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【 津波とオオカミ少年 】 [雑学]

【 津波とオオカミ少年 】

大災害や大事件があると、しばらくは救援や復旧や回復が最優先で行われますが、やがて時間が経つと、原因や対策、再発防止について議論がなされます。 原因と責任はどこにあったのか?反省すべきは何か?という確認が必要な訳で、日本社会はその総括をまじめに行う社会だと思います。

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問題は、その反省を忘れた頃に、再び災害が発生する事で、 「 天災は忘れた頃にやってくる 」というのは、その通りです。 東日本大震災の後、津波対策として、堤防を嵩上げするとか、住宅地を高台に移転し、低地には居住地域をつくらない・・という対策が進められていますが、簡単ではありません。 なにせ、相手は1000年に一度の大津波です。子孫に災害を教え伝えても、1000年先まで、ちゃんと伝承されるかは疑問です。 いま、津波の被災地では大堤防を造っていますが、1000年後までその堤防が持つはずはなく、定期的な補修が必要になりますが、それが維持できるか?が問題です。あるいは今回、居住地として不適とされた低地に、将来に亘って住宅建築を阻止できるかがポイントです。

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ところで、もう一つ反省しなければならないのは津波研究と津波報道の問題です。 ご記憶の方もあると思いますが、東日本大震災の前から、日本では津波の可能性がある地震の場合は、マスコミで大々的に報道していました。 多分スマトラ沖大震災(2004)の惨禍で、津波の危険性がクローズアップされたからだと私は思います。 (当時、私は中国にいたので、正確なところは分かりませんが)。

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日本海中部地震(1983)や北海道南西沖地震(1993)でも、大規模な津波災害があったのですが、その後津波警報が大々的に電波で報じられた記憶はありません。 ほぼ10年おきに発生した津波の被害ですが、スマトラ沖大地震は特に大きかったのです。

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その結果、どうなったか?といえば、全く被害の無い小規模な津波まで、大きく報道されました。 太平洋の彼方で中規模の地震があり、太平洋側だけで津波の懸念がある時も、日本海側で放映するTV番組の画面の多くを塞ぐ形で津波警戒区域の表示が出され、それが何時間も続くのです。 私は日本海側でTVを見ながら、全く邪魔な津波注意報の表示画面を苦々しく思ったものです。

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そして多くの場合、津波警報が発令されても、観測できるかできないか・・といった小規模の波が確認されただけです。 どこどこの港の潮位が10cm上がり、津波の到来を確認した・・なんていう申し訳みたいなニュースが報道されて終わりです。

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しかも不可解な事に、津波の到着時刻がはっきりしません。何時何分頃、潮位の変化を確認したので津波が到着した模様・・なんて変な報道があってから、何十分も津波警戒のメッセージが画面から消えません。 この全く確信のない、要領を得ない発表は何なのか?

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私は、地震の度に大げさに津波の警戒を訴える報道の一方で、小さな波しか潮位変化しか観測されない事態が続くと、オオカミ少年のようになり、やがて誰も津波警報や津波注意報を重視しなくなるのではないか?と少し心配になりました。

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今回の大震災は、直前の地震も極めて大規模だったため、津波も巨大になると多くの人は予想したはずですが、現実には、避難が遅れた人、あるいは避難しないままだった人が相当数いた事を考えると、津波警報をオオカミ少年のごとく感じた人がいた可能性があります。

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それにしても、不思議なのは津波予報の精度が低いことです。 地球の自然現象の中で、地震の予知は難しくほぼ不可能です。大気の状態から予想する気象予報は地震よりは容易でしょうが、複雑系・・と言える面もあり、やはり難しいようです。 地球シミュレータというスーパーコンピューターを駆使しても外れる事があります。

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それに比べると、津波の挙動予測はかなり簡単なはずです。 海面を伝播する波の挙動は、古くから研究され、解析的に解かれているからです。 波の進行速度や波高を決める上で、水深は重要ですが、今日、海図が整備された太平洋で未知の部分はそう多くありません。

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海面の波を解析的にとらえて大別すると、トロコイド波とストークス波に分かれます。 比較的に深い場所で観察されるトロコイド波は、波の中で物体としての水が鉛直面で円運動をしているもので、基本的に水面の物体は流されません。例えば、海水浴の際、背が立たない深さで泳いでいると、自分が円運動している事に気づきます。そして波に揺られはしますが、波に流されはしません。 それがトロコイド波です。

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一方、浅いところで、ある方向に物体を押し流すのが、ストークス波です。 トロコイド波もストークス波も、線形運動であり、解析的に精密な解が得られます。

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それなら、太平洋を越えてくる津波だって、その速度や波高は精密に計算され(勿論スーパーコンピューターは必要ですが)、海岸への到着時刻とその波高は、より厳密に予想されているはずです。 それならオオカミ少年のような間抜けな津波注意報も津波警報も発令されないはずです。 しかし、現実はそうではありません。 もっとも精確に予測できるはずの津波の予測ができません。 それはなぜか?

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これは多分、波の運動が線形ではなく非線形だからです。厳密な解析解を得にくいのです。 かつて、慶応大学機械科の下郷教授(現名誉教授)は、いろいろな物理現象を研究する際、「どうか神様、すべての現象が線形でありますように」と祈ったそうです。 その気持は、佐藤力教授の「非線形振動論」を学んだ者にはよく分かります。

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実際には、多くの現象はミクロ的に見れば線形です。もしくは線形に近似できます。 逆に線形と思っても、超マクロ的に見ればたいがい非線形です。 これは当たり前で、道路だって線路だって、私の性根だって、ごく短い区間で見ればまっすぐですが、遠くまで見れば、ねじ曲がっています。 このお陰で数値解析で用いる差分法や有限要素法は、非線形な現象を、線形計算の近似で表せるのです。

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海の波も、海水浴や船の周囲で見る限り、線形ですが、太平洋を横断するとなれば、非線形でしょう。 実は、トロコイド波の延長上にある、非線形の波をクノイダル波と言います。 一方、ストークス波の延長にある非線形の波をクラッパー波と言います。 ここではクラッパー波を考えませんが、深い大海原に存在する波は、クノイダル波だと私は考えます。

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そして、クノイダル波の非常に特殊な状態が、ソリトン波(孤立波)です。 ソリトン波は非線形振動論を学ぶ者には、もっともポピュラーな存在です。 二次元の表面波としてのソリトンは、ずっと遠くまで減衰せず、波高を維持して同じ速度で進行します。多くの物理現象が時間の経過とともに発散し減衰するのとは違います。 私は地球の裏側や、太平洋の沖合から押し寄せる津波こそ、典型的なソリトン波だと考えます。

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今回の大震災の際、沖合に脱出する巡視船が大波を乗り越える様子がTVで紹介されました。 私はあれを見て「ああ、これはソリトンではないか?」と意を強くしました。 解析解を求めるのが困難な非線形方程式ですが、ソリトン波の場合、KdV方程式で表されます。だから解析的に計算できるのですが、パラメーターを少し変化させると、たちまち解は発散し、全く違った解になります。 だから、津波の予測は難しいのか・・。

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しかし、自然現象が非線型だからシミュレーションできませんとか、予測できませんなどと、眠たい事を言う事は許されません。 非線形の現象を3次元ダイナミックでむりやり計算するのが、今の数値解析手法であり、スーパーコンピューターです。 地球シミュレータに匹敵する高性能計算機を駆使すれば、オオカミ少年みたいな無茶苦茶な津波注意報は発令されず、その結果、多くの人の命が助かったかも知れません。

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今、政府は地震予知などにお金をかけるよりも、津波の予測精度をあげる事にお金と研究者を投入すべきです。 現在、ハワイには太平洋津波警報センターがあります。インド洋にも同種のものがあるかも知れません。 しかし、これは、観測した津波情報を伝達するだけの連絡機関です。コンピューターで計算して、津波の正確な規模と到着時刻を示すものではありません。

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私は、スーパーコンピューターを駆使して環太平洋諸国に精確な津波情報を提供するシステムを構築すべきだと思います。そしてオオカミ少年報道をなくすべきです。

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ええっ? 事業仕分けでスーパーコンピューターを切られたので、研究できないって? 仕方がない、蓮舫に、2位じゃダメなんですか?と訊かれて、経済力では中国の後塵を拝する事になった日本です。 躍進著しい中国からの津波警報に頼りましょうかね? しかし、津波が中国に達する頃に、日本に警報が流れても遅いのですがね。


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コメント 2

おじゃまま

確かに、そうですよね〜。
多分、そんなにひどいんじゃないのでしょうけど、
精度の低さ、は分かります。
あと、飛行船を使ったら?も面白く。
しかし、今回かぎりでしょうから(東北だったから、間に合ったかも
というレベルですよね?もっと別の地方なら・・)
しかし、何にせよ、みんなが考えておくのは大事。
by おじゃまま (2011-10-23 00:26) 

笑うオヒョウ

おじゃまま様 コメントありがとうございます。

ご指摘のとおり、この様な大災害は、私達が生きている限りでは「今回きり」だと思うので、今この時点であれこれ対策を考えたり実行しても虚しい・・・という思いはあります。

でも世界中を見渡せば、大震災は2.3年に1回発生しています。 今日もトルコで地震が発生しました。なんとか防災対策の知恵を共有できないものでしょうか? と考えます。

飛行船の事については、また・・別の機会に意見を申し上げたいと思います。 またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2011-10-24 00:06) 

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