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【 B-787 】 [航空]

【 B-787 】

先日、ある機会を得て弥富市にあるK重工の工場を見学する事ができました。

この工場では、最新鋭機B-787の前部胴体を製作しています。

実は、伊勢湾の奥にはK重工やM重工の宇宙航空機の製造部門が並んでおり、ちょっとした航空機産業のメッカなのです。

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特別のご厚意によって実現した見学ですが、内部は企業秘密の塊まりですから、本当に重要な部分は見せてもらえません。勿論写真もダメです。B-787用に建設された新工場の中は入れず、旧工場の方だけの見学となりましたが、それでも驚きの連続です。

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この会社の工場は、その昔、B-767の胴体の生産を開始した時に、それ用に作られました。

その後、B-777用の新しいラインを設け、そして最新のB-787用に新しいラインを設けています。 新工場はB-787専用工場とのことですが、旧工場の中にもB-787の製造工程があり、それを見学できたのです。防衛省向けの需要が先細りの中、宇宙航空機部門の社運を掛けて建設した新工場ですからB-787の完成が3年も遅れた事は経営上、かなりの痛手だったに違いありません。

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それはともかく三世代の機体の製造ラインを比べる事ができるのは、幸運です(もうB-767の製造ラインは無くなっていましたが)。 多くの発見がありました。

第一には、B-777B-787の製造ラインには共通性がなく、それぞれの製造ラインは完全にその機種専用になっていることです。

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飛行機の胴体は、円形の断面を支えるフレームと、前後方向を結ぶストリンガーが、縦横に組み合わされます。それが障子のサンのようになって機体を支え、スキンと呼ばれる壁が外側に貼られます。 その構造自体は、B-777B-787も同じですが、フレームやストリンガーの形状は全く違います。第一、素材が違います。 B-777はアルミ合金ですが、B-787は複合材料です。

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でも胴体の基本的な構造が同じなら、組立工程には共通点があり、兼用できる設備もあるだろう・・と素人の私は思います。しかし実際は違います。

まず何より素材の違いが重要です。

リベットの種類も接合方法も、非破壊検査の方法も全く違います。

孔を開けるための切削加工の方法も異なります。だからB-777B-787で、胴体の製作工程に共通点は無いのです。

B-787はちょうど素材が金属から複合材料に転換する大変革の時期の機体であり、この次の新型機も複合材料が多用されると思われます。それならその機体の組立には、現在のB-787の生産ラインが使えるのではないか?という期待もありますが、そう簡単ではないようです。 

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胴体直径が違えば、多くの装置が流用できないのです。

胴体の組立は、「八つ橋」と呼ばれる反りのある長方形の部材を、マンドレルと呼ぶ円筒形の架台に貼り付ける形で行われます。 これはB-777B-787も同じですが、胴体の直径が違います。 B-787も2本通路の機体ですが、B-777ほど大きくありません。 次に開発される機体がB-787と異なる胴体直径であれば、同じマンドレルは使えません。

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マンドレルだけではありません。リベット作業をするロボットも非破壊検査の装置もB-787の胴体直径に合わせて作られています。

世界最大と思われるオートクレーブ(複合材料を熱処理する設備)もB-787の胴体直径に合わせています。

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つまり、多くの設備はB-787専用になっており、約1000機と思われるB-787の生産だけで投資を回収せねばなりません( 今後受注機数が増える可能性はありますが)。 これは大きな問題です。

今、自動車産業をはじめ、多くの組立産業では多品種対応が課題になっています。

単一品種を大量に効率よく組み立てるのではなく、多品種が工程に混在しても、段取替えのロス時間を最小限にして、最適な生産計画を実行するのが常識です。

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それなのに、部品点数が自動車よりはるかに多く、一方で生産台数がはるかに少ない航空機産業で、単一品種固定生産のスタイルを取っているのは不思議です。

ボーイングのやり方でしょうが、ちょっと理解できません。

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生産ラインを機種毎に専用化するということは、一度生産を終了したら、生産再開が容易ではない事を意味します。 専用設備を撤去・廃棄してしまえば、もう生産できません。設備を復活させるには、莫大な費用と時間がかかるはずです。

これも大きな問題です。実際に起こっている例を挙げます。

1.B-767は既に生産を終了しており、追加生産はできませんが、日本の航空自衛隊は、B-767をベースにした早期警戒機や空中給油機を小数ずつ導入しています。将来それらの機体が消耗した場合、追加発注して補填したいところですが、既にB-767の生産ラインを閉じているので現実には不可能です。

2.日本のF2戦闘機は、先の大震災の津波で多くの機体が失われました。その分を新規に製造して補充したいところですが不可能です。なかなか決まらない次期主力戦闘機の穴を埋めるためにF2戦闘機を増やす事も考えられますが、それもできません。 既に生産ラインを閉じているからです。

3.次期主力戦闘機FXの候補として、以前日本で最有力視していたのは米国のF-22でした。しかし、米国の議会はそれを認めず、生産ラインも閉鎖してしまいました。

その為、F-22の採用は完全に不可能になってしまいました。

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航空機の生産ラインを固定し、柔軟性を持たせない方式には様々な問題があります。そして、かつて世界中に数多くあった航空機メーカーが、倒産や合併によって、わずか数社に集約されていった背景にはこの生産システムがあると、私は思います。

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そして、もう一つの問題は、非常に進歩した生産ラインのロボット化や自動化です。

これは品質のばらつきを無くすためには最適の方法であり、トレーサビリティの観点からも適切な方法です。

しかし、設備さえあれば、誰でも製造できるという事であり、どの国の工場でも設備を据え付ければ製造できるという事です。 一方で日本の製造業が強みとするのは、熟練した作業者の技能や、品質管理についての厳密な考え方です。

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生産ラインのロボット化、自動化は、日本の特長を殺す方向を目指すものであり、この導入には注意する必要があります。これがボーイングの意向であるとすれば是非もありませんが、そうなると、ご近所で純国産のジェット旅客機MRJを開発するM重工はどうなのか?と考えてみたくなります。

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MRJは胴体の一部を複合材料からアルミ合金に戻すなど、設計の見直しが進んでいますが、部品調達は全世界から考えており、日本企業固有のノウハウや技術には興味を持たないのかも知れません。

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短時間の工場見学でいくつもの疑問が湧きましたが、ご好意で見学させていただいた手前、不躾な質問もできません。

最後に戻った工場の入口には、B-787B-777の窓の付近の実物が展示されています。

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見学者はそれぞれ手にとって、複合材料製の部品が軽い事に驚いていましたが、私は全く別の事を考えました。ご承知の通り、B-787の窓はかなり大きいのです。

B-787の窓は大きい。これなら、万一上空で窓が割れた時、窓側に座っている人は吸い出されるかも知れない・・・」

窓が割れて、乗客が吸い出されるという戦慄すべき事故は、過去に発生しています。

被害者はかなり小柄な男性だったのだろうと思いますが、B-787ならかなり大きな人でも吸いだされる可能性があります。

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「この窓の大きさは危険かも知れませんね?」と尋ねる私に、

「窓が割れる可能性は非常に低いです。それにもし割れても、オヒョウさんなら、この窓から吸い出される可能性はないでしょう。 しかし詰まる可能性はありますね」

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実は私にはそれが一番怖いのです。自分が壊れた窓を塞ぐ形で、機内の与圧状態を維持できるなら本望ですが、自分は多分助からないでしょう。 それどころか窓に詰まった私の体がどうにも抜けなくなるという、みっともない事態だけは避けたいのです。

B-787では少なからず、その可能性があると私は思うのです。


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コメント 4

きりん321

767の生産ラインはまだ閉じていません、

昨年ん12月にはふぇデックスが30期近く受注しましたし、アメリカの空中給油機もこれから生産するので少なくとも十年ぐらいは生産ラインは残っていると思います、
by きりん321 (2012-01-07 16:08) 

笑うオヒョウ

きりん321様 コメントありがとうございます。
お返事が遅くなり申し訳ありません。

そうですか・・ B-767の生産は続いているのですね。 日本の空中給油機や早期警戒機がB-767をベースにしているのを見て、今後生産ラインが途絶えるのに、それでいいのか?と思った記憶がありますが、米国でも空中給油機にB-767を使用するのですね。KC-10はともかく、KC-135はさすがに老朽化しているでしょうから、世代交代が必要なのはわかります。
それにしても、B-787は、B-767の世代交代用と聞いていますから、両者が同時に生産されることは、多少奇異に感じます。 B-787の生産がなかなか本調子にならないから、B-767を希望するお客もいるということなのでしょうか? 

またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2012-01-11 18:53) 

きりん321

普通旅客機を作ってから貨物機を作離m巣、そのために767の貨物は細々と受注が続くのではないかと思います、
by きりん321 (2012-01-11 19:40) 

笑うオヒョウ

きりん321様 コメントありがとうございます。

なるほど、B-767の貨物機の需要ですね。 昔、FEDEXが大量のB-727を持っているのを見た事があります。 それらはさすがに引退したでしょうが、その代わりとしてB-767は適当でしょうね。

それから、航空機リースの業界で非常にB-767の評判がいいというのを聞いた事があります。B-747やB-777では大きすぎるし、B-737では小さすぎるし、B-757は細すぎて不人気だし・・ということでB-767の需要は高いのだと思います。 B-787は貨物機に使うにはもったいないし・・。

またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2012-01-11 22:36) 

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