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【 DVD三昧 その3 】 [映画]

【 DVD三昧 その3 】 

私の独断と偏見で言えば、山田洋次監督は、戦後の日本を代表する映画監督のひとりと言えます(本人は戦前の生まれですが)。しかしその世評の高さと彼の作品の質には、ちょっとギャップがあります。

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シリーズ物として、世界最多のギネス記録を持つ、「男はつらいよ」は彼の代表作品ですが、それが本当に名作か?といえば疑問です。当初「男はつらいよ」は複数の監督が輪番で担当し、ある種の明確なモチーフがありました。インテリのエリートと無教養な男の対比、数少ない理解者であった恩師との別離や、周囲から疎まれる中での妹の優しさ・・。やんちゃで小児的で憎めない主人公に共感する観客によって、この映画は支持されヒットしました。(最初はTVドラマでしたが)。

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しかし、回を重ねるごとに、主人公寅さんは、物分りのよい人物になり、他人の恋の道の手助けをしたりします。依然として格好良くはありませんが、誰もが彼を愛する、ヒーロー的な存在になってしまいました。そして寅さんシリーズは恐るべきマンネリ化が始まりました。

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山田洋次自身がポツリと語っています。日本映画の凋落の中で「寅さん」だけが、良質な映画であり続ける・・と言われて、「『男はつらいよ』だってそんなにいい映画じゃないよ」と。本当に傑作なら、何十回もシリーズを続ける事はできないはずです。(小説の大菩薩峠やグイン・サーガは、超長編でも作品の質を維持したそうですが)。

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彼は東大法学部をでたエリートとして、松竹に入社しています。映画監督の世界も学歴がものを言った時代があるのでしょうか?その実、彼の大学での席次は優等とは言えず、官吏などへの就職は望めなかったのですが、松竹では大インテリです。彼がしばしば「男はつらいよ」のモチーフとするインテリと庶民との相克は、彼の出自に基づきます。

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そして彼は松竹の中で、どの監督を範とすべきかで悩みます。「小津安二郎のスノブさにも馴染めないし・・」若い頃の小津安二郎は、貧乏人や庶民の哀歓を描いていますが、戦後は上流、中流家庭の話を多く取り上げています。登場人物がみな上品で生活苦から解放された世界は、若き日の山田洋次には抵抗があったはずです。

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その後、試行錯誤を繰り返しながら、山田洋次は自分の世界を築いていきます。彼の比較的早い時期の傑作「バカが戦車でやってくる」は、完全に彼のオリジナルだと思います。

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それでも、やはり彼は他の監督の作品の影響を受け続けます。「遙かなる山の呼び声」は「シェーン」へのオマージュとも言えますし、「幸せの黄色いハンカチ」はアメリカの原作のままです。

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そして、私が勝手に彼の代表作と位置づける「家族」も他の作品を参考にしています。この作品はジョンスタインベックの「怒りの葡萄」によく似ています。「怒りの葡萄」には、強い政治的メッセージが込められていますが、「家族」ではそこをオブラートにくるみ、最後は希望を持たせる明るいエンディングにしています。しかし、長旅の途中で、家族が息絶えていく場面などはそのままです。エンディングの変更は、彼の意思によるものか会社の意向かはわかりませんが、いかにも山田洋次流です。

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また私には山田洋次の「故郷」が、新藤兼人の「裸の島」の影響を受けているように思えてなりません(ストーリーそのものに類似性はなく、明確な根拠はありませんが・・・)。

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比較的最近の「母べえ」にも、上村一夫の漫画に少し似た作品がありましたし、完全にオリジナルな映画を制作する事は難しいのかも知れません。 また、山田洋次の後期の作品には、かつて反発した小津安二郎の影響を受けた作品がいくつかあります。彼が市川昆監督へのオマージュと自ら称する「おとうと」でも、カメラアングルを見ると、明らかに小津作品の影響を受けています。そして「おとうと」の完成度をみると、残念ながら市川昆作品の方が勝っています。少し辛口の見方ですが、彼がリメイクまたはオマージュとして制作した作品はどれもオリジナルよりやや劣っています。

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いずれにしても、山田洋次はある時期から他の監督の作品を受け入れることに抵抗がなくなったのかも知れません。山田洋次があえて他の作品のオマージュやリメイクを作る理由は定かではありませんが、良質な原作の不足を、彼は訴えたいのかも知れません。

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ひょっとしたら、メロディーの枯渇が音楽産業を衰退させるように、良質なストーリー(原作)の枯渇やドラマツルギーのワンパターン化が映画界の衰退をもたらしているのかも知れません。それなら、映画界の衰退は大物監督がいないからではなく、原作の枯渇が原因だ・・という事になります。

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そのメッセージを、彼が作品の中に込めるのだとしたら、山田洋次は本物かも知れないと私は思います。


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