です。

高性能な眼を持つということは、その網膜に像を結ぶということであり、それを理解する高性能な脳を持つということです。 パソコンを趣味にする人は画像処理が大きな負荷を伴う仕事であることを知っています。高級なパソコンは、独立したグラフィックボードを備えて、それに画像処理を委ねる形で処理速度を確保しています。

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パソコンの場合は、画像を映し出すための情報処理ですが、眼に映ったイメージの画像処理は逆の機能です。しかし高い処理能力が必要なことは同じです。

そしてより重要なのは、パターン認識です。 網膜に映った画像を脳が取り込んだとしても、それが三角形なのか円なのか、大きいのか小さいのかを認識しなければ、意味がありません。難しく言えば、3次元空間の幾何学を理解する必要があります。

人間の赤ちゃんであれば、ゼロ歳児でも備えている能力ですが、それをイカが持つのか? 巨大な立派な眼を持つということは、すなわち、非常に優れた頭脳を持つということになります。 イカは知的生物なのか?

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そして何より、私が興味を持つのは、イカには心臓が2つあるということです。正確にはひとつは補助心臓というべきものですが、ノミの心臓と言われる気の弱い私にはとても羨ましいことです。

今、日本では心臓移植の手術例も増えてきましたが、心臓移植を待つ間、人工心臓に頼る患者も多くいます。しかしその機能は本物の心臓にはかなわないと言われます。 現実に心臓を2つ抱える人は確かに居る訳で、その患者達の安全とQOL確保の為に、イカの心臓の研究は有用であると私は信じます。

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前述の松本元博士は、コンピューターのような人工物の開発にあたって、天然の生物に学ぶ事が重要であるという考えの研究者でした。

実際、イカひとつみても、実に多くの研究のヒントがあると私は思います。

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最後に疑問に思う点は、イカから抽出できるタウリンです。

スルメの表面に白い粉がついていますが、あれがタウリンです。世の中の栄養ドリンクは、タウリン1000mg配合・・などと麗々しく宣伝しますが、なんのことはない、粉をふいたスルメのその表面の粉を集めて1g分ビンの中に溶かしたということです。

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そう聞くと、サッパリありがたみが無くなって詰まりません。

しかし、そこで疑問が湧きます。活力の源タウリンですが、人間は自分の体内で合成できるそうです。 つまりスルメをしゃぶらなくても、リポビタンDを飲まなくても死にはしません。 しかし、ネコは体内でタウリンを合成できないそうです。 つまり、ネコは外からタウリンを摂取しなければ、病気になってしまいます。 だからネコこそリポビタンDではなくて、リゲインでもユンケルでもなくて、スルメを食べる必要があるのです。

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しかし、一説にはネコはイカを食べると腰が抜けるとか、病気になるとか死んでしまうと言います(本当かどうか、確認することもできませんが)。

ネコにとっての必須アミノ酸であるタウリンをイカから摂ろうとすれば、死の危険、タウリンを取らなくても、死の危険・・というのでは、ネコにとってはつくづく因果な話です。

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神がなぜネコをイカを食べられない体質に創りたもうたかはわかりませんが、ちょっと意地悪です。 そしてその体質は、ネコ科全体に共通するものなのか? 街中では、焼酎のコップを片手に、スルメを囓っている大トラを見かける事がありますから、ネコ科全体ではないようにも思えますが、自信がありません。


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